特集「このコラムの読まれ方・作り方」

 この連載は間もなく60回を迎えます。扱うテーマは広範囲ですが、1、2年では古くならない内容を盛ることをモットーにしてきました。昨年書いたものも盛んに読まれているようです。独立したウェブを持ったのを機会にアクセス解析機能を付けて、読者の皆さんがどのファイルを読まれているのか、調べることが出来ました。今回は特集版とし、その結果報告と、私のコラム作りの実際を紹介してみます。

◆インターネット利用者に広がるニーズの多様さ実感

 アクセス解析機能は、ミラーサイトの方に付いています。本拠地がロボット検索サイトの自動巡回を拒む設定になっていたため設けたサイトで、ほとんどの検索サービスの対象はこちらになっています。一方、本拠地は巡回オーケーだった「AltaVista」と定番の「Yahoo」、以前からコラムの存在を知っていらっしゃる皆さんからのリンク先になっています。こういう事情で、ミラーサイトは新規に訪れる方が過半を占めるところです。

 アクセスデータは9月1カ月間のもので、バナー呼び出し時に記録する方式ですからネットの混雑時間帯には相当な取りこぼしがあります。ミラーサイト側に用意されたファイルマネージャと比べることで分かりますが、相対的な利用頻度を見るのには支障はありません。ベスト10はこうでした。

 (1) No.58 毒のサイエンスと犯罪心理
 (2) No.1 空前の生涯独身時代
 (3) No.51 コンビニの元気に見る物流変革
 (4) No.56 お酒の消費に起きている地殻変動
 (5) No.18 電池の革新が引っ張る先
 (6) No.49 性差の科学と環境ホルモン
 (7) No.34 『アジアの時代』は潰えたのか
 (8) No.52 ふさわしい都市景観を持つために
 (9) No.55 ダイオキシンの人体汚染を考える
 (10) No.53 明治維新(上)志士達の夢と官僚国家

 やはり最近の50番台が強い印象です。その中で、No.1「空前の生涯独身時代」はやはりという感じ。この国の社会や経済など幅広い分野に強い影響を与えている少子化問題の真相は、晩婚化などという生やさしいものではなく、生涯未婚率の急上昇にあることを示しました。今後も読まれ続けるでしょう。東京の男性の生涯未婚率が10%に達した際に、マスメディアの世界に初めてこの話題を引っぱり出したのも私です。

 ミラーサイトを検索対象にしているロボット検索では、9月の時点では「Infoseek」からだけが全ファイルを見ることができました。そこで、Infoseekからのリンク経由者に絞ってベスト10を出すと、かなり様子が違います。

 (1) No.18 電池の革新が引っ張る先
 (2) No.51 コンビニの元気に見る物流変革
 (3) No.58 毒のサイエンスと犯罪心理
 (4) No.49 性差の科学と環境ホルモン
 (5) No.34 『アジアの時代』は潰えたのか
 (6) No.1 空前の生涯独身時代
 (7) No.52 ふさわしい都市景観を持つために
 (8) No.23 たばこをめぐる日米の落差
 (9) No.26 移動電話は規制緩和の鏡
 (10) No.22 太陽を友に暮らそう

 検索サイト経由で読まれている状況はこうです。上位のファイルについては一定数のアクセスが続いている上に、ある日、突然、10件、20件とピークが上乗せされます。何かのトピックがあって、そのテーマの検索中に引っかかるのでしょうか。このリストを見ると、技術やエネルギー、物流、犯罪、環境問題、アジア、都市景観、たばこ、移動電話など、インターネットの利用者が実に多様な事柄に関心を持って、検索で引きだそうとしているのが分かります。No.25「インターネット検索とこのコラム」で、インターネット検索とは、そのキーワードで我々の文明の断面を切り取って見る行為だという説を唱えました。実際にそれを完結するのは大変ですが、私のコラムが何かの手助けになるでしょう。

 ミラーサイトに来られている方は、一般のプロバイダー経由が3分の1しかなく、多くは企業や大学などのホストを利用されています。そのためか週半ばの利用が多い傾向です。また、INDEXページ先頭に設けた、8つの分野別入り口が、「政治・経済」「環境・資源」あたりを筆頭に利用が増えています。検索サイトからいらした方の過半は、そのファイルだけ見て去ってしまうようですが、INDEXページまで来られた方は、この分野別入り口を使われるなどして、平均すると5つのファイルをのぞいて行かれるようです。

