第107回「非婚化の進展をITが阻み始めた」

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(故・山下憲治INTERNET WATCH編集長に捧ぐ〜その慧眼の思い出に)


 2000年国勢調査の「抽出速報集計結果」が6月末に公表された。この連載コラム第1回「空前の生涯独身時代」で「男性4人に1人は生涯結婚しない、あるいはできないかもしれないという、空前の『生涯独身時代』の到来」を予測した。30代後半男性の未婚率25.7%という速報値は一見、私の予測に近い。しかし、実は少子・高齢化社会を生み出した結婚しない風潮「非婚化」を、ITが阻み始めたという驚くべき異変が隠されていた。世の中に見えていないものを可視化するのがこのコラムの特質であり、今回は統計数字による謎解きをいっしょに楽しんでいただけよう。

◆40代、50代の男性が結婚を諦めなくなった

 国勢調査は総務省所管であり、過去の数字は「結婚および配偶関係に関する統計」などで調べられる。婚姻関係は「未婚」「有配偶」「死別」「離別」に分けられ、一度でも結婚すると「未婚」から外れる。発表されると直ぐに、この「未婚」の割合を今回の速報値と併せて1980年から5歳刻みの世代別に並べて、どう動いているのか見た。  30代前半で男性42.9%、女性26.4%とそれぞれ4割、2割の大台を超えた。現在の少子化現象を生み出した「晩婚化」、さらに進めて言われる「非婚化」が進展しただけに見えるかも知れない。しかし、30代後半男性の未婚率25.7%を見て、95年国勢調査で吟味した経験から低すぎると感じた。もっと高くて良いはずなのにと思い、周辺を見回しているうちに異変に気付いた。

 起きている事態を分かりやすくするために、「5年間の脱未婚ポイント」を計算した。例えば12%あったものが9%になったとき、差し引き3ポイント減ったと言う。国勢調査の間隔、5年間に男女各世代が未婚者の割合を何ポイントずつ減らしたか計算し、同一世代の数字が縦方向に並ぶようにしてみた。その世代の未婚をめぐる経過が一覧できる。   最も劇的なのは、2000年国勢調査の時点で50代前半の男性である。30代後半から40代前半になる間に未婚率を2.5ポイント下げ、40代前半から40代後半になる間にはわずか0.5ポイントと、この世代の結婚は終息に向かったと見えた。ところが、最近5年間、40代後半から50代前半に移る際に1.2ポイントも未婚率を下げてしまった。これは前の5年間の2.4倍。この世代の男性人口は527万人いて、1.2%は6万3000人にもなる。

 40代後半から50代前半に移る際の0ポイントから、50代になって0.8ポイントに戻した50代後半の男性も、最初に計算して我が目を疑った。この表では斜め左上の数字が、ひとつ上の世代が同じ年齢の時期にしたことを表している。40代前半までが、上の世代に比べ目覚ましく結婚に動いたことが知れる。

 女性はどうか。女性の50代にも、男性側の3分の1くらいの規模で似通った動きが見られる。表に書き切れていないのだが、60代に見られる結婚の動きがもっと高齢の世代にも続いている。こちらは本格的な長寿時代を迎えて、老後のパートナーを持ちたいのかもしれない。

 従って、起きている現象はこうだ。この5年間に一度は結婚を諦めていた40代、50代の男性が結婚に動いているのであり、多くは子どもを産める若い女性を相手にしていると考えられる。30代女性の結婚が上向いているのは、このためではないか。

 これだけ中高年になっても結婚を続けるのなら、現在30代前半で42.9%もある男性未婚率も最終的には2割そこそこに落ちてしまうはずだ。「生涯未婚率」は50歳時点の未婚率を示す人口学用語。女性ではほぼ子どもが産めなくなるから、人口増減に影響しなくなるとして定められた用語だが、こうなると男性側は生涯未婚率を額面通りに使うのはまずい。

◆いったい何が起きているのか検証しよう

 この5年間に何がどうして、こうなったのか。

 結論から言えば、1996年を本格的な立ち上がりとするインターネットの国内普及、さらに2000年に至って大爆発した携帯電話によるネット利用の拡大がもたらした現象としか考えられない。しかし、他にも可能性がある。

