団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

時評「メディアも大敗・総選挙情勢調査」 (2000/06/29)

 自民党が単独過半数を逸した今回総選挙。もうひとつ大敗したのが、各メディアの選挙情勢調査だ。私も新聞記者で、衆院ブロック別比例区当落判定システムの構築に携わり膨大な調査データを扱った経験がある。だが、今回は調査にも当落判定にも関わらなかったので、社外秘の情報を知らずに済んだ。自由な立場から、構造的な欠陥があることを公開資料をもとに指摘したい。

◆「自公保」に劣らぬ負けっぷり

 まず、二つの新聞の議席予測と選挙結果を見ていただく。本当は3大全国紙は並べたいのだが、読売新聞だけは”賢明”にも、このような比較が出来る表現を避けた。

《議席予測と選挙結果の比較》
党 派 選挙結果  朝日新聞(6/20)  毎日新聞(6/20)
自民 233 244〜257〜270 251〜263〜274
民主 127 100〜112〜124 90〜102〜114
公明 31 25〜30〜35 32〜33〜34
自由 22 13〜17〜21 21〜22
共産 20 19〜25〜31 22〜24〜26
社民 19 9〜13〜17 13
保守 7 8〜10〜13 10〜11
その他 6 2〜6〜10 5〜7
無所属 15 6〜10〜14 5〜7〜10

 選挙情勢調査として公表する以上、上の予測の範囲には入ってもらわないと困る。自民党から保守党までの7政党で、両紙の予測範囲にあるのは朝日新聞の公明・共産、毎日新聞の自由だけである。

 調査実施は投票日の1週間も前なので、投票態度を決めていない有権者が5割程度いる。このため情勢調査の報道を見て態度を決める、あるいは変える人が多数出る可能性がある。いわゆる「アナウンス効果」だ。

 98年参院選では投票率が前回比14ポイントも急増し、自民惨敗に導いた。45%くらいに考えていたのに、3割も増えて59%にもなった。これはメディア側の事前予測を根底から無効にする票数の増加であり、「アナウンス効果」も含めてやむを得ない印象が残った。しかし、今回の投票率上昇は前回比3ポイントあまりに過ぎない。

 実は、新聞社の情勢調査は「アナウンス効果」を盛り込み済みである。過去の経験則を蓄積していて、選挙区ごとに生データを加工してから発表する。微かな風も取り込むよう努める。今回のように投票率の予想外の上昇もなかったのに予測が外れるのは、生データの収集に失敗しているからだと私は考えている。

◆面接から電話方式に変更した落とし穴

 現在の情勢調査は各社ともほとんどが電話による聞き取りだ。有権者名簿から無作為抽出して電話番号を調べる場合は、最終的に有権者に行き着ける割合は5〜6割にすぎない。有権者名簿から離れて、コンピューターで電話番号をランダムに選ぶ手法も実用化されている。いずれにせよ、過去に自宅や勤め先を割り出し面接調査していたのと比べて、精度がひどく落ちていると思う。

 私自身、支局員時代に面接方式の調査は何度も指揮した。都市近郊の団地族に多い、自宅に戻ってこない、なかなか会えない「人種」から,どれだけ調査票が回収できるかで精度は決まると信じていたし、そのために学生アルバイトとしてプールしていた精鋭メンバーとお金を惜しまなかった。

 ベテランになると探偵まがいの調査能力を発揮し、駆け落ち先やサラ金地獄で夜逃げした一家を見つけだしたりしたものだ。100人以上の学生を2日間フル活動させる仕事は体力、知力ともに消耗が激しく、費用もかさむ。新聞記者もやりたがらなくなって電話に移行したのだが、時代の流れを考えるといかがなものか。

 自分の電話番号を電話帳に載せない人が増えるようになって久しい。そうする人と、昔から電話帳に載せたままの人と、ライフスタイルに違いはないか。さらに携帯電話の普及で固定式の加入電話が減り始めているのが現代である。電話帳から調べられる「人」には、「定住」「安定志向」などのバイアスがかかっていないか。

 今回の結果では民主党の躍進よりも、自由党と社民党の頑張りが驚きだった。 その答えの一つを、読売新聞によるインターネット利用者900人継続調査「第3回 」に見つけた。政党の打ったCMで印象に残ったのは、自由党が37%とダントツなのだ。2位の民主党にして13%に過ぎない。ネット上で把握されていた「動き」は情勢調査には表現されなかった。これを男性の動きとすれば、社民党は今回、「護憲の党」としてよりも「女性の党」として認識された観がある。これを支えた女性たちの動きも、情勢調査では十分に把握されなかったと思っている。

 最初にあげた新聞の予測を比例区と小選挙区に分けると、小選挙区は話にならないが、比例区の方がまだ当たっている。民主・公明・共産はまずまず正解と言える。しかし、自民の落ち込みと自由・社民の伸びは完全に外していた。この部分にこそメディアの情勢調査がすくい落とした動きがあった。

 「自由・社民、無党派取り込む 共産は支持層広がらず」で、読売新聞の出口調査でみた票の流れが紹介されている。

◆今回の風はどう吹いたのか、そして

 全国11比例区での各党得票数合計が、選挙の結果を象徴している。自民党は1694万票で96年から126万も減らし、民主党が1507万票と肉薄した。公明党は敗れたとは言え、776万票と過去最高を記録した。創価学会マシンは動いていた。

 共産党と社民党は対比が際立つ。55万減らして672万票に落ちた共産に、206万も積み上げて560万票になった社民が迫っている。

 今回総選挙を全国各地の地方版でウオッチしていると、共産の候補者に個人的な輝きが薄いことが気になった。共産は党や周辺組織の専従活動家が多く、社会活動家たちが候補者に増えた民主や社民に比べて見劣りする。投票日前の中傷文書大量配布の影響も多少はあったにせよ、この差は大きい。前回の第86回「『神の国』総選挙と無党派層の行方」で、風には二種類あると述べた。自民党批判からくる「野党第一党効果」と、これまで共産がほぼ独占していた構造的な追い風要因である。しかし、これからは構造的な追い風も、魅力ある候補者がいるころには分散して吹くと観たい。

 そして、それならば、選挙情勢調査で精度の良い予測をするのは、ますます難しくなると感じている。



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