団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第43回「宇宙開発と『地球号』の乗員たち」 (98/03/19)

 今年に入り、宇宙について耳をそばだてたくなるニュースが続いている。月に大量の氷が存在する確かな証拠と、そのおよその量までも、NASAのシリンダー型探査機「ルナ・プロスペクター」が明らかにした。「国立天文台・天文ニュース(72)月のクレーターに氷が存在か?」にあるように、既に'96年末に月探査衛星クレメンタイン1号のデータ分析から南極のクレーターに水の存在が推定されていた。しかし、今回は具体的で、観測結果は夫婦1,000組が100年間、生活して使い捨てにできる量の水があるというのだから、月面に宇宙基地を建設するといった構想がぐっと真実みを帯びてくる。水をリサイクルすればもっと長期に使える。水の惑星、地球の外で生きるのに不可欠な水が、乾いた情景しか浮かばない宇宙で得られるのだ。それに水素と酸素でできた水は、生命維持ばかりでなくロケット燃料としても重要な物質である。

◆地球重力圏離脱のコスト

 月の南極と北極に水でできた氷があるのだが、地球の極地にあるきれいな氷ではない。「NASAニュース」は「探査機からのデータは水の氷が多数のクレーターに点在することを示している」「水の氷は月の土壌に対して0.3から1パーセントほどの割合で北極・南極に閉じ込められていると予想している」と伝える。同ニュースの「ルナ・プロスペクター、月面に氷の存在する証拠を発見」は「この水の氷を将来実際に飲料水やロケット燃料の組成分として利用することになれば、われわれは月の土壌から水を抽出するコスト・パフォーマンスの高い技術を開発しなければならないだろう」と続ける。もともと隕石や彗星などの衝突でもたらされ、月の表面土中に積まれた氷だからだ。

 地球にはふんだんにある水でも、地球の重力圏を離れて宇宙空間に送り出すには非常にコストがかさむ。「現在、1ポンドの物体を軌道に投入するには約1万ドル(米ドル)の費用がかかる。NASAはこれを1ポンドあたり1,000ドルにまで削減する技術開発を進めている。仮に月に存在する水の氷を前出範囲内の3,300万トンとし、これと同量の水を宇宙空間へ輸送するには60兆ドルの費用がかかることになる。さらにこれに月面までの輸送費用が加算される」という。水1立方メートル、1トンでざっと2億円の見当。今回の探査はまだ始まったばかりで、今後さらに面白い成果が続々出ると期待されている。「ルナ・プロスペクターはNASAエイムズ・リサーチ・センターによる管理のもとロッキード・マーティン社によって運営されている。このミッションのNASA総費用は6,300万ドルである」と聞かされると、手慣れたNASAとはいえ、仕事のコストパフォーマンスの良さに感心する。

 残念な方のニュースでは、2月21日「通信放送技術衛星『かけはし』/H-IIロケット5号機」が打ち上げに失敗した。第2段ロケットの燃焼が大幅に早く停止してしまい、予定の軌道に衛星を投入することができなかった。宇宙開発事業団(NASDA、「ナスダ」と呼ぶ)による調査報告「6.故障要因」は高温の燃料ガスが漏れだして制御機器を焼いたために燃焼が止まったと説明している。漏洩箇所はまだ確定されていない。「H-IIロケットストーリーズ」に詳しく紹介されているように、H-IIロケットは国産技術による大型ロケットであり、軍事技術から出発した米国、欧州、中国の大型ロケットとも肩を並べる存在。開発費が高かったせいで打ち上げコストが190億円と国際相場の倍以上もするが、海外勢に比べ失敗が少ないことをセールスポイントにし、米国の企業から10基打ち上げの引き合いが来ていた。次のシリーズ「H-IIA」でコストを引き下げてビジネスとして成り立たせようとしていただけに、今回の失敗はショックが大きい。

