団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第62回「コメ関税化・質伴わぬ方向転換」 (98/12/24)

 政府は年末押し迫ってコメ輸入の方針を変え、最低輸入義務を超える部分について関税化すると決定、世界貿易機構(WTO)に通知した。自民党、全国農業協同組合中央会(全中)と三者で合意した関税は従量税になっていて、来春から1キロ当たり351円、以後年を追ってわずかずつ下がっていく仕組みだ。関税分だけのキロ単価が、我が家で食べている北陸産コシヒカリなどの値段とほぼ同じである。安い輸入くず米と国産高品質米を比べて、その価格差を埋める計算をしたのだから、当然、高額関税になっている。直後にワシントンで開かれたコメ関税化に関する日米協議で、米国側は「新たな通商摩擦になる」と見直しを厳しく要求、WTOに提訴する構えだ。この関税では、米国産の高品質米を輸入したら、国産の高品質米よりキロ当たり130円程度高くなってしまうという。ミニマム・アクセスと呼ばれる最低輸入義務の部分は、これまでかなりのペースで年々拡大していたが、関税化すれば、ほとんど増えなくなる。高額関税を設定しての手口は、米国には不愉快に映る。

◆強制減反に専業中核農家の悲鳴が聞こえる

 全国紙各紙は関税化に続いて、農水省がコメ強制減反の2000年度廃止方針を固め、年明けから調整に入ると報道した。ところが、中川農水相は「『減反廃止』ということで、米の需給調整を放棄するかのごとく報道があったが、そのようなことはまったく考えていない」とコメントを出した。これを額面通りに受け取る人は少ないだろう。「一粒たりとも入れない」国会決議から始まった、本音のところを説明しないで、ずるずると事態の進行に流されていく「だまし」政策の延長上にある、一エピソードに過ぎまい。

 今年こそやや不作だったが、近年の豊作続きによって古米の在庫は適正水準150万トンの2倍以上、10月末で354万トンに達している。これを背景にした自主流通米価格の下落で、コメ作りによる農家収入は1割くらいは減らされている。それは、今後の稲作の中核になってもらわねばならない専業農家に対して、ボクシングで連続ボディブローを受けるように、体力を奪う効果を持つ。

 農水省の「農家経済の現状」は「平成7年の全国の販売農家平均の農家総所得は892万円であり、このうち農業所得は144万円で農家総所得の16%と、農家経済における農業所得への依存度は低い」と述べる。数からすれば兼業農家が圧倒的だから、平均値はこうなる。コメによる収入が140万円の兼業農家にとって、1割14万円の減収はお小遣いが減った程度の重さだろう。もともと先祖から受け継いだ農地を守りたいという思いが強く、採算は度外視して趣味で続けているに等しい。しかし、年間1000万円を売る専業農家には、100万円の減収は農業機械類の償却、今後の設備投資に関わる重大事である。高齢化した兼業農家を守る農業政策を続けては、後継者まで持つコメ作りの基幹部分が死んでしまう。

 強制的な減反に対して、94年から「減反ストップ裁判」が提起されている。趣旨は「訴状提出にあたって」を参照されたい。この経過を伝える「減反やめよう!コメつくろう!全国ネット通信」で、口頭弁論における京都大学名誉教授の飯沼二郎さんの陳述が紹介されている。戦後、この国で起きてきたことを整理する意味で読んでいただきたい。

 「日本は農業には恵まれた風土なので、裏作、間作、混作等、年に何作もでき、古来から小農複合経営が柱となってきました。農業の生産性をあげるためには、年一作しか作物ができない欧米のように経営面積を拡大して機械化をし、労働を粗放化するより、労働を集約化する方向に発展します」「ところが、農業基本法による農政は、小農複合経営を否定して、機械化と経営面積の拡大、単作化を推し進めようとしました。高度経済成長のために必要な労働力を農家から供出させるためです」「しかし、農家は、経営拡大には向かわず、単作化、機械化のみを進めたので、水田1ヘクタールの稲の単作が中心という世界に類のない農業になってしまいました。そのためにコメのみが増産され、他の作物はすべて減産され、穀物自給率は極度に低下しました」