 40回を達成した際に、読まれた上での読者のお気に入り投票結果を、No.42「読者アンケート特集と安保再論」で紹介しました。そこでの結果とも比べていただきたいと思います。そのときの印象と比べ今回のアクセス解析では引きが弱すぎ、作者としてはもっと読まれて良いと思う回を挙げておきます。No.29「過労死と働くことの意味」です。現在の日本経済の苦境を金融問題といった皮相から考えるだけでは足りず、もっと深いところから心配しなければならないことを指摘した回です。

◆執筆のツールや取材環境はこうなっている

 このコラムは、ほとんど紙を使わないで執筆しています。10センチ角のメモ用紙が毎回、何枚か消費される程度です。それが可能なのは、検索で見つけて閲覧したホームページをリンク関係も保存して、ハードディスク上にスクラップしてくれるソフト「INTERNET NINJA」のおかげでしょう。私の使っているのは初期のシンプルなバージョンですが、インターネット・エクスプローラIE3.0との組み合わせが気に入っています。ページを一覧するウインドウには、それぞれ簡単なメモを入れる欄があり、気になるページにチェックを入れておけば、後で考えの道筋をまとめて、ストーリーに必要なページを簡単に呼び出せます。ある時、事情があって、かなり多数のページを紙に印字しました。それを繰って必要なページを見つけるより、INTERNET NINJAと電子的なスクロールの方がずっと早いことを身を以て体験しました。

 作業はまず、Infoseek、goo、AltaVistaを中心に検索サイトをあちこちと渡り歩きながら、気になるページをスクラップしていきます。設定テーマについて、私の知的好奇心がある程度、満足するまで続けます。検索ページをすべて見る時間はありません。無駄足もたくさん踏みますが、検索結果で一覧される、わずかな情報から、そのページの匂いをかぎ出して見に行くべきページかどうか判断します。不思議な法則があって、各ページにある記事や画像などのデータファイルの総収集数が400を超えないと満足状態にならず、上限の方は700くらいで止まります。これに費やす時間が平均で12時間程度です。ネットが混雑しているとストレスが貯まり判断力が落ちますから、なるべく快適な時間に作業をします。パソコンはメビウスノートの画質が気に入っていて、最もよく使います。CRT画面は揺らぎのようなものを感じて、いらいらすることが多くなりました。

 執筆に要する時間は、推敲・仕上げ作業を入れて8時間くらいでしょうか。パソコンの前にいる時間であり、構想を練ったりする時間は含みません。INTERNET NINJAのどの窓にどんなスクラップがあり、審議会の長い記録なら前から7割目あたりに注目の発言があったなど、いろいろなデータを頭に詰め込んだ明け方あたり、うつらうつらしている間にストーリー構成の筋道が見通せることがよくあります。ちょっと厄介な、分かりにくいデータでも、抵抗なく読み下せて頭に入るようにするのが、組み合わせ方、はめ込み方の妙であり、このコラムの特質だと思っています。

 テーマはどうして選んでいるのか。これまで取り上げた全ての回は、何らかの形で過去の取材経験と繋がっています。新聞記事を書くために、誰かと会って取材したテーマそのままということもありますし、少し外側のテーマだけれど関連取材で事情は承知している分野ということもあります。コンビニの話題などは、物流・倉庫システムのハードウエアを取材した蓄積で書いています。何らかの問題意識が残っているフィールドが自分でも不思議なくらいあちこちにあって、ある日、新聞を開いたり、テレビを見ているうちに、手を着けて置かねばという気持ちになったテーマから手がけています。特に日経新聞がきっかけになることが多いのです。この新聞は取材による生のデータを、そのままむき出しにして投げ出してくれますから、そのデータの背後では、あの時の、あの状況がこう変わりつつあるのだと発見し、私の取材意欲に点火してくれる訳です。

 データの裏付け、分野の見通しを必要とする場合には、Nifty-serve経由で「JOIS」などのデータベースに当たることもしばしばです。もともと科学部員時代から、データベースで文献、一次資料を見つけて、阪大などの図書館でコピーを取って読むことには慣れていました。No.50「読者交流〜臓器移植法・心と食」で取り上げている母性行動の話を、科学面のシリーズのひとつとして書いた際は、国内に研究者が少なかったので、文献読みの方法に頼りました。インターネットでの検索にも、そうした経験は大きく効いていると感じています。

 60回を達成したら、再び、読者のお気に入り投票をしてみたいと考えています。その際には、皆さん、ご協力よろしくお願いします。