第680回「インドネシア高速鉄道はペイしない泥沼構造」
【11/14追補】盛況でも利子が返せない計算
中国が建設したインドネシア高速鉄道(ジャカルタ-バンドン間142.3キロ)が10月に開業し、有料化がスタートしました。建設費1兆1千億円の大半を中国国家開発銀行が40年返済・金利2%で融資しています。この金利2%部分だけを考慮しても容易に返済できない、ましてや元金は到底返せない――つまり最初からペイしない状況に置かれています。2018年に第590回「中国でペイ出来ない高速鉄道を途上国に押し売り」で指摘した悲惨な状況が出現しました。1編成597席の平均乗車率が80%と多めに見積もって試算した結果「インドネシア高速鉄道の大借金は運賃収入で返済不能」を掲げます。
日本が最初に計画した際にはジャカルタとバンドンの都心に乗り入れることになっていましたが、中国が建設したのはジャカルタ・ハリム駅とバンドン・テガルアール駅間です。ハリム駅には都心から乗り継ぎして行き着き、テガルアール駅に至っては畑の真ん中にあって都心から車で1時間です。
現地からの報道が核心を外しているので、ユーチューブのリポート《インドネシア高速鉄道 レビュー < ジャカルタ 〜 バンドン >》を頼りましょう。ハリム駅への乗り継ぎは時間が掛かるのでバイクタクシーで400円かけて移動、高速鉄道運賃は11月中の割安運賃15万ルピア(1410円)です。ハリム駅から高速鉄道に30分乗ってパダララン駅で下車、在来線に乗り継いで20分でバンドンです。この割安運賃は3時間程度かかる在来線やバスを利用した場合より少し割高になる程度です。
正式な運賃はまだ発表されていませんが、2倍の30万ルピア(2820円)が少し前まで言われていました。運行本数も現在の1日14本から18〜25本に増やす意向があるようです。
運賃を倍増し1日25本まで運行を増やしても年間旅客収入は122億円にしかなりません。建設費の中の1兆円に年2%の利子がかかるのなら200億円が必要になり、2倍の運行をしないと足りません。現状は2時間に1本、のんびりした運行ですが、1日50本だと1時間に2本と過密になります。それが出来ても通常の運行運営経費を賄い、元金40年250億円を返済するには到底足りません。
中国製の高速鉄道に日本のような安全システムが完備しているのか疑問があります。第599回「トルコ高速鉄道事故は安全系無しでの運行に起因」で、中国が海外で最初に建設したトルコ高速鉄道が9人死亡、47人負傷の大惨事を起こし、安全系が無かったために検査用車両に高速鉄道列車が衝突したと伝えました。安全システムを造ればその訓練だけで大変です。やっつけ仕事のインドネシア高速鉄道にあるとは思えません。そうならば過密運行は大事故の元です。
時速350キロを出して日本の新幹線より速いと騒いでいますが、350キロを出すとブレーキを掛けてから止まるまで6キロも走ります。日本は4キロで止まるように速度制限を掛けているのです。インドネシアも日本同様に地震国です。異常を目視してから停止する従来鉄道の常識が通じない高速鉄道の怖さを知らぬ能天気ぶりに呆れます。
日本が計画していたころはインドネシア政府が応分の財政負担をした上で、年利0.1%と破格の融資が考えられていました。「インドネシア政府の負担は不要で、民間ベースの建設・運営をする」との中国側の甘言に踊らされ、出来てしまったら今日の手の施しようがない惨状です。収入を増やすためにも700キロ遠いスラバヤまで延伸したい意向がありますが、日本はもちろん相手にせず、中国と調査するとの報道がありました。底なしの泥沼へです。
【ラオス中国鉄道と中国の120兆円債務】
単線で最高時速160キロと高速鉄道の範囲には入りませんが、ラオス中国鉄道が2021年末に開業しています。ビエンチャン駅からボーテン駅まで406キロ、さらに中国国境までの422キロ。中国国境から雲南省昆明駅まで613キロはほとんどが複線です。ビエンチャンから南へ伸ばしてタイに入り、マレーシア、シンガポールへと「一帯一路」構想で繋げたい――中国の野望が造らせた路線です。
総工費8900億円で、産経新聞《中国「一帯一路」10年 「中国式」鉄道開通のラオス、過大な債務負担に直面》によると《6割に当たる約35億ドルは中国輸出入銀行からの借り入れだ。ラオス側は債務の政府保証を行っていないが、同国の「隠れ債務」になる可能性が指摘される》といいます。ラオスはアジアでも貧しい国で、上記の総工費は国家予算の2倍弱に相当します。
現状は昆明まで行く特急とラオス内の各駅停車合わせて1日に3往復しているだけです。貨物輸送も開始されているものの、とてもペイしているとは思えません。鉄道に合わせてボーテン経済特区が設けられて繁栄するはずでしたが、熱気は消えた状態だと訪れた方が伝えています。ここでも中国による無茶な押し売りが悲劇を招きそうです。
中国本土の高速鉄道自体が見境の無い増設を続けて赤字路線だらけ、120兆円の債務に喘いでいます。中国国家鉄路集団の2022年12月期の最終損益は695億元(約1兆3800億円)の赤字でした。中国で過剰生産が続いている鉄鋼とセメントの消費先ながら、危機の不動産業大手を上回る巨大債務に将来どのような始末を付けるのでしょうか。
【11/14追補】盛況でも利子が返せない計算
時事通信が11/11付《高速鉄道、平均乗車率85%超え 本数倍増でも予約困難―インドネシア》で、《往復すると、ジャカルタ居住者の平均月収(約5万7000円)の5%に達するため、当初は閑古鳥が鳴くのではないかと予想されていた。ところが、運賃を有料化した10月18日以降も予約が殺到。1日14本だった運行本数を11月1日から28本に倍増させ、9日以降は週末に限り36本に増やした》と伝えました。
