団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第16回「恐竜の夢が地に足をつける時」 (97/08/21)

 映画「ジュラシックパーク」の続編「ロストワールド」が公開されて、恐竜ブームが再燃している。恐竜の映画は昔から好きだったが、映像がこんなに自在に動き回って存在感を示したのは、もちろん初めてだ。この映画が前提にしているクローン、つまり生物の複製についても、少し前まではずっと遠くにある概念として理解する程度だった人が多いと思う。今年になってクローン羊、クローン猿誕生と続いた後だったから、もっと生身の概念に格上げされたのではあるまいか。スピルバーグ監督はヒット作「ジョーズ」のように、恐怖の源をちらちらと見せながら興奮を高めるのがうまい。「ロストワールド」では、それをした上で恐竜が登場するや、これでもかこれでもかと動き回らせる。CG映像の可能性を広げた裏方ナンバーワンは、マイクロプロセッサーの近年の高速化だろうが、動きそのものが最新の動物学的な検討に基づいていたことも忘れられない。

◆ジュラシックパークは可能か

 コハクは針葉樹から出た樹脂の化石だ。ジュラシックパークの設定では、コハクに閉じこめられていた蚊が恐竜の血を吸っていて、そこから遺伝子DNAを取り出し、欠損部分はカエルのもので補い、恐竜のクローンが出来ることになっている。虫が封じ込められたコハクの画像をあたってみた。「コハクの神秘」や、「琥珀に閉じ込められた虫たち」あたりを挙げておきたい。「交尾しているカップルあり,産卵している母あり,巨大な敵に一緒に立ち向かう3匹の仲間あり──そう,行動までもいきいきと琥珀の中に残されているのです」というのがコハク中の標本世界だそうだ。ただしホームページ上で見られる写真は限られる。

 DNAを取り出そうとする試みはコハクだけのものではなく、いろいろな化石で進められている。国内でも名古屋大で「マンモスの遺伝子から進化を知る」研究などがある。「恐竜のDNA考」に、最古DNAを遡る研究の「記録更新ぶりにも目を見張るものがある。1989年には4万年(マンモス)だったものが、1990年には、一気に1700万年(クラーキア化石層中の植物化石)に遡り、1992年にはさらに2500万年、1993年には1億2千万年(いずれもコハク中の昆虫)へと鰻登りの勢いである」とある。

 コハク中の昆虫といったわずかな標本から遺伝子を取り出す研究を可能にしたのは、'86年に開発された技術ポリメラーゼ・チェイン・リアクション「PCR」である。強いて和訳すればDNA合成酵素連鎖反応法とでも呼べるか。これに国内で最も早くから目を付けた宝酒造の「技術講習会●PCR法を用いたベロ毒素遺伝子の検出」の説明を見よう。「PCR法とはご承知のとおり、DNA増幅装置と専用試薬とを用い、目的遺伝子を2〜3時間で100万倍に増幅する技術です。この方法を用いますと、分離コロニーはもちろんのこと、増菌培養液や二次培養液からの毒素遺伝子の検出および、1型、2型ベロ毒素遺伝子のタイピングを行うことが可能で、迅速かつ非常に高感度に腸管出血性大腸菌中のベロ毒素遺伝子の検出が行えます」。病原性大腸菌O157が出す微量で強烈なベロ毒素は、流行の当初から厄介な存在だったが、この方法で早期検出の道筋がついた。実に応用範囲の広い技術だ。

 PCR法を使うと遺伝子を適当なところで切断し、複製を造りやすくしてから古生物の遺伝子をどんどん増幅して見つけ出すが、驚異的な鋭敏さ故に、不純物つまり現在の種の遺伝子が混入したらそれも大量増幅してしまう。この方法で見つかった遺伝子の真偽が問題になる。再び「恐竜のDNA考」。「実験結果の再現性も大きな問題である。現在までのところ、複数の研究室で同じ『化石DNA』を再現した例は1例もない。クラーキアの化石については、かなりの数(おそらく数100のオーダー)の材料が試されたらしいが、それらしいDNAの増幅に成功したのは、発表されている2例のそれぞれ1回だけである。コハクのものについても、同じサンプルから複数の研究室で独立にDNAを抽出する試みが現在精力的に行われているようであるが、まだ成功したという報告はない」。そして「話が数千万年前のDNAとなると、それはむしろルーレットに近いと考えざるを得ない。最新のAncient DNA Newsletterによると有名な恐竜T.rexからDNAを取り出そうという試みが米国でなされているらしい。これなどはさしずめルシアンルーレットということにでもなるのではないだろうか」と、遠藤一佳氏は否定的だ。

 現在、PCR法で得られている化石遺伝子は、生物個体からみるとほんの断片で、生き物全体を復元するなんて話にならない。

◆魅力の恐竜サイト

 いろいろな恐竜のページをすべて見た訳ではないが、行った範囲の中で魅力的なところを紹介したい。夏休みのツアーにどうだろうか。

 この連載は原則として日本語のページが対象だが、1つだけ海外の恐竜総合サイトを挙げると「DINOSAURIA ON-LINE」だろう。英語はいやだと言う人でも、本格的なイラストや化石、発掘写真の数々があるギャラリーは十分にチャーミングだと思う。

