団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第9回「2つの動燃事故に見る目標喪失」 (97/07/03)

 '95年12月の動力炉・核燃料開発事業団(動燃)高速増殖炉「もんじゅ」(28万キロワット)でのナトリウム漏れ事故に続いて、'97年3月、東海事業所の使用済み核燃料再処理工場アスファルト固化処理施設で火災・爆発事故が発生した。事故の重大さに加えて、所管する科学技術庁に虚偽報告を繰り返してはたまらず、動燃改革検討委員会が設けられた。その座長見解で「経営の不在」が言われ、7月第2週に開かれる検討委には新組織へ改編のための科学技術庁案が示されそうだ。しかし、相次いだ2つの動燃事故の病根は、構造的で深いものではないか。それは動燃が負わされた使命を理解していないか、あるいは目標の喪失にあることを、政治を離れ、技術の視点で考えていきたい。

◆問われた金属疲労の知識レベル

 もんじゅ事故は、ナトリウムが流れる2次系配管で、温度計のさや管が折れて起きた。700キロのナトリウムが漏れだして周囲の水分と反応、火災になった。ナトリウム漏えい拡大を防ぐため、事故の配管からナトリウムを抜き取る操作は、3時間7分後に開始され、1時間20分で完了した。しかし、事故が発生した部屋の換気空調システムが自動停止したのは、事故発生3時間27分後で、それまで燃えるに任せる状態だった。ナトリウム火災は部屋の酸素が無くなったために鎮火した。

 現場のビデオ撮影や、その後のビデオテープ隠しなどはこれに続いてあったのだが、今となっては一番の問題は、なぜ温度計のさや管が折れたか、しかも、何十もあるうちの1本だけがか、にある。

 科学技術庁がまとめた「'96年5月の報告」と、「'97年2月の報告」とが一応の答えになっている。

 「'96年5月の報告」の段階で、折れた原因は金属疲労と分かった。毎秒何メートルもあるナトリウムの流れの中に置かれたさや管が、かなり大きな振動を繰り返してぽっきり折れた。「漏えい発生原因」の「設計時に行われた評価」が一番詳しく説明してくれる。「ナトリウムの流れに起因する振動に関して、メーカーはカルマン渦の影響を受けないことの解析を、米国機械学会(ASME)の基準(1974年制定の基準:ASME-PTC19.3)を参考にして行ったとしている」。流れで起きる振動そのものは防げないが、さや管の設計を工夫して固有振動数を流れの振動数から十分離しておいてやれば、破壊をもたらすようなことはない。

 ここで二重のミスが起きた。米国機械学会の基準は滑らかな形状をした管について作られていたのに、もんじゅのさや管は太い管の先に細い管を付けた段付き構造だった。こういった不連続な構造が要注意なのは、大学で材料力学を学んだ学生なら誰でも知っている。しかし、動燃の担当者は設計に異を唱えなかった。さらに、設計が済んだ'91年に、米国機械学会は方向が90度違う振動に対しても防護が必要と考えて追加の基準を出した。もんじゅで起きた破壊の振動はこちらのほうだった。「メーカーは、社内にASMEの基準を入手、管理する部局を持ち、この資料を入手していたものの、抗力方向の振動の記載があることを、温度計設計の関係者が認識したのは、漏えい事故後の調査においてであった」。

 では、なぜ1本だけ折れたか。「'97年2月の報告」はさや管に差し込まれた温度を測るための熱電対が、図らずも振動を抑制するスタビライザーの役目をしていたこと、折れたさや管に限って、動燃に無断で熱電対が交換され、そのときに無理にねじ込んでしまったために振動抑制が薄かったこと、などを原因と説明している。

 一連の事故の経過と、報告書をめぐる地元や批判グループの反応などは、地元福井新聞が「高速増殖炉もんじゅ情報」に記事を収録している。現場の惨状写真に事故の重みを感じる。

◆爆発の原因はなお不明

 アスファルト固化処理施設での火災・爆発は原因がよく分かっていないという点では、もんじゅの場合より深刻だ。

 動燃はつい先日、6月26日に科学技術庁事故調査委に「マニュアル通りの消火作業をしなかったのが爆発につながった」とする報告書を提出した。「動燃ニュース」は具体的な事故関係資料類をほとんどインターネット上に提供しておらず、この報告書もまだ読めない。新聞やテレビ報道からだけの理解では「空気の供給を止めてから消火すべきだったのに怠ったため、火災で発生したすすなどが排気フィルターに詰まり、排気が出来なくなった。そのために鎮火不十分なドラム缶から発生し続けた可燃ガスが溜まって爆発した」との筋書きになる。

