特集「2001年・読者どう読み、どう評価」
◆健康や教育問題から日本の今、明日
今回、投票していただいたのはメールマガジン読者が大半で42人の方たち。お一人5票まででお願いしました。ベスト10を以下に掲げますが、端的に表現すると教育や健康問題、さらにはこの国、日本の今と明日についての問題に票が集まった印象があります。
ネットの話題ものとして「検索サイト」、娯楽系の分野から辛うじて「テーマパーク」が入ったかな、といったところです。
まず、健康については「毎回たのしく拝見しています。最近では、『食塩摂取と高血圧の常識を疑う』が私の常識を覆す記事でした」とおっしゃるMさん、「医療関係の話は興味深かった。TV等で特集を見ることも多いが、自分が実際に病院に駆け込む場面になると医者任せになってしまいがちだ。せめてもらった薬の処方箋ぐらいは読もうと思った」とのSさん、あるいは「個人的には食生活、栄養関係、運動など健康に関する記事などが好きです。食塩摂取の話はとても面白かったです。また、アメリカに住む日本人なので、日本と世界の比較という観点も良かったです。(投票5つにはしぼりきれませんよぉ・・・・(笑))」というRさんのような方が代表的です。
2001年は読者の皆さんといっしょにコラムを作る新企画「読者共作」を試みました。ベスト10に2本も入っています。
獣医学科を卒業後、バイオ系大学院生をされているKさんから「やはり『バイオ立国』は外せないでしょう。今後の自分の進むべき道も含め、大変示唆に富んだ話であります。それから、読者共作が非常に素晴らしい内容でありました。今後とも、大いに共作を配信して欲しいし、僕自身も意見を発信できる機会があったら是非書いてみたいネタは沢山あります」と、心強いコメントをいただいています。
このコラムでしか出会えない「ものの見方のスクープ」を、2001年も続けることが出来たと思います。
Nさんは「統計資料などから現在多くの人たちの共通認識と現実とのギャップや予想以上の事態の深刻さを指摘することが『インターネットで読み解く!』のおもしろさだと思います。その点から考えると、今年は107回目の『非婚化の進展をITが阻み始めた』がダントツに興味深く読めたと思います」とおっしゃっています。
「国からの派遣で、市役所の幹部として仕事をして」おられるFさんからはこんな評価をいただきました。
「仕事に対する意識は確実に変わりつつあり、真剣に効率性を考えるようになってきてはいることは確かなのですが、巨大かつ精緻に組みあがっている現在の行政システムを大きく変えることは容易ではありません。国、県を含めて全体が変わらないと、部分だけ変えようとしても限界があるということを実感します。したがって、それにはそれなりの時間がかかることもやむを得ないことかな、とも思います」「ただ、改革の方向性を見失わないためには、様々なな視点からの質の高い情報に触れることが必要だと感じており、従来の新聞に飽き足らなかったところを、WEBやメールマガジンで補充させていただいているところであり、本メールマガジンのような活動には本当に感謝しています」
読者投票の全体をまとめると次の表になります。
次にアクセス件数のベスト10です。私のコラムは公開した後も長期にわたって、個別データは古くなろうと見方として新鮮であり続けるのが特徴です。「google」などの検索サイト経由だけで月間2万件のアクセスがあり、1997年の初期作品でも毎日数回、数十回と読み続けられています。アクセス件数をまとめると、2000年以前の作品が予想外に幅を利かせています。
「学力低下問題の最深層をえぐる」と「再論」は、例えばgoogleで「学力低下」を検索して得られるリストで、最も目立つ位置に置かれる状態がずっと続いています。公開当時に本当にあちこちで話題にしていただいた影響がまだ続いている訳です。続きを2001年の作品が固めていますが、「小泉内閣」や「大リーグ」が入って読者投票のランクとは少し違います。ネットで話題になった度合いは、アクセスランクの方が反映しているようです。
その下、8千件前後も読まれている1999年の「日本の自動車産業が開いた禁断」、1997年の「空前の生涯独身時代」は私のコラムでは古典的な存在、定番になってしまいました。でも今でも新鮮です。執筆1年余を経た現時点でタイムリーな、2000年の「DVDとEMS台頭にみる物作り王国変貌」が予見した先よりも、もっと先を見ているからでしょう。
◆読者の皆さんから感想と注文
「相も変わらず日本の行政が理解に苦しむ行動をしていますが、それが民間にも波及した病態をしっかりと描き出そうとする姿勢に共感を覚え、自身が考える際の重要なヒントとさせていただいています」と言われるSさんの注文はこうです。「日本にはあらゆるものが『育たない』『育てられない』土壌ができていると感じてます。そのあたりを更に具体的に突っ込んでいくようなコラム(以前の続編なども含め)を期待しています」
