団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第93回「ロボット王国にほころび見える」 (2000/11/02)

 ソニーが自律型エンターテインメントロボット「AIBO」の第2世代機を発表し、11月16日から受注を始める。限定発売だった初代と違い、いよいよ本格的な商売になる。一方、ホンダが家庭での介護用などを目標に手がけているヒューマノイドロボットもNHKスペシャル「世紀を超えて テクノロジーあくなき挑戦」に登場し、全国区の話題になった。日本ロボット工業会の「年間推移」によると、工業用ロボットを中心に年間5139億円も生産され、半分以上は輸出に回る。実用も愛玩用もそろった、この「ロボット王国」ぶりに、実はほころびが見え始めている。

◆ロボカップ・サッカーでは既に弱小国

 8月末から9月初めにかけてオーストラリアのメルボルンで、ロボットが自分で状況判断してサッカーをする競技会「ロボカップ2000」が開かれている。この大会はもともと、私の連載コラム第39回「ロボットが人と持ちつつある関係」で紹介しているように、日本が呼びかけて始まり、第1回は97年に名古屋で開かれた。今年もお家芸の強さを発揮しているかと言えば、そうでもないのである。

 競技にはいろいろな規格があるが、縦9メートル横5メートルのフィールドで中型ロボット4台ずつが対戦するものが最も代表的だ。今回は日本から5チームが参加したが、決勝トーナメントの8枠に残れたのは大阪大だけだった。各国のチームがようやく整備された98年のパリ大会で、日本は3チームが決勝進出を果たした。今年は決勝に残った大阪大が四強止まり、優勝はドイツの大学だった。

 やはり決勝に奈良先端科学技術大学院大学1チームしか残れなかった99年大会を、金沢工大チームがまとめた「ロボット サッカーW杯報告」は、「特に、日本では敵なしの阪大チームが予選敗退したことは日本にとって大きなショックであった」とし、国家プロジェクトになっているドイツやイタリアに比べて日本の力の入れ方に問題があると警鐘を鳴らしている。

 アジアをみてもイランの大学が中型部門で昨年優勝し、今年も四強に残っている。シンガポールも熱心である。

 同報告は「優勝したイランチームのロボットは、視覚センサーには家庭用ビデオカメラを使い、OSはMS-DOS、フロッピーでプログラムをロードし、制作費は1台1000$であることがわかり関係者を多いに驚かせた」「しかし、イランチームはロボットにお金をあまりかけてはいないが、人と時間は十二分にかけていた。イランチームのストックホルム大会参加者は合計10名であり工大チームの2倍であった。ロボットも各学科の学生がそれぞれの得意分野を生かしてタイヤから自主開発したものであった」と、強さの秘密に踏み込んでいる。

 テレビ放送されて人気が高いロボットコンテスト、いわゆる「ロボコン」の類と、ロボカップで求められる技術的なレベルは、はるかに違う。日本のロボット技術がいつまでも抜きん出ていられると思わないで欲しい。

◆AIBOたちの華麗な戦い

 ロボカップには、ソニーの「AIBO」同士3台ずつで戦う規格もあり、今年は12チームが参加した。日本からは東京大と大阪大だが、いずれも四強に残れなかった。ここでは中型部門のようにハードウェアの製作、改造は許されないので、頭脳の勝負になっている。

 昨99年の戦いぶりから継続して読んでいくと、問題の核心が見えてくる。

 ソニーのウェブにある「ROBOCUP_99 | Dreamers Dream | 001」は東大チームについてこう記す。

 「東京大学は、悩んでいた」「この4足歩行のロボットの場合、ふつうはボールを足で蹴るようにプログラムされている。しかし、蹴る、というよりは当てる、に近いので、力が弱い。『しかも、頭が大きいので蹴る前に頭が当たってしまうんですよ。だったら、頭で蹴ってしまえ!と考えたんです。』かくして他のどのチームも考えなかったユニークな発想が誕生した」

 この素朴な頭突き作戦の東大に対して、優勝したフランスのLRPチームは華麗である。

 「歩行システムや運動性能は予選リーグの時から話題になっていたぐらいだ。ボールの認識力ももちろん高いのだが、とにかく速い。そして、素晴らしいGKのフットワーク!ゴールマウスに近づくボールにすばやく反応するそのディフェンス力は、昨年度のW杯を制したフランス代表のGK、バルテスを彷彿とさせた」

