団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第77回「ハードディスクを変えた起業家魂」 (99/11/11)

 今年になって、際立って大きな記憶容量のハードディスクを搭載したパソコンが登場していることに気付かれているだろうか。20ギガバイト(GB)という途方もないディスクがデスクトップ型パソコンに組み込まれ、家庭に入り始めた。ノートパソコン用でも10GBの製品が出荷されている。しかも、これは限界ではなく、さらに大容量化が進むという。磁気記録ディスクの高密度化で最も難しいのは、現状で振れ誤差が1ミクロンの一桁下、1万分の1ミリ級の超高精度まで求められるモーターである。そこに特化して猛然と突き進んできたベンチャー企業がこの国にある。世界シェアの実に7割をもつ日本電産(本社・京都)。この会社がなかったら、我々のパソコンライフは違った物になっていた、と私は考えている。

◆進化の速度が断然違う

 ほぼ1年前に書いた連載第61回「パソコンとテレビの明日は」で、近未来の家庭に入るホームサーバーの技術予測があることに触れた。デジタル化、多チャンネル化し双方向型の各種情報もある時代に入り、高速レスポンスが必要なものはハードディスク、長時間ものは光ディスク、ビデオテープなどへと、複数媒体を組み合わせ、ひとつのサーバーに仕分けして収める構想だ。

 ところが、ソニーから発売された「バイオR」シリーズは、パソコンのハードディスクをビデオテープ代わりに使い、テレビ録画をする。その「仕様」を見ていただこう。

 最大の機種でディスク容量が「約27GB Cドライブ約4.9GB/Dドライブ約22GB」、内蔵テレビチューナーからMPEG2リアルタイムエンコーダーボードによる録画時間は「高画質 約6時間5分/標準 約12時間0分/ビデオCD 約32時間40分」。ここまで来てしまったと驚く。この何倍もの性能が、ほどなくもっと安価に手にはいるとしたら、どうだ。

 ソニーほど徹底していないものの、日立が11月下旬に発売する「NEWプリウス」にも26GBディスクが搭載される。

 ついこの間、容量5GBクラスのDVD-RAMドライブが現れ、ようやくハードディスク内容の完全バックアップが取れると喜んでいたら、光ディスクよりハードディスクの方が断然早く進化し続けていた。日本電産ホームページ「製品情報」を見ると、スピンドルモーターのところにHDDトレンド予測のグラフがある。ハードディスクは高速回転しながら、空気の流れで磁気ヘッドを数十ナノメートル(nm=1/1000ミクロン)、ディスク面から浮かせている。機械的精度は極限まで追い込まれ、それをベースに記録トラックの密度がどんどん上昇していることが読みとれる。「記録密度は過去10年に10倍の改善だったペースが、近年は100倍にも跳ね上がっている」という。急速に立ち上がっているカーブは、しばらく鈍化するとは思えない。

◆不可能に挑んで世界制覇した日本電産

 私が最初にハードディスクに出会ったのは四半世紀前、大学で卒業研究をしたときだ。直径35センチもある巨大なものなのに大した記憶容量ではなかった。ヒューレットパッカード社製には今なら信じられないほど簡単なDOSが付いていたが、助教授の研究室にあった東芝製のものはDOSさえない、単なるドライブだった。日本電産はちょうどそのころ、永守重信社長ら若い技術者4人で誕生している。

 若い彼らは系列・実績主義の国内では相手にされず、社長自身がもっぱら米国をセールスに歩いて変わり種のモーターを受注していた。ハードディスクがパソコンに内蔵可能な小型へ移行する時期に、彼らの最初の貢献がある。それまで外付けのモーターからベルトを介して回していたのに、モーターを回転軸に内蔵した直接駆動型を造る。これを足がかりに決定的な開発が進む。

 10年前に科学部員から京都支局員に出て、毎週の京都版経済面の半分を埋める「うちのヒット商品」シリーズを企画した。長いストーリー展開とともに、商品開発の瞬間を凝縮するトレーニングをしていた。日本電産ではこう描いた。

 「82年秋、セールスに渡米していた永守社長から『モーターの外側に必要だったブレーキと回転検出器、アースを内蔵すると米社に約束したから、1週間で作れ』と国際電話が入った」

 「モーターにこれだけ内蔵すれば、ディスク装置メーカーは機構部が要らず、得意な電子回路だけ用意すれば済む。ムシがいい注文だが、社長が受注した以上やるしかない」「5人は、工場に寝袋を持ち込んで開発作業を始めた」

 「余裕など無いと思われた直径7センチ、厚さ2.3センチの駆動部を3分の2に薄くし、ブレーキなどを加えて元の厚さにするアイデアに3日。磁石と電磁石部をやすりで削る試行錯誤も、髪の毛より細い導線の巻き方を工夫するのも十回以上。さすがに1週間では無理だったが、2週間目の朝、サンプルが完成した」