11月の運賃は12月からの本番に対して半額の特別割引です。それでも盛況なのは結構なことです。1日36本は1時間に1本を超え、初めての高速鉄道運行では頑張りすぎかとも思えます。しかし、週末に限り36本を「毎日36本」に拡張したとしても、運賃倍額で平均乗車率85%の仮定でも、年間の運賃収入は189億円にしかなりません。つまり利子が返せない計算になります。
現地からの報道が核心を外しているので、ユーチューブのリポート《インドネシア高速鉄道 レビュー < ジャカルタ 〜 バンドン >》を頼りましょう。ハリム駅への乗り継ぎは時間が掛かるのでバイクタクシーで400円かけて移動、高速鉄道運賃は11月中の割安運賃15万ルピア(1410円)です。ハリム駅から高速鉄道に30分乗ってパダララン駅で下車、在来線に乗り継いで20分でバンドンです。この割安運賃は3時間程度かかる在来線やバスを利用した場合より少し割高になる程度です。
正式な運賃はまだ発表されていませんが、2倍の30万ルピア(2820円)が少し前まで言われていました。運行本数も現在の1日14本から18〜25本に増やす意向があるようです。
運賃を倍増し1日25本まで運行を増やしても年間旅客収入は122億円にしかなりません。建設費の中の1兆円に年2%の利子がかかるのなら200億円が必要になり、2倍の運行をしないと足りません。現状は2時間に1本、のんびりした運行ですが、1日50本だと1時間に2本と過密になります。それが出来ても通常の運行運営経費を賄い、元金40年250億円を返済するには到底足りません。
中国製の高速鉄道に日本のような安全システムが完備しているのか疑問があります。第599回「トルコ高速鉄道事故は安全系無しでの運行に起因」で、中国が海外で最初に建設したトルコ高速鉄道が9人死亡、47人負傷の大惨事を起こし、安全系が無かったために検査用車両に高速鉄道列車が衝突したと伝えました。安全システムを造ればその訓練だけで大変です。やっつけ仕事のインドネシア高速鉄道にあるとは思えません。そうならば過密運行は大事故の元です。
時速350キロを出して日本の新幹線より速いと騒いでいますが、350キロを出すとブレーキを掛けてから止まるまで6キロも走ります。日本は4キロで止まるように速度制限を掛けているのです。インドネシアも日本同様に地震国です。異常を目視してから停止する従来鉄道の常識が通じない高速鉄道の怖さを知らぬ能天気ぶりに呆れます。
日本が計画していたころはインドネシア政府が応分の財政負担をした上で、年利0.1%と破格の融資が考えられていました。「インドネシア政府の負担は不要で、民間ベースの建設・運営をする」との中国側の甘言に踊らされ、出来てしまったら今日の手の施しようがない惨状です。収入を増やすためにも700キロ遠いスラバヤまで延伸したい意向がありますが、日本はもちろん相手にせず、中国と調査するとの報道がありました。底なしの泥沼へです。
【ラオス中国鉄道と中国の120兆円債務】
単線で最高時速160キロと高速鉄道の範囲には入りませんが、ラオス中国鉄道が2021年末に開業しています。ビエンチャン駅からボーテン駅まで406キロ、さらに中国国境までの422キロ。中国国境から雲南省昆明駅まで613キロはほとんどが複線です。ビエンチャンから南へ伸ばしてタイに入り、マレーシア、シンガポールへと「一帯一路」構想で繋げたい――中国の野望が造らせた路線です。
総工費8900億円で、産経新聞《中国「一帯一路」10年 「中国式」鉄道開通のラオス、過大な債務負担に直面》によると《6割に当たる約35億ドルは中国輸出入銀行からの借り入れだ。ラオス側は債務の政府保証を行っていないが、同国の「隠れ債務」になる可能性が指摘される》といいます。ラオスはアジアでも貧しい国で、上記の総工費は国家予算の2倍弱に相当します。
現状は昆明まで行く特急とラオス内の各駅停車合わせて1日に3往復しているだけです。貨物輸送も開始されているものの、とてもペイしているとは思えません。鉄道に合わせてボーテン経済特区が設けられて繁栄するはずでしたが、熱気は消えた状態だと訪れた方が伝えています。ここでも中国による無茶な押し売りが悲劇を招きそうです。
中国本土の高速鉄道自体が見境の無い増設を続けて赤字路線だらけ、120兆円の債務に喘いでいます。中国国家鉄路集団の2022年12月期の最終損益は695億元(約1兆3800億円)の赤字でした。中国で過剰生産が続いている鉄鋼とセメントの消費先ながら、危機の不動産業大手を上回る巨大債務に将来どのような始末を付けるのでしょうか。
【11/14追補】盛況でも利子が返せない計算
時事通信が11/11付《高速鉄道、平均乗車率85%超え 本数倍増でも予約困難―インドネシア》で、《往復すると、ジャカルタ居住者の平均月収(約5万7000円)の5%に達するため、当初は閑古鳥が鳴くのではないかと予想されていた。ところが、運賃を有料化した10月18日以降も予約が殺到。1日14本だった運行本数を11月1日から28本に倍増させ、9日以降は週末に限り36本に増やした》と伝えました。
11月の運賃は12月からの本番に対して半額の特別割引です。それでも盛況なのは結構なことです。1日36本は1時間に1本を超え、初めての高速鉄道運行では頑張りすぎかとも思えます。しかし、週末に限り36本を「毎日36本」に拡張したとしても、運賃倍額で平均乗車率85%の仮定でも、年間の運賃収入は189億円にしかなりません。つまり利子が返せない計算になります。