 最も考えられるのは、外国の花嫁を迎える国際結婚の増加である。2000年の 数字が手に入らないので、厚生労働省の人口動態調査から2000年を1999年で代用して、次の表を作った。  5年ごとの数字でもあらましは知れよう。1990年頃からフィリピンや中国の花嫁を迎える件数は2万の大台に乗り、1999年にやや増えている。しかし、結婚数の増加はこんな範囲にはなく、最近5年間すべては説明できない。

 これに対して、検索サイトgooで「結婚相談」をキーワードに引けば「8873件」も該当がある。全部はとても見て回れないが、先の国際結婚の斡旋もあれば、数万単位の会員を組織しているところ、草の根的な相談所も多数見られる。インターネットが国内で立ち上がって初めからかなり目立っていたのが、こうした結婚相談だったと記憶している。

 インターネット以前、パソコン通信の時代からネット上で知り合って結婚した例は個人で知る限りでもいくらもある。インターネットの中には非常に多様な「場」が作られ、そこで様々な出会いが可能になっている。

 最近の話題はそのものすばり「出会い系サイト」である。gooの検索結果は「6503件」該当。こちらはパソコンよりも、むしろ携帯電話でのアクセスが主流だろう。京都での出会い系サイト連続殺人事件に代表される犯罪と結びつけて語られやすいが、考えてみれば、犯罪を多発させるほど出会いが成立していて、一方で真っ当な男女交際が成立しないと決めつける方がおかしい。

 ZDNetニュースの2000/12/7付「出会い系サイト利用者アンケートで『驚きを隠せない』結果」は利用者には男女とも多い「火遊び・ときめきたい症候群」のほかに、女性の「約20%が恋人・結婚相手を捜すことを目的としている」「男性利用者にエンジニアが多い」と伝えている。年齢層は男女とも「30歳以上40歳未満が最も多く、次いで、男性は40歳以上、女性は20歳以上30歳未満が多くなっている」とも。

 出会い系サイトが結婚の数を増やしているかどうか、直接調べる方法はないが、統計から検討はできる。

 2000年は「ミレニアム・ベビーが欲しいから」との願いで結婚件数が増える と予想されていた。平成12年人口動態統計月報年計の概況「4 婚姻」は「平成12年の婚姻件数は79万8140組で、前年の76万2028組より3万6112組増加し、婚姻率(人口千対)は6.4で、前年の6.1を上回った」としている。添えられているグラフで見ても過去の流れからは不連続な増え方だ。

 では「人口動態統計月報」 で、2000年5月に携帯電話1000万台に達したことを念頭に、月別の動きをチェックしてみよう。2000年1月は前年同月比47.8%増の68,774組が結婚した。本当にミレニアム・ベビーが欲しいのなら妊娠期間を考えると1月、2月の結婚が限界になる。12月分の月報に見られるように、4月にかけて前年同月実績を割り込むようになった。

 しかし、5月から再び増勢に転じる。12月には前年同月比43.3%増の78,982組のカップルが誕生した。年が明けて1月、前年1月が47.8%増だった反動で普通なら大きく落ち込まねばならないのに、わずか0.04%減の68,478組が結婚している。この推移をミレニアム・ベビーで説明するのは無理である。

 国立社会保障・人口問題研究所が97年に実施した「第11回出生動向基本調査〜結婚と出産に関する全国調査〜独身者調査について」は「全体として未婚者の意識は 結婚から離れつつある」と分析した。その背景には現代の日常生活では男女の出会いが乏しい事情が存在し「青年層の異性交際は意外に低調なまま推移している」「男女とも約半数の者が適当な結婚相手がいないことを独身にとどまっている理由として挙げている」と述べている。

 インターネットの普及、出会い系サイトの出現は、これを劇的にひっくり返してしまったと言えよう。国勢調査は10月現在のものだから、出会い系サイトによる効果は本格的には反映されていまい。出生数の変化として現れるのもこれからだ。どれほどの規模で出生を増やすのか、注目である。