 国内では東海大(静岡・清水)の「自然史博物館」がメインで展示している全身標本骨格を中心に迫力で見せてくれる。もっとも、これは現地に行かないと本当は物足りないのだろう。ここには解説類も多く、行き届いたものがある。「福井県立博物館」が、ちょっと目には地味でも、70センチを超える獣脚類(ティラノサウルスなどの仲間)の「足跡化石」「獣脚類ドロマエオサウルス科大腿骨」など、国内ではかつて無かった発掘事物の重み、現場をもつ強さで説得力がある。また、ホームページ冒頭に恐竜時代の北陸地方らしい想像図を掲げる「恐竜の楽園」は国内版の総合サイト。独自提供の内容としても地元富山の大山町・足跡化石などのギャラリーが豊かだし、各種の情報が要領よくまとめられているので便利だ。

◆動物学面での進歩

 ジュラシックパーク第1作のほうで恐竜の島に着いた直後に、草食竜が5メートルもある首を持ち上げて葉を食べるシーンがある。これには少しがっかりさせられた。これでは血圧が「500」も跳ね上がらないと脳に血液が届かない。貧血でくらくらっとしてしまうではないか。逆の表現をすれば、この竜は血圧600ミリHg前後でふだんから生活していないといけない。愛すべき動物キリンは、首を持ち上げて高いところの葉を食べる食性のゆえに超高血圧であり、血管はそれに耐えるためにぱんぱんに張っている。上下差5メートルともなるとキリンの例からも想像がつかない高血圧で、血液を送り出す心臓と全身の血管ともに耐え難かろう。

 代表的な首長竜ブラキオサウルスの仲間には、首も尾もそれぞれ10メートルを超すものがどんどん見つかっている。東海大「自然史博物館」の全身骨格展示にあるように、こうした首長竜は全身を水平にしたヤジロベエ形で生活したと思われ始めている。水中に入った場合でも水底に足をつけたのではなく、長い体を浮かせて泳いだらしい。水深10メートルもあれば水底と水面で気圧差は1気圧にもなり、息をするのが大変になる。かつての尻尾を地面に落としたゴジラ型恐竜は、ほぼ「絶滅」したようだ。

 現存の大型の爬虫類、たとえばガラパゴス諸島の海イグアナの生活を見ると、太陽が昇ってかなり時が経ち、体が日光浴で温まってから海に入ってエサを探す。海中で冷えるとまた日光浴してから再び海に入る。凶暴なハンターだったティラノサウルスなどが、こんな変温動物であるはずがないというのが、最近の温血説である。哺乳類や鳥類と同じ恒温か、あるいは巨大な体で体温を保ち変動幅を小さくした慣性温血が言われている。哺乳類や鳥類に特徴的で、今の爬虫類にはないハバース管を、恐竜の骨が高密度に持つことなど傍証もある。血流量が相当大きかったと考えられるのだ。ただ、温血説に立つと、体温を保つために変温である場合の何倍もエネルギーが要る。大きな草食竜なら1日に1トンも食べねばならなくなる。

 普通に言われる恐竜の範囲を外れるが、人気のある存在に翼竜がいる。その「翼竜」には「翼竜研究者たちが温血性説ではほぼ一致しているのは、主に次の二つの理由による。第一に、飛行はエネルギーを要する生活様式であるから、つねに体中にエネルギーを補給する態勢が整っていたはずである。第二に、1970年に当時のソビエト連邦で発見されたランフォリンクス類翼竜ソルデスは、全身を毛状のものでおおわれていた。この毛状のものは、外界に熱が逃げるのを防ぐ断熱材としてはたらくことから、体温を一定に保つためのシステムの一部だったと考えられる」と説かれている。翼竜は大きいのは7メートルもあって、始祖鳥の系列からは外れており、恐竜グループとしてよかろう。

 温血議論は置くとして、恐竜の移動の速さはどのくらいだったのだろう。「ディノニクス」には、体長3メートル、68キロのこの竜が「獲物を追いかけるときの速度は、最大速度で時速50キロを超えていたと考えられています」とある。二足歩行する恐竜の骨の構造、動き方は馬の後ろ脚やダチョウによく似ていて、脚を振り子のようにとらえると工学的な解析で自然な動きが設定できる。体長10メートル級、体重数トンのティラノサウルス級が歩くと時速6キロ、長距離を走るとその3倍くらい、獲物を狙う場合の瞬発力はさらにあると見積もられている。第2作ロストワールドでの各恐竜の動き方は、こうした最近の検討を忠実に反映していた。もしもゴジラ型を仮定すると、歩幅が非常に小さくなってのろくなるし、尾を大きく左右に振ることになる。ひたひたと走るロストワールドのような軽快な動きはのぞめなくなる。

 おしまいに、恐竜の個体一体がクローンとして甦る日は無理として、その形質の一部でも目に見える日が来ないか、考えてみた。遺伝子のほんの断片でも手に入れて現在の生き物の中で発現させるくらいの夢は、残してもいいのではないか。マウスより大型であるラットの成長ホルモンの遺伝子片を、マウスの受精卵に注入して普通の2倍の大きさにまで成長させた「スーパーマウス」のイメージだ。この実験も今や遺伝子操作の古典になった。PCR法のような新しいツールが、今後登場する可能性は高い。コハクといい、せっかくの道具があるのだ。不思議の匂いに満ちた真夏の夜の夢として、現存の生き物を改造して恐竜遺伝子が発現する可能性を保留してみたい。



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