 国内の宇宙開発機関は、科学技術庁所管のNASDAのほかに文部省宇宙科学研究所がある双頭体制で、歴史的な経緯からロケットの型がまるで違う。こちらは今年7月に国内初の火星探査衛星を打ち上げる「火星の大気等を調べるプラネットB計画」などを進めている。年間2,500億円にのぼる宇宙開発予算の配分は「平成10年度における宇宙開発関係経費の見積りについて」にあり、総花的な印象。打ち上げコストが高いことは大きなハンディキャップで、日本の宇宙ビジネスの現状を端的に表現した発言「専門委員:日本には多くの明るい最先端の通信衛星技術の話がある一方、我が国の通信衛星の受注残が0ということで両者がつながらない。また、衛星3社の技術者からは衛星を受注できないのはバス機器をやってこなかったからとの暗い話しか出てこない。このままでは米国の下請けになってしまっている日本の航空機産業の二の舞である。日本では宇宙産業で通信衛星が重要といっても、今のままで果たして何ができるのか想像しがたい」を'97年5月の「宇宙開発委員会計画調整部会(第1回)」から引用しておく。

◆宇宙移民は可能か

 宇宙での有人活動、さらに進んで宇宙居住について、大手ゼネコンが具体的に語るようになっている。そのひとつ、大林組の「Moon & Mars」には、「太陽系のなかで地球のすぐ外側を回る第4惑星・火星。地球にもっともよく似た惑星として、人類の移住に最適な地です。なによりも、生命の維持に必要な資源がすべて得られる点が魅力です。薄い二酸化炭素の大気から酸素が得られ、また、地下に存在するといわれる凍土からは水が得られます。将来は、火星も温暖化して酸素を含む濃い大気を作るテラフォーミング計画も期待されています」と火星都市「マース・ハビテーション2057」計画を語り、月面については「私たち大林組は、2050年の、月の南極に建設される人口1万人の月面都市を構想しました。宇宙線、温度差、真空などの過酷な条件に耐えるための厚いガラスのドームや、6分の1の重力環境下でのみ可能になるルナ・タワー」の記述とイメージ図が掲げられている。技術的支えとしての「Technology」では、建築への月面の砂の利用や、無人施工ができる全自動ビル建設システムなどが取り上げられている。

 「ゆりかごから宇宙へ 進展するニッポンの宇宙開発」は、ペンシルロケットから始まった歴史から、遠い未来構想まで要領よくまとめた読み物で、間もなく建設が始まる国際宇宙ステーションの向こう側に見通せる存在として、500万円の宇宙旅行、2泊3日1,000万円の宇宙ホテルにも触れている。

 地球の資源的な限界について、いろいろな考え方がある。「宇宙生活」が計算している食糧問題もそのひとつで、家畜に与える穀物なども含めると「西暦2000年には、1人当たりの穀物必要量は、1年当たりで692kgにのぼると見積もられており、この場合の地球の定員は、125億人」とみる。次の世紀には地球の定員を超える人口で溢れてしまう。その行き先が宇宙ではないか。

 そんな雄大な夢に大きな壁が立ちふさがっている。放射線の影響である。'90年代に入って、国際線のパイロットの被曝が予想外に大きいことが知られ始めた。宇宙からやってくる放射線は厚い大気層と地磁気に阻まれて、地表では大地からの放射線とほとんど同じレベルまで下がる。ところが、ジェット機で少し上空に上がるだけで線量は増え、パイロットが年中、飛び続けるとしたら、原子力施設での職業的な被曝限度を超えかねないほどだ。宇宙に出てしまえばさらに過酷な放射線環境にさらされる。