 「苦労は報われた。それまで数千台規模の受注だったのに、一挙に十万台の契約に成功、会社の主力製品になった」

 猛烈開発のペースは以後も続く。競争相手と同時にサンプル品の発注を受け、相手がようやく納品した頃には、日本電産は何度もサンプルを取り替えたあげくに量産ラインに流していたとのエピソードさえある。競争相手が生き残れるはずがない。

 そして、永守社長の技術的信念だろう。10年前にインタビューしたとき、既に1GBのハードディスクを造っていたが、それは2段重ねの弁当箱ほどあった。技術的予測からはハードディスクがフロッピーを駆逐しても、やがてレーザーで高密度記録が容易な光ディスク時代が来ると思われた。やんわりと質問してみたら「そうだろうか」と柔らかな笑みが戻ってきたことを記憶している。

◆総合電機の弱さ・特化した企業の強さ

 98年春、日本電産は東芝から、120年の歴史がある芝浦製作所モーター部門の営業譲渡を受け、合弁で新会社を発足させた。東芝による公式なプレスリリースよりは、日経新聞の「『異端』買われる京都企業 」の方が、事態は早わかりする。

 利益どころか赤字に転落している総合電機メーカーは、人員整理を含む大合理化に向かっている。それに対して雇用は守る、投資もすると約束する永守氏に、「会社の切り売りはしない」と拒んでいた東芝が折れた。

 この逆転の構図を、神戸大・経営の大学院生グループがレポートにまとめている。「ミニ・プロジェクト研究発表(99'1/9)」にある「日本の産業・社会が直面する諸問題についての考察 日本電産の事例」である。トップセールスで世界のハードディスクメーカーに数々の提案を続けてきたことや、開発設計段階から技術の分かる購買部員が参加し、手に入る部品を前提にしコストを頭に置いて開発をするなど、細かなところまで書かれている。

 特に注目されるのが、日本電産が積極的に企業合併・買収(M&A)をし、しかも成功させ続けている点だ。「95年買収した、シンポ工業は変速機械業界トップの名門企業」「業績が悪化しているのに経営者は手を打てず」「経営危機を招いていた」「再建について真っ先に行ったのが管理職の給料アップである」「平等主義が蔓延していた企業に競争原理を取り入れることにより、従業員の意識を改革し、たった1年で会社再建を成功させた」

 東芝から分離した芝浦電産も、既に黒字化が見えているそうだ。

 どんな会社でもM&Aを掛けているのではない。回転する物、モーターと関係している技術で優れているところに狙いを絞り、グループを拡大、技術の集積と相互利用を高めている。日本電産のM&Aは「成長に必要な時間を買う」戦略である。

 大学院生たちが触れていない話をひとつ紹介しよう。4人でスタートした日本電産は比較的早い時期に、私の記憶では取引先の企業が火災にあった際、技術陣をそっくり譲り受けた。グループ連結売上1兆円を目指す壮大なM&A戦略の小さな一歩は、こんなところにあったと思う。

 総合力という得体の知れない売り物を掲げて、日本的横並びで漫然とフルライン製品を揃えてきた総合エレクトロニクスメーカーとは、全く別のストーリーを歩んできたことがお分かりいただけよう。

 永守社長は今では「モーター業界のインテル」を目標にすると言い、学生の人気も高まり、ソニーなど格好いい企業の仲間入りをしつつあるが、プレイステーションやウオークマン、愛玩用のAIBOロボットを売っているわけではない。M&Aした企業で最初に命じるのは「整理、整頓、清掃、清潔、作法、しつけ」の「6S」という。ある意味でとても泥臭いが、仕事に対する意識、動機付けを最も重視している現れだろう。「6S」の採点が上がると業績が回復する不思議さ。

 京都版連載時には知り合った全国の方にメールで読んでいただくとともに、パソコン通信の私的会議室で書ききれなかった取材データを使い、補足していた。創業から間もない時期、日本電産がどういう試験をして新卒者を採用したか、信じられないようなエピソードも書いた。しかし、今に至る流れを知れば、笑い話ではないかもしれない。

 「普通の試験で成績順に採用して、いい人材を選べる企業でないと自覚ができていた」永守氏は、自分のサラリーマン体験から割り出して最初は「声が大きい受験者から採ってしまい」「翌年は、食べにくいスルメや干し魚がいっぱいの弁当を早く食べた者から、翌々年は素手で便所掃除をさせてきちんとやり抜く者を・・・という具合」だった。

 「こうして採用した人材が、立派に会社の中核になっている」と彼は語っていた。どの企業もが「ソニー」になれるものではない。しかし、こういう行き方でも成功のステップは上れるものなのだ。



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