団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第10回「麺・グローバルから極私まで」 (97/07/10)

 日本語によるホームページ450万URL以上を含めて現在、5,600万URLもカバーしている検索システム「goo」が登場したのは、つい春先のことだった。この連載でのデータ収集は6割ほどをgooに頼っていると思う。そのgooで、キーワードを「そば」で検索すると33,800ヒット、「ラーメン」だと24,700ヒット、「うどん」だと13,400ヒットに達する。「野球」や「ゴルフ」といったメジャースポーツなみの関心を、インターネット上で表明されている麺類。その魅力を、このコラム風のやり方で探ってみたい。

◆戦後日本が生み出した…

 インスタントラーメン大百科と謳っている、業界の公式ページ「即席麺家頁」は、足を運んでみると相当に時間をかけても飽きない場所だ。'58年のチキンラーメン誕生に始まる草創期、'71年のカップ麺登場やその後の生タイプ麺に至る歴史や、製造工程、成分解説などの「明解麺通事典」だけでも相当なボリュームがある。あちこちありすぎて疲れるという方には、歴史を一目で見渡せるページがある。ここのグラフは国内で年間52億食も消費される即席めんの世界が、平成に入ったところでカップ麺が主流になり、生タイプが新興勢力になった様を映していて納得もの。

 袋入り麺は調理して、つまり野菜や卵、肉か何かを追加して食べるものだ。ところが、カップ麺はお湯を入れ、指定を守る限り同じ味の同じものができる。ここに批評の可能性が生まれる。インターネットで盛んに味の批評がされていることに気付くが、1つだけ例を挙げるならば「お品書きと独断と偏見による評価」だろう。200タイトル! なかなか的確だ。

 即席めんは世界中に輸出され、国内メーカーが海外に進出しただけでなく、'70年代からは欧米・アジアの現地メーカーによる生産が急拡大した。「WWR(World Wide Ramen)」は地球規模での味のレポートをしてくれ、珍品も数多い。一目分かりが好きな人には「各国のインスタントラーメン事情」

 送り手のメッセージを受け手に渡す「器」をメディアと定義するなら、戦後日本が独自に生み出したメディアの双璧は、ビデオと即席めんではないか。ビデオのおかげで、これだけ映画館が減っても映画は批評の対象となっている。即席めんの味は東京からニューヨークに運んでも変わらない。外国の人はどう味を受け止めているのか、と思って米国日清食品のサーバーで米国で売られている製品をのぞく。何せ「即席麺家頁」で「世界ラーメン協会」設立趣意「東京宣言」は言う。「全世界に普及し、年間消費量は約400億食(日本即席食品工業協会推定)に達しました」。

◆町々から村々から

 そばの「goo」ヒット件数が多いのは、国内のほとんどのところが産地と言えるほど広く作られているからだろう。信州そばの知名度に敬意を表して、まず「信州そば談義」。そばの茎が赤いのと、たった75日でできるわけの昔話もいい。郵便局のふるさと小包で利用が多いという越前そばからは「だれもが手打ち名人越前そば道場」で手打ちを学ぼう。「そばの話」など、個人的な含蓄に富んだページが多い。

 そばに比べると、うどんのほうは産地が狭い。香川県人が圧倒的なうどん好きだというのはよく知られている。その700軒を食べ歩いて本にした「麺聖のうどんグルメの旅にようこそ」がお奨めページ。麺聖氏は県外に「武者修行の旅」に出るのだが、そこに取り上げられているところでかなり尽くされている感じがする。その1つ、東のうどんどころが群馬だ。インターネット上では、なぜかよく知られた桐生市以外のところからのアピールが目立つ。桐生ならば川野屋を挙げておくべきだろう。作り方のこだわりが分かる。

 変わり種では、韓国の冷麺を自分のモノにしてしまった盛岡冷麺。インターネットで紹介されている麺類インデックスの一例にあるように、実にさまざまな麺が宣伝されている。

 全国各地の麺事情を考えるなら、ここは共通項である即席めんから逆照してみる手がある。年間世帯当たりの即席めん購入数量を、都道府県別に整理したデータページがなかなか面白い。ベスト5は鳥取、青森、広島、島根、滋賀。確かに麺どころではない。出雲そばはうまいが、島根県内でも局地的な印象を持つ。

◆食感の秘密を探る

 味の話をするのに「テクスチャー」というキーワードが不可欠になっていることを、ご存じだろうか。インターネット上ではまだ食品物性分野の研究者が仕事を紹介するページを持つことが少ないのが残念だが、大阪市立大の「インターネット講座'97」に、生活科学部の西成勝好教授による「食品の物性とゾルーゲル転移」が登場した。その冒頭部分の一節。「米国ゼネラルフーズ社のSzczesniakらは、74種類の食品の名称を100人に提示し、連想法による反応を収集整理した。その結果、テクスチャーは食品の嗜好特性の評価の30〜40%を占めるとされた。テクスチャーとは目および口中の皮膚または筋肉感覚で知覚される食品の性質で、粗さ、滑らかさ、粒状感などを含むと定義されているが、特に口あたり、歯ごたえ、のどごしなど口腔内で感覚される物理的性質の総体ということができよう」。

 お茶の水女子大グループによる国内の追試でも、これを確認し、「食感要素の中で、テクスチャーが最も重要であることが、認められた」。西成教授の講義はこの後、麺ではなくて、マヨネーズとかケチャップとかの物性の話を展開している。もしもあなたがマヨネーズ好きなら、マヨネーズの山を舌でなめるとき、何かはかない抵抗感がして山が崩れ舌に乗り、とける、その感触が甘い酸味とないまぜになっていることを直感的に理解されると思う。ねばねばぐちゃぐちゃの納豆など、舌の味蕾で感じる以外のものをいくらでも思い浮かべられるだろう。

 では麺はどうだろう。話をうどんに限らせていただいて、女子短大生の卒業研究を見よう。食塩の含有率とうどんの見た目、味などの関係を追っている。食塩を「20%」にも増やすと小麦粉のタンパク成分、グルテンがぐんと締まり、見た目や色彩感は良くなる。でも歯ごたえや味のほうは塩を入れすぎない「4%」が良いという結果だ。

 微細構造から調べるとこうなる。グルテンはうどんの中に網目構造を張り、ちょうどいいゆで加減になると、表面に数十分の1ミリ前後の無数のくぼみが現れる。「つるつるシコシコ」うどんの「つるつる感」を演出しているのは、このくぼみに溜まった水分だ。ゆがきすぎると網目構造はすき間だらけ、水を含み過ぎになる。ノリ状になった部分が厚く「ぬるぬる感」になってしまう。歯ごたえがある麺の、口の中でほおの内側を叩く甘さの構造はこんな感じらしい。これは香川大グループの仕事。

 いろいろなページで美味しい話を読んだので、最後に私の生活圏内の推奨スポットをひとつだけ。大阪駅前第3ビル地下2階にある「はがくれ」だ。このシーズンになると、10日に一度は足を運びたくなる。麺聖氏が大阪踏破で納得した店だ。ただし、そこを読んでもらうと理解してもらえるのだが、大阪うどんの老舗店の麺が追うものとは違っている。食感は万人に押しつけるものではないようだ。



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