 「このような農政の失敗をとりつくろおうとしたのが減反政策です。しかし、農民の生産意欲は失われ、後継者は激減しました。国は農業では金がもうからないせいだと考えて莫大な補助金を注ぎ込みましたが、その衰退に拍車がかかるばかりです」「日本中の農家が無気力と後継者難に陥っている中で、小農複合経営が行われている村にのみ活気があります。山形県高畠町では、1年間に23人もの青年が移住して複合経営を始めています」

 創意工夫して小農複合経営に進む農家が増えることは、コメだけに絞られている農業の歪んだ体系を回復することになろう。また、当面まず、生産効率が良くて、自由にコメを作らせれば競争力があるコメ専業農家の束縛を解いてやらねばならない。水田面積の3割にも達している強制的な減反政策の廃止とは、関税化による多少のコメ価格値下がりとセットになっているべきものだと考えていたが、政府がそこまで腹をくくって乗り出した感触でないところが寂しい。農協を説得するために、高額関税の維持を約束したと聞く。

◆後継者激減に解決策は出されていない

 政府は、この国の農地をどうしようとしているのか。農地問題の現場から「岐路に立つ農地−ある農業委員の独り言−」は動きがとれなくなった実情と、政府への疑問を述べている。「農地の流動化ということで、労力不足等で耕作できない人から、認定農業者とされる人等を対象に、農業委員会では耕作する土地を斡旋しています。奇妙な現象なのですが、貸し手は増加の一途なのですが、借り手の方が増えてきません。借り手の方も腹いっぱいで、新たな展望が拓けない限り、これ以上規模を拡大しようとしないようです」

 そして、自由民主党の緊急経済対策を受けてまとめられた「優良田園住宅」建設促進政策について「これまで、調整区域の開発については、農林水産省や各自治体や農協団体などの反対が強かったですが、宅地開発により減反政策以降遊休化した農地が活性化することも予想されます。金融不況が深刻化する中で、今回の法案成立が内需拡大の柱として機能するかどうか注目を集めています」「しかし、一人の農業委員として、考えますに果たしてこれは望ましい方向なのだろうかと思います。優良な農地として造成された所に、優良な田園住宅が建つ?ほんまかいな?と思ってしまいます」。

 関税化など方向転換を進める基盤になっているのは、この9月に出された「食料・農業・農村基本問題調査会の答申」とされている。「農地の利用状況の悪化と農業の担い手の弱体化」はこう表現している。「現在、65歳以上の高齢者が農業者の4割以上を占め、『昭和一桁世代』といわれる農業者が農業の主たる担い手となっているが、その世代のリタイアの時期が迫っており、今後、農業者数は大幅に減少するものと見込まれる」「これは、農業の担い手にとって経営規模拡大の機会と言える状況であるが、一方で、新規に農業に就く人の数は、最近Uターン青年等他産業からの就業者が増加してきているものの、全体としては望ましい水準に達していない。このような中で、都府県の土地利用型農業等では経営規模の拡大が立ち遅れており、農業構造の改善は進んでいない」

 農水省の現況を示すデータ「『担い手の確保・育成』関係 」で、実態示す数字を拾い出すことにしよう。「基幹的農業従事者数」は1980年の413万人が、95年には256万人に減り、2010年には、わずか147万人と推計されている。39歳以下の新規「青年」就農者数はこの5年で年間4700人から、9700人に増えているが、ほとんど「焼け石に水」状態である。

