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第59回「未来エネルギー核融合の挫折」 (98/10/29)

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 日米欧ロが共同で進めてきた「核融合発電に向けた実験炉プロジェクト」から、米国が10月に入って撤退を通告した。米国だけで10年間、1000億円以上を投じた設計作業の幕引きのために、1年の猶予は認めているが、米国議会の反対姿勢は強硬で、米国の参加はありえなくなった。核融合を狙う大型実験施設での研究成果はときにメディアで華々しく伝えられて、実現はそう遠くないかのように受け止められているかも知れない。しかし、クリーンエネルギー宣伝と裏腹に、実際には核分裂炉とは比較にならない高いハードルとダーティな面があり、一国では無理と考えられたために、この「国際核融合炉(ITER)」の計画が取り組まれてきた。

◆米国撤退で来世紀の実現はなくなった「地上の太陽」

 国際核融合炉は1兆円を軽く超える建設費が見込まれ、予算削減のために機能を制限するなどの手直しも考えられたが、本質的なところは「ITER詳細設計報告書」にある。平たく言えば連続1000秒間、燃やしてみたいのだ。国内にある大型研究施設「JT−60」のプラズマ閉じ込め時間記録が1秒程度であることに比べて、確かに長時間であるが、質的に全く違うことを、これから説明したい。

 核融合反応が発生すると、1億度もの高温が生まれる。太陽は虚空にあるから大丈夫なのであり、そんな高温物質を入れる容器は地上に存在しない。そこで、発生する高温プラズマは電気を帯びていることを利用して、強力な磁気の力で宙に浮かせるアイデアが出され、現在も先端を走っている。

 国際的に有名なのがトカマク型で、JT−60もその仲間だ。しかし、従来の磁気閉じ込め実験装置は、普通の水素を加熱して高温プラズマにしていたたけだった。水素は核融合を起こさない。最も核融合を起こしやすいのは、重水素と三重水素の組み合わせであり、海水中から無尽蔵に得られるとのふれ込みだから使っても良さそうなものだが、核融合反応を起こす、つまり燃やすことはしなかった。反応が起これば、ヘリウムと中性子が大量に発生する。「原子力材料工学」にはプラズマを収容する真空容器の材料が、中性子の照射でぼろぼろになる様子が掲載されている。「600℃の照射によって顕著に膨張(容積でほぼ2.5倍)することがわかります。透過型電子顕微鏡で内部観察した結果、中性子照射によって、V-5%Fe合金は穴だらけのスポンジ状になっていることが判明しました」

 ぼろぼろになるだけでなく、高い放射能を帯びることにもなる。現在の実験装置はこれに対処する手だてがなく、もしも、重水素と三重水素を入れて反応させようものなら、瞬く間に装置は使用不能になり、それどころか高度の放射化のゆえに何週間も近辺へ人の立ち入りすら出来なくなる。JT−60は現場で見ると小山のような巨大な装置だが、あれが放射性廃棄物と化すと想像するのは肌寒い。

 こうした理由から一見華々しい核融合プラズマ実験は「核融合ごっこ」に止まってきた。何とか打破する道を開こうと、国際核融合炉は、1985年の米ソ首脳会談を出発点に進められてきた。6月に報告された「サイト特性(案)について」で、その規模が見て取れる。例えば、消費される電力の大きさである。定常状態で23万キロワットを供給し、「プラズマ生成と加熱電流駆動に必要な準定常電力」40万キロワットがさらに上乗せされる。これは商用電力から供給しようと考えられており、百万キロワット級の最新原発がそこにあったとしたら、6割は実験に持っていかれる。これだけとっても公衆に理解してもらうのは辛い。国際核融合炉を誘致しようとする動きが国内では北海道、青森、茨城にあるが、誘致国は1兆円以上に上る建設費の過半は面倒をみなければならず、さらに大変だ。

 巨大な核廃棄物にしないために、低放射化材料の研究が進行中である。例えばそのひとつ「低放射化フェライト鋼の開発研究」は一定レベル以下に放射線量が落ちるのに必要な時間は「低放射化材においては、従来材に比べ4桁も短縮する」との実験結果を示している。まだ進歩するだろうが、グラフでは、年のオーダーと読める。

 「5トンの重量物を1 mmの精度で動かす遠隔操作技術」で、こうした悪条件に挑まねばならない工学者な苦労がよく分かる。「核融合実験炉では容器内で放射化された部品の保守整備のために遠隔操作が必要です。容器内部品のブランケットは単体で高さ2m、重量は4トン程度、総数 720個になります」「ビークルとレールの噛み合わせ機構、軌道の自動ロック機構や電子計算機による制御等に多くの工夫を凝らしました。その結果、5トン程度の物体を1〜2 mmの精度で取り扱える見通しがたちました」

 「ITERの安全性等についての取り組み」には、放射化廃棄物について基本性能の前期10年で700トン、中間の入れ替えで2800トン、高性能の後期8年で700トン、終了時に本体構造物5万2千トン、コンクリート1万5千トンなどと評価している。この計算の妥当性は置くとして、もし実用の核融合炉が出来たとしたら、常時発生する中性子線を一身に受けてぼろぼろになっていく炉の内壁は、せいぜい1年で取り替えねばなるまい。複雑な形状、超伝導コイルに囲まれた狭い場所、高度の取り付け精度。もし40基の実用核融合炉があったとしたら、毎年の製造と施工に費やすエネルギーの凄まじさは、現在の軽水炉の定検態勢からは想像もつかないほどであろう。

