団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第91回「無策コメ農政が専業農家を壊滅へ」 (2000/09/21)

 収穫の秋が来た。今年も豊作で、既に新米が食卓にのぼっているが、いつもの年ほど値段が高くないことに気付かれているだろうか。私の周囲でも夏場に買った昨年産コシヒカリと、コシヒカリ系の早場米新米がほとんど同じ値段である。自主流通米の取引で、前年より10%も安い相場が出来てしまった。消費者には安ければよいものだが、今回はそう単純ではないと感じる。結果として起きる事柄は、この国のコメ作りを基盤から揺るがしかねない。

◆昨年来全く売れなかった政府備蓄米

 食管制度が出来て以来初めて、政府によるコメの買い入れがゼロになると予想されるほど、あちこちにコメがたぶついている。税金を投じてエサ米にするなどの処理をしなければ、国内米の余剰在庫量は年末300万トンに膨らむ。安値の原因はこうした過剰感にある。

 食糧庁が昨年11月に作った「平成12年産米穀の生産及び出荷指針」にある数字でもう少し詳しく説明すると、政府米から販売が予定されていた75万トンが全く売れず、今年10月末の予想在庫203万トンにそっくりプラスされ、かつ、豊作で30万トン程度が余分に生産される事態である。

 5年前の新食糧法スタートで、政府米は凶作に対する備蓄150万トン(プラスマイナス50万トンの幅あり)に限るとし、毎年買った分は翌年に売り、さらに買い足すシステムだった。ところが、昨年からコメ余りで先安感が生じたために政府や全農が関係しない「計画外ルート」からどっと手持ちのコメが現れ、卸売業者は逆に当面必要な量しか買い取ろうとしなくなった。政府の目算は市場の動きの前に完全に外れた。

 平成8年から月別にまとめられている「米穀の卸売価格調査結果」を見てもらうと、ほとんどの銘柄が2年前の秋、新米が出た頃をピークに下がり続けている。

 値崩れの進行を止めようと「減反、100万ヘクタール台へ 全中が方針、過去最大に」などのニュースが流れている。98年に積み増されて96万ヘクタールにもなっている減反を、さらに10%程度拡大する案が有力らしい。「2、3年辛抱してもらえたら適正在庫まで減るから」と政府は約束していたのに、現実はさらなる減反の拡大である。

 豊作貧乏に加えての減反拡大は、「後継者なし・高齢化」農業でこれからの稲作生産を支えてもらわねばならない専業農家に、壊滅的な打撃になりかねない。商品の値段が下がれば引き合わない生産者は手を引き、生産性の高い生産者に設備が集約されて、競争力がますます高まる、という経済の基本図式がコメには通用しないからだ。

 私の連載コラム第21回「コメ作りの破局を見ないために」でも描いているように、全体の4分の3を占める兼業農家は、先祖譲りの水田を守るため、あるいは自分で安心して食べられるコメを求めて、採算性を度外視して作っている。コメ以外の収入が大きいから、値段が多少安くなっても関係ない。

 専業農家は違う。投資した経費を回収して、来年に回さなくてはならない。10%の売り上げ減はそれだけでも大きな打撃だが、減反が追い打ちを掛ける。

 減反を拡大する場合、専業農家だろうが兼業農家だろうが、おかまいなく押しつけられる仕組みになっている。98年の減反拡大でも問題になった専業農家の保護は難しい。だから、もっと効率化して価格低下に対処して行かなくてはならない時に、一番強力な武器である「規模のメリット」が削られるのだ。

 専業農家の疲弊は既に相当なものになっている。農水省の第1回食料・農業・農村基本問題調査会に出された資料「食料・農業・農村をめぐる情勢」「2生産構造(5)農家経済」に、世帯員1人当たりの家計費比較がある。勤労世帯を「100」とすると、95年の時点で、農業外の収入に主に依存している第2種兼業農家は「135.8」もあるのに、専業農家は「91.6」しかない。

 今回の減反拡大では、専業農家は反乱を起こす立場にあると思うが、地縁的なしがらみが許すはずもないだろう。

◆コメ余りの背景に使われぬ輸入米の大量存在

 今年7月、世界貿易機構(WTO)農業交渉について、東北農政局主催で広く関係者から「意見を聞く会」が開かれている。その「議事録」で農業団体からこんな発言がある。

 「ここ数年間のミニマムアクセスの中で、米の輸入が拡大されてきたという話がありましたが、それと並行して、米価というのは非常に低下をしてきております。実はこの米価の低下によって、いわゆる中小農家や兼業農家と言われている方々よりも、むしろ中核的なその担い手となるべき大規模農家に対する影響が非常に大きく出ているということが現実に起こっています」

 「山形県庄内につきましては、ご承知のとおり大変な米どころではございますけれども、新しい基本法の中で一番に担い手を育成していくんだという言葉はあちこちに出てきているにもかかわらず、その担い手となるべき大規模農家そのものが意欲を失っているというのが現実です」

 これに対する農水省の答弁は、例によって明解ではない。

 「そこで、国内政策が大規模農家の育成ということと地域社会の維持という点で矛盾があるというご指摘、あるいは米の価格の低下というのがむしろ大規模農家に影響があるというご指摘がございました。これはどちらかといえば貿易のルールはもちろん関係しますが、国内政策をどうするか、特に米の政策をどうしていくかという問題だと思います」

 まさに、どのような政策を示すべきか、問われているのに現状維持に近い作文が示されるばかりだ。

 2年前の「食料・農業・農村基本問題調査会答申」でも、「農地の流動化を促進するため、農地の貸借や農作業の受委託を加速し、地域農業の中心的な担い手となる人に対する農地の利用集積を促進していくことが必要である」「各集落において農業者相互の機能分担といった観点も踏まえ地域農業の将来のあり方を展望しながら、地域で取り組むことによって、中心的な担い手となる人が農地を提供する周囲の小規模な農業経営を含めた地域社会と融和できるよう配慮すべきである」とあるだけで、どうしたら可能なのか示そうとしない。

 「ミニマム・アクセス米」という不思議な言い方で、年々国内に入る量が増えている輸入米。この調査会に出された資料「2ミニマム・アクセス」で9米穀年度の状況が分かる。

 繰り越しと新規輸入で82万トンもあり、さばけるのは38万トン。10米穀年度へ持ち越しが44万トンだ。2000年には新規輸入だけで80万トンにもなる。はっきりした最新の数字が明かされないのは、この「隠れ」在庫がかなり膨大なためだろう。主食用には回さない、主に加工用とにしているものの、これもちゃんとしたコメなのである。

 輸入米全てを加工用にして、海外から「市場と完全分離している」と言われるのを避けるため、輸入米もいくらかは主食用に回している。梅雨時に近くのスーパーでオーストラリア・コシヒカリを見つけて買った。10キロ3400円くらい。梅雨時にもなると温度管理の悪かった国内米は、古米に近づき嫌な臭いを持つ。しかし、南半球のオーストラリアでは新米である。直前に買った北陸産コシヒカリより明らかに美味しかった。

 2000年以降のことはWTO農業交渉次第であり、政府は見通しを示せていない。米国は高率のコメ関税を大幅に引き下げるよう求めている。コメの輸入は国家貿易を続けると主張し管理し続けても、たとえ国内産米の生産が需要と見合う水準まで落とされたとしても、安くて美味しいコメの大量存在を背後に見ている「市場」は勝手に振る舞いだし、もう止まることはない。


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