 「宇宙へ」で道家忠義・早大教授は「地球の周辺では、地磁気によって捕捉された電子・陽子線、太陽からの粒子線、銀河宇宙線等の各種の高エネルギー放射線が飛び交っています。地表の放射線は、その飛跡に沿ったエネルギー付与は僅かでほぼ一定であるのに対し、以上のような宇宙での放射線は、飛跡に沿ったエネルギー付与が非常に大きいものが多く、いわゆる線質が違ってます。このように線質の異なる放射線の人体に与える影響は、地表での放射線よりかなり大きいと予想されています」「宇宙粒子線のように飛跡に沿ったエネルギー付与の大きな高エネルギー重粒子線に対する影響は、動物実験に対してすら皆無に近い状態で、あるのは細胞や菌等の微生物に対する実験のみに限られています。このような限られたデータから、宇宙での長期滞在に際して、宇宙放射線の人体に与える影響をどう評価するかは今後の大問題であると思います」と述べている。

 たとえ個体に死を招かないとしても、宇宙空間で世代を重ねるうちに突然変異を多発させて、異形の人類、SF映画で言うミュータントに至るだろう。地球の厚い大気の優しさを改めて思う。

◆小惑星衝突の危険

 3月11日に米国の天文学者が「昨年末に見つかった直径1、2kmの小惑星が、2028年10月に地球に大接近する」と発表、かつて恐竜を絶滅させたとみられる小惑星衝突の危険を、意外に身近なものと感じさせた。「国立天文台・天文ニュース(162)地球に接近する小惑星 1997 XF11」は接近距離について「4万6,000キロメートル余りで、月までの距離の8分の1しかありません。過去に観測された小惑星でもっとも地球に近づいたのは1994 XM1で、これは1994年12月9日に、地球に10万キロメートルにまで接近したという記録をもっています。この1997 XF11はその半分以下にまで近づくことになりますから、まさに記録的な接近」「誤差を考慮しても、そのときに0.002天文単位(30万キロメートル)と、月よりも近づくことは確実と考えられます。接近距離を確定するためにはより精度の高い軌道要素が必要で、そのためには、さらに観測をおこなわなければなりません」としている。

 小惑星衝突の危険について考えている「日本スペースガード協会」は、専門家らしく「小惑星1997 XF11が2028年に地球に接近!」で国際天文連合の続報文書をフォローしてくれていて「3月12日付けのIAUサーキュラー(6839号)によりますと、小惑星1997 XF11の接近距離は0.0064天文単位(約96万km)になるとのことです。接近時刻は、2028年10月26.3日です。これは、この小惑星が1990年に撮影されたフィルムに写っていることが確認されたので、そのデータを用いて小惑星の軌道が再決定され、その新しい軌道で接近が計算されたものです。この距離ですと、衝突の心配はありません」と伝えている。まずは一安心。だが、衝突の恐れがある小惑星は、今後まだまだ出てくるのだろう。もっと小さなものでも危険なのだ。

 この危険性に対して米国で進められているスペースウォッチ計画を紹介するのが「小惑星天体の地球衝突」。「小惑星衝突は、かつて恐竜たちを滅ぼしたとされる。しかし人間を滅ぼすための小惑星衝突は、その数十分の一の大きさでいいかも知れない。地上は、かつてのように平原や森林が茂るのではなく、林立するビルや網の目のようなネットワークが張られている。わずか直径10メートル程度の小惑星破片が、かつての数十倍の威力を発揮すると試算する科学者もいる」「迎撃の仕方にも問題は残る。粉砕してしまっては、かえって散弾銃のような射撃をあびてしまう。かえって危険だ。むしろ離れたところで弾頭を爆破させ、小惑星破片の軌道を外さなければならない。その技術は、木星探査衛星を数年間飛行させながらわずか20秒の誤差で到着させる技術の中に潜んでいるという。惑星探査の技術は、実は、地球防衛の技術としても活かされるのだ」

 宇宙に移民する時代が来ないとしても、通信衛星技術などを含めて、『地球号』の乗員の未来に宇宙開発技術は深い関わりを持っている。



【INDEXへ】

無料メールマガジンとして配信中。登録される方はこちらへ
【リンクはご自由ですが、記事内容の無断での転載はご遠慮下さい】

※ご意見、ご感想や要望はメールフォームで