 科学技術庁による、5月8日の原因調査中間報告を読むと、この動燃の報告には疑問が生まれる。「爆発発生原因の調査状況」はいろいろな種類の爆発の可能性を検討した後で、現場の換気状態について記す。「火災発生後における現場作業の状況等によると、火災発見から10数分後までに、アスファルト固化処理施設建屋換気のレッド(セル)系のフィルタが目詰まりを起こし、排気ブロア出口側のダンパ(逆止弁)が閉になった」「当該換気系の給気側及び排気側の換気ブロアを手動で停止した」「セル内の圧力は外側よりも高くなっていたため、外部からの空気の流入が抑えられ、セル内は火災発生直後からしばらくの間は、いわゆる酸欠状態又は窒息状態になっていたことも考えられる」。

 可燃ガスがいくら溜まっても酸素が無ければ爆発しない。これも理系の学生なら知っていることだ。1分ほど水噴霧しただけで消火したことにして退避してしまうくだりなど、読んでおいてほしいところ。動燃の虚偽報告などについては、地元の県議が作っている「動燃東海爆発事故アーカイブ」が詳しい。

◆外された機関

 もんじゅ事故の'96年5月報告で「科学技術庁として反省すべき点」は「動燃は、我が国の核燃料リサイクル確立のための中核的研究開発機関として、ナトリウム取扱い技術をはじめ、最も高度な自主保安能力を期待されている機関である。しかし、今回の事故では、温度計の不適切な設計を見過ごしたこと、事故の拡大防止について的確な対応をとらなかったこと、事故時の対外対応に不適切な点があったこと等が明らかになるとともに、組織運営面においても十全でない対応がみられた」と述べる。

 本当に中核的な機関なのか、私の提起したい疑問だ。

 核燃料サイクル2大柱の1つ、高速増殖炉で原型炉「もんじゅ」は建設したが、商業ベースの炉となる実証炉の建設は、'86年段階で日本原子力発電に委ねられた。「高速増殖実証炉の開発について」にあるとおり、それは「もんじゅ」の単純な延長にはない。フランスのタンク型炉の影響を強く受けている。最終ユーザーにならねばならない電力業界は「パイプのお化け」とも呼ばれるループ型「もんじゅ」の不経済性を早くから批判していて、炉型を変えたいとのアドバルーンを繰り返し上げてきた。「かなり違う炉型になるのだから、いきなり実証炉は無茶で、もう一度原型炉を作り直すべきだ」との良心的な意見が出ている。

 そのフランスに左翼連合政権ができて、ジョスパン首相は6月19日、施政方針演説で「費用がかかりすぎ、成功の見通しが不確かな計画を推進するわけにはいかない」と、世界唯一の実証炉「スーパーフェニックス」(120万キロワット)を廃止する方針を明らかにした。「もんじゅ」にまだ何が潜んでいるか分からないように、この炉の建設途上の危うさを見た経験から、何があるか分からないと考えている私は、合理的な判断だと思う。

 もう1つの柱、核燃料再処理は本格的な工場が青森・六ヶ所村に建設中だ。これも、もちろん運営主体は電力業界系の日本原燃である。「平成5年版原子力白書」のとおり、この民間再処理工場はほとんどの工程をフランスなどから技術導入してつくられる。「高レベル放射性廃棄物ガラス固化施設は動力炉・核燃料開発事業団の開発した技術を用いることになっている」と気遣いがあるが、特に優れた技術との評価も聞かない。動燃再編の動きの中で、「もんじゅ」と再処理工場の民間移管の話が出たが、電事連はいずれも断った。

 こうみてくると過去10年余り、動燃は明日につながるものを持たない「外された機関」として、惰性で時を過ごしてきたのではないか。核燃料を扱っているために極端な秘密主義をあらわにしてはばからないのに、先端に立っている者のテンションの高さは感じさせない。環境変化に柔軟に対応せず、こういう経営方針にしてしまったのは、疑いもなく科学技術庁である。



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