 米国側はどうみているのか。「ITER: Good News, Bad News」が伝える、下院科学委員長James Sensenbrenner議員の発言はこうだ。「もともとの構想、1992年の合意にあった国際核融合炉を造ることは、もはや出来なくなった。このプロジェクトは失敗した。時計の針を進めるときだ。米国の納税者の金を、行き詰まりと分かったプロジェクトに浪費し続けるのは常識外れである」。JT−60と並ぶプリンストン大がもつトカマク型大型実験装置への予算も、1997会計年度限りで打ち切りになるなど、核融合への幻滅ははっきりした形になっている。

◆ビッグサイエンスこそ行政改革で再評価されるべき

 「21世紀の科学技術と研究者の社会的責任」で、河宮信郎氏は国際核融合炉の可能性について、もっと厳しい見通しと指摘をしている。「DT核融合を実現したら、そして当初目標通り自己点火まで行ったら、数時間の燃焼実験で放射化・電磁応力・熱応力による炉体劣化が限界を超え、せっかく造った実験炉の廃棄を迫られる。核融合研究者はこの状況を『予定通り』といっても『予想外』といっても、市民の納得は得られないであろう。この事態は、単に核融合研究のみならず科学研究全体に対する抜きがたい不信を植えつけることになるのではないか。とすると、たとえば材料科学の研究者は炉工学的な課題の解決がほとんど不可能であることをきちんと表明すべきではないか」

 これは一研究者の個人的な意見に止まらない。「ITER計画に関する主な論点について(案)」にも「ITERで採用するDT燃焼では、強力な中性子が発生し、連続運転すると炉壁は1年前後で保たなくなるのではないか。この結果、膨大な放射性廃棄物が発生し、長期間にわたる厳重な管理が必要になるのではないか」などの意見が紹介されている。

 右肩上がりのエネルギー需要を賄うのに、未来のエネルギーは、まず核燃料サイクルによる高速増殖炉でつなぎ、次いで核融合の実現に頼るというのが、この国の政府が何十年も掲げてきた政策である。地球温暖化の特効薬であるとも言ってきた。もちろん、言葉での気配りは他のエネルギー側にもするが、科学技術庁の予算配分を見れば一目瞭然。「平成10年度科学技術庁予算総表」から順番に見てほしい。「第3.安全で豊かな生活を実現するために必要な国民生活に密着した科学技術の推進」にある「3.未来エネルギーの研究開発の推進」251億円のうち核融合は182億円。これに対して新エネルギーの開発は16億円に過ぎない。

 核融合は文部省予算でも幅を利かせていて、「平成10年度核融合関係予算政府原案について」にトータル表があり、国全体では303億円をかけている。磁気閉じ込め方式の他にレーザー核融合方式などがあり、方式が違うと研究者の仲が悪いが、予算獲得では一致協力するギルド的な背景もあろう。そして、核燃料サイクル技術にかける科学技術庁予算は1200億円に迫る。その中心である高速増殖原型炉「もんじゅ」がどのような状況で行き詰まっているかは、この連載第24回「高速増殖炉の旗は降ろすべくして」で見た。しかし、福井の現地から最近聞こえてくる情報は何が何でも「もんじゅ」運転再開へと、なりふり構わない金や施設のばらまき、そして、もんじゅ差し戻し審では、いま安全審査をやり直せば到底通らなくなっていると認めるのに、過去の審査当時は、ナトリウム漏れによって起きる事態について十分な知見が無かったのだから審査は有効という強弁である。

 行政改革が言われたとき、私はビッグサイエンスも農業予算同様に再評価のときだと思った。しかし、いずれも手は着かなかった。「行革会議中間報告」の文部・科学技術省の項は次のように述べられているだけだ。「教育・学術・文化に関する行政と科学技術行政とを統合して、一省を設けることとする。これは、学術と切り離された科学技術の発展はあり得ないとの考えに基づくものであるが、同時に次の事項について、了解がなされている」「行政目的に直接関係する研究開発は、基本的に各省庁が行うが、核融合、宇宙開発等の推進の担い手は誰であるかについての整理が必要である」。ビッグサイエンスの利権調整だけは別途考えましょうということか。

 この国には一度決定した方針を時代に合わせて再評価をするシステムも、人材も欠いるのではないか。これに関しては在京マスメディアの罪も大きい。中央官庁の記者クラブに安住して、取材先からのリークを主な情報源としてきたからだ。科学技術立国として、国として資金を投下する先をダイナミックに決められなくて、次の世紀をどう生き抜くつもりなのだろう。

 折しもこの10月、ドイツの中道左翼政権は、原子力エネルギーからの離脱を掲げて出発し、スイス政府も一定期間後の原発廃止を打ち出した。「NEDO海外レポート98/10/5」は次のように伝える。「オーストリアが7月1日から1998年下半期のEU議長国に就任したが、エネルギー政策においては、環境に優しいエネルギーと再生可能エネルギーが優先課題になることを表明した」「エネルギー枠組み計画(1998〜2002年)及び4月29日に欧州委員会が発表した通達『エネルギーの有効利用のための戦略に関するEUのエネルギー効率』などを通し、同国は再生可能エネルギー促進を強力にサポートしていく」「欧州委員会が1997年に作成した再生可能エネルギー白書は環境に優しいエネルギーを実行に移すために完璧な出発点になると称賛」

 納税者は不毛な負担に耐えられないと予算を打ち切った米国。新しい方向の模索を確かなものにしつつある欧州。失敗の責任所在を明確にすることが怖いのか、Uターンどころか道を曲がることすら出来ない、この国は、高速増殖炉に続いて核融合をも単独で続ける愚を犯すのだろうか。6月の「核融合会議開発戦略検討分科会の設置について(案)」の検討項目と、関係者で固めたメンバー表を見て、危惧は深まる。



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