 このとき初出場2位に輝いたオーストラリアのニューサウスウェールズ大チーム(UNSW)は、今年、地元で開かれることになる大会に向けてさらに研究を進めた。

 両雄再び戦う今年の決勝戦。「RoboCup 2000 | Daily Reports: Final」は、こう伝える。

 「UNSWは、独特の歩き方による素早い移動性能と、抜群の視覚能力を兼ね備えた強力なロボットに仕上げている。これには、さすがのLRPも歯が立たない。観客から『オージー』コールが巻き起こる中、次々と得点を重ねていく」

 「優勝は嬉しいが、ここに長く居続けるのは難しいと、UNSWのリーダーは早くも来年を意識したコメントを残した」

 我々が知っているAIBOたちとは、同じハードウエアでありながら、全く違う世界が展開されている。プログラミングの妙だけでこんなことが出来る。知の優劣を残酷に見せる。AIBOが第2世代に入り、自由に手に入るようになれば、大学チームでないところからもっと新しい才能が現れるだろう。ソニーは面白いプラットフォームを造ったものだと、改めて思う。

 ロボカップは2001年は米国シアトルで、そして2002年にはサッカーワールドカップと合わせて、日本で開催する。そこでは、現在の中型部門を超えた「人間型」ロボットによる競技が計画され、各国で開発が進行中である。

◆ロボットと人、特にわれわれ日本人と

 末松良一・名大教授が開いているページ「産業用ロボット王国(日本)」には「世界の工場で稼動するロボットの約6割が日本にいる.産業用ロボットの生まれたアメリカでも10パーセント程度である.ドイツ,イタリア,韓国,ロシアがこれに続く」とある。

 こんなにも日本にロボットが多い理由を、末松教授はロボット観の相違から説明する。「日本人のロボットの原形は,茶運び人形や山車からくりである」「欧米哲学には,機械・ロボットが高度化・精密化すれば,動物・人間と変わらなくなり,いずれは人間と競合するようになるという思想が根強い」

 誰にでも愛される「鉄腕アトム」が日本人のロボット観を集約したものであり、欧米型は人気俳優シュワルツネッガーが演じた殺戮ロボット「ターミネーター」が典型なのだと。

 AIBOがこの国で生まれた理由が分かる気もする。そして、AIBOだけが独走しているのではない。

 日本ロボット学会が開いた「第6回シンポジウム・パーソナルロボットの現状と将来」では、6社のロボットが演題に上がっている。この中に対話ロボット「タマ」で登場する松下電器は10月半ばに、高齢者ケアペットロボットなどを取り入れた老人ホームを、来年12月に大阪の寝屋川で開業すると発表している。

 25万円もした最初のAIBO3000台が、20分ほどで売り切れた日本。そのオーナーたちの愛し方は、ネット上でも拝見できる。「aibo Owner's WEBRING」はオーナーが開いている73のページを結び、リストアップしている。自慢のAIBOの仕草をビデオで見せているページが結構多い。

 AIBOを大集合させて、自分のAIBOを仕草で見分けるイベント「AIBO親ばかコンテスト」がある。オーナーの「miya7&yokorin's AIBO page」にある、それを伝える絵・写真レポートが興味深い。「オーナーが後ろを向いている間にAIBOに色の首輪をつけて、動きだけをみて当てます!」という。同型がずらり並ぶ中を、99%のオーナーが「わが子」を当ててしまう。

 一連のイベントには、99年ロボカップで優勝したフランスチームのAIBOも登場している。「台を斜めにしてもちゃんと重心をとって、転ばない」「自分でブランコをこぐ」様が絵と写真で紹介されている。「おおー…、スーパーアイボ」

 こんなにロボットが生活の中に浸透していって、何かを起こさないのだろうか。最後にこのテーマで検索していたら、お茶の水女子大の坂元章さんによる「玩具としてのロボットと子供の社会的発達−来るべき悪影響論に対して−」を見つけた。

 テレビゲームやインターネットによる社会的不適応の問題を扱った実証的な研究結果を引きながら、将来に現るべき対話型ロボットが悪影響を及ぼす可能性や対処について考えている。

 実際問題として、それほどのロボットは出現していないのだが、われわれ日本人は例によって楽観的に受け入れてしまうに違いない。第39回「ロボットが人と持ちつつある関係」で描いているように、「たまごっち」や「ポストペット」への感情移入は半端ではない。森羅万象に神や魂を見る日本人の特性から、少なくともオーナーたちは既にAIBOを「生きた」存在としてしまっていることを改めて指摘するまでもなかろう。   



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