 農業に株式会社を持ち込むことは禁じられている。しかし、もう、それしかないのではあるまいか。先の「答申」は「投機的な農地の取得や地域社会のつながりを乱す懸念が少ないと考えられる形態、すなわち、地縁的な関係をベースにし、耕作者が主体である農業生産法人の一形態としてであって、かつ、これらの懸念を払拭するに足る実効性のある措置を講じることができるのであれば、株式会社が土地利用型農業の経営形態の一つとなる途を開くこととすることが考えられる」と、なお控えめだ。いったい、どんな展望があるのだろう。全中の資料集のひとつ「生産基盤の整備、一層の充実を」にある、総事業費6兆円を超す「ウルグアイ・ラウンド関連農業農村整備緊急特別対策」の一覧表を見るにつけ、何も語っていない無策ぶりと予算の膨大さとのギャップにあきれる。

 農業に環境保全の力があることは認められていいから、競争の場に立つには不利な、中山間地などの農家には別の原則を立てて支援すればよい。

◆消費者が忘れられていないか

 農林漁業金融公庫の「消費者動向等に関する調査(第2回)」は、97年秋、全国の都道府県庁所在地で、2000世帯を対象にコメの利用実態を調べている。この連載第21回「コメ作りの破局を見ないために」を読まれた方なら、お分かりの通り、私はコメ・稲作問題には取材記者としてだけでなく、毎日お米をといでいる消費者としての立場でも関心を持ってきた。その意味で。この調査にはいろいろと面白い点があるのだが、ふたつだけ取り上げたい。

 「家庭内での炊飯回数の動向」はコメ離れと言われながら、家庭の炊飯回数はあまり減っていないことを示している。ところが、「ライフステージ別では,増えているは『小学校入学前の子供がいる世帯』で最も割合が高く29.0%で,減っているは『すべての子供が社会人の世帯』で7.4%となっており,子供が生まれ小学生になるまでは炊飯回数が増加し,こどもが成長し独立して世帯から離れていくにつれ回数が減る傾向があり,炊飯回数は子供の成長による食事スタイルの変化の影響が大きいと思われる」というのだ。何と言うことか、この国のあちこちの部門で歪みを引き起こしている「少子化」が米の消費動向にも効いているのだった。連載第1回「空前の生涯独身時代」で紹介したように生涯未婚率が急上昇しているのだから、子供がいる世帯が減るのは当然だろう。

 「購入している米の種類について」にある「米の購入単価」は「『500円台/kg』がもっとも多く」35.2%、「次いで『400円台/kg』(24.5%),『600円台/kg』(18.7%)と400円台/kg〜600円台/kgで8割を占めている」という。最初に書いたとおり、我が家ではキロ350円ですませている。もちろん、スーパーを選び、美味しく食べられる銘柄を選んでいる。この調査でも味と価格への関心がとても高いことが判明しているが、こんな高いコメを買わなければ満足できないのは、やはり問題だと思う。魚沼産などの高級銘柄米に混ぜものをしてしまう米穀業界の悪弊が現れている。

 自由競争を妨げ、コメの流通に介入し続ける国の政策がその基盤を提供している。年間50万トンを超える輸入米についても、「米国通商代表部(USTR)外国貿易障壁報告」はこう指摘している。「日本のWTOでの約束に基づいて購入されたコメの多くが在庫となっていることについて、米国政府は日本政府関係者に懸念を表明している。この政策は、WTOにおける日本の市場アクセス公約の精神に反して、輸入米が日本の消費者に届くのを妨げるからである」

 政府の反論は「米国のUSTRの98年外国貿易障壁報告書に対する反論書について」にある。「輸入米については、SBS入札数量の大幅な拡大、MA米の売渡価格の大幅な引下げといった各種の販売努力等を行ってきている。したがって、米国が指摘している在庫とは、我が国が政策的に消費者に届くのを妨げた結果として生じたものではなく、我が国の努力にもかかわらず売れ残った結果生じた在庫であり、米側の指摘は当たらない」

 コメの個人輸入を勧めるホームページがあちこちに現れている。例えば、「コシヒカリ」などで値段を見れば、キロ当たり2ドル以下で手に入ることが知れる。消費者に売れる輸入米は確かに存在しているのだから、日米どちらの言い分に理があるかは明らかだろう。



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