Fさんの感想もこれに近いものでした。「ネットを活用したこのマガジンは、幅広い内容をフォローしてくれていて、狭くなってしまった自分の視野を広げてくれる気がします。またネットひとつでこれほど世界が広がるものかと改めて痛感しました。今までネットというとどうしても閉鎖的な印象しかなかったのですが、このコラムを読むようになり、ネットの世界が外に繋がっていく新鮮さを感じます」「取り上げてほしいテーマなのですが、第100回「ネットジャーナリズム確立の時」の続編があればお願いします。あるいはもっと広い意味で、インターネットの今後の在りようなど、ネットを最も活用されている方たちの意見を聞かせてください」
また、Yさんは取り上げてほしいテーマとしてたくさん列挙されています。「出口の見えない不況の中での"不平等社会"化論議の現在と論拠」「日本に定住する外国人にとっての"不況"」「テロリズムという観点でのオウム地下鉄サリン事件の"再評価"」「ネット上での"反戦"運動とネットマナー」「子育て支援策の現状と少子化のその後」「狂牛病とファーストフード産業(というか、牛肉ハンバーガー製品)※人間は牛をこんなに(今までほど)食べなくても生きていけるはずだとして」「加工食品の表示と実態(1粒でも国産大豆を使っていれば"国産大豆豆腐"と称してよいと聞きましたが)※上の2つのテーマと食料自給率の問題の絡み」
「景気動向がきになるなか主要産業の動向の特集と教育問題に興味があります」と注文のFさんや、やはり教育関係の「勤務先(私立大学)に関係する話題への関心が高くなりますね。文部科学大臣の『トップ30大学』構想についても、切り込んでいただければと期待しています」というHさんたちの要望は、読者の皆さんに共通したもののようです。今年も続けていくことになるでしょう。
個別、具体的なテーマを希望されている方もいます。
Iさんは「最近興味を持っているのは『日本ではマイナーながら重要なもの』です。たとえば公会計とか(新)公共経営。論理療法(別名、理性感情行動療法)などです。いずれ、『重要なはずなのに日の当たらない学問分野はなぜ生まれるか』といったテーマで書いていただければ幸いです」と書かれています。
一方、Tさんは住宅問題です。「日本の住宅事情について、興味がございましたら取り上げて頂けないでしょうか。最近数十年の日本は、持ち家志向が高く賃貸志向は低かったのではないかと思います。しかし今後雇用が流動化するであろうこと、住宅金融公庫が廃止になることから、長期のローンが組みにくくなり、住宅の購入は今までより困難になると思われます。一方で国策としては、住宅ローン減税や住宅取得目的の贈与税軽減を行い、さらに案のみで正式には提案されませんでしたが相続税の控除枠を住宅資金援助で先取りする、という施策で住宅購入需要を維持しているようです」「また連載にもありました非婚化は、家族向けでない単身者向けの住宅需要を新たに生み出すかもしれません。住む場所を求めている側、供給する側、国や地方自治体、それぞれの現状と今後について知りたいと思います」
読者共作シリーズで実証されたように、問題意識さえあれば誰でもインターネット検索というツールを使って実証的に切り込んでいくことは可能なのです。既に考え始められている皆さんの問題意識の力を借りて、新しいフィールドを切り開くことを目指しましょう。
読者共作シリーズは、敢えてアナウンスしない場合でも随時受け付けているとお考え下さい。
最後に、Nさんの「多種多様なテーマについて深く切り込んでいかれる能力にはただただ敬服しております。これだけのテーマをどのように取材されまとめ上げていくのか等も含めて執筆されている環境等を一度紹介されてくださればと思っております」へ、メディア人向け掲示板に書いたものを使い、一部お答えしましょう。
詳しくは第25回「インターネット検索とこのコラム」を読んでいただきたいのですが、インターネット検索は単に便利なツールというに留まらず、この社会を圧縮、反映する存在なのです。キーワードで切り取った断面を丹念に読んで概観し、批評する精神さえあれば、既に公開されているデータを使いながらもニュース仕立てのコラムを書くのは難しいことではありません。
今回人気トップの第112回「食塩摂取と高血圧の常識を疑う」を例にとると、このタイトル中にあるキーワードでgoogleとgooをサーチし「日本医学会のシンポジウムがいいタイミングであったな」などと、気になるページを100余り見つけだしました。中身を読んでいくと、最初は公式見解ばかりでつまらないとも思えたのですが、「偉い先生」が自己否定するようなデータを出しているのを知り、ストーリーの見通しが立ちました。
また、98年の特集「このコラムの読まれ方・作り方」も執筆の裏側事情を紹介しています。当時と違い検索はgoogleが主力になっていることを除けば、現状とあまり差はないと思います。