第122回「合計特殊出生率が東京で衝撃の1.00」

 6月10日に発表された「平成13年人口動態統計月報年計(概数)の概況」 に大きな衝撃を受けた。合計特殊出生率――女性が一生に産む子供の数を示す、この数字が2001年に東京で「1.00」にまで落ち込んだ。2000年国勢調査時点で「1.07」と発表されたときにも早い下落と思ったが、落ち方は意外なほど加速している。長期的に「2.08」あれば人口が維持されるが、今回の東京の数字は半分以下でしかない。全国平均はまだ「1.33」とはいえ、これまでの晩婚化・少子化の進行で、東京の指標は10年、20年単位で全国に先行する傾向にあった。東京で起きていることをどう見ればよいか、今回はこのテーマで考えてみたい。

◆生涯未婚率は予想以上に上昇か

 昨年書いた第107回「非婚化の進展をITが阻み始めた」で開発した、世代ごとの未婚率減少傾向を計算する手法を今回も使ってみる。例えば1995年国勢調査で35〜39歳だった世代は、2000年調査時点では40〜44歳になっている。5歳年上に移行していることを考慮して婚姻関係別に整理、差を計算してやる。2000年の東京と全国で1995年からの5年間にどう動いたか比べると下に示す2表のようなる。

 元データはもちろん国勢調査による「配偶関係(4区分)」。2000年分と時系列データ それに、東京の1995年分が含まれる「東京都統計年鑑 平成9年」を利用した。なお、元データの「総計」には4区分以外に「配偶関係不明」が含まれ、これによる誤差が無視できないほど大きい。私の分析には自分で集計した4区分総計を使い、百分率を出している。正式には単位は「ポイント」だが「%」と同じ扱いとした。  第107回「非婚化の進展をITが阻み始めた」で中高年世代が結婚を諦めなくなったと分析した。この傾向は東京でも著しく、未婚者の減少ぶりが男性の40歳以上、女性の35歳以上ではっきりしている。また、東京では20代の結婚離れが全国と比べて著しいことが分かる。以下の全国での計算と比べて欲しい。 <  諦めなくなった割には中高年での有配偶率の上がり方が鈍い。離別、つまり離婚の増加がかなり打ち消している。離別は全部の世代で5年間で「増」になっている。この表に出ていない10代世代が年上世代の行動をなぞると仮定すれば、「離別」を縦方向に足し算したら生涯の離婚経験予測割合が出る。ただ、短期間での再婚があるから少な目に出ることは含んでおこう。

 同時に、未婚の減少分も縦方向に足せば「脱・未婚」トータル、つまり結婚経験割合の予測になる。これも晩婚化進行傾向があるから、単純足し算ではオーバー評価とは知りつつ、いずれも「未来予測」として有効と思えるので敢えて試算してみた。 <  このまま受け取れば女性の8人に1人が離婚を経験することになる。実際の割合はさらに高まろう。通常、離婚率が高まっていると言われてもぴんとこないが、この数字は直感的だ。離婚については東京は全国を引っ張る立場にないようだ。

 未婚率減を合計し、100%から除した残りが生涯未婚と考えるなら、東京ばかりでなく全国でも3割にも達する勢いなのは驚きである。人口学では生涯未婚率は50歳の未婚率と定義されていて、2000年の東京で男性「18.59%」、女性「10.44%」である。この試算は、これが男女逆転に至り、さらに現在、考えられている予測をはるかに超えた水準になることを暗示していると思えてならない。連載第1回「空前の生涯独身時代」で男性の生涯未婚が25%になる可能性を指摘した。それで止まれば上々、いや、止まることはないのだろう。

 次に、出生の動きからデータを取って考えよう。

◆20代女性の出生に大きなブレーキ

 人口動態の概況には出生数が記されている。平成13年概況「2 出生」平成12年概況「2 出生」とから、母の年齢階級別に出生数増減を抜き出してみた。 <  30代は2000年に大きく回復し、2001年にもなお維持されているのに対し、20代では大きなブレーキが掛かり続けている。これが出生率低下に効いている。中高年が結婚を諦めなくなった半面で、20代は相当、白けているようだ。先ほどの東京と全国の比較に戻ると、東京の20代で全国以上に大きく結婚への動きが落ちていることを考えれば、今後、全国的にも出生数減はさらに加速するとみなければなるまい。

 今年出たばかりの「日本の将来推計人口(平成14年1月推計)」は、最もありそうな「中位」推計で「合計特殊出生率は平成12(2000)年の1.36から平成19(2007)年の1.31まで低下した後は上昇に転じ、平成61(2049)年には1.39の水準に達する」と見込んでいる。過去の将来人口推計は見直されるたびに外れ続け、常に「低位」推計に近い結果に落ち着いてしまう。今回も、早くも中位推計の「大幅外れ」が保証付きになったと言って良いのではないか。

 では低位推計はどうか。前提になる「合計特殊出生率は平成12(2000)年の1.36から低下を続け、平成61(2049)年に1.10に達する」との悲観的な予測も、なお楽観的でありすぎるのではないか。東京の2001年「1.00」はそれを強くアピールしている。

 2050年人口は中位推計なら1億60万人、低位推計なら9,203万人。中位推計でも心配されているくらいだから、これ以上の大幅減は、将来の年金財政問題などに極めて深刻な影を落とすことになる。

 小泉首相は人口推計を憂慮、5月21日の指示「今後の少子化対策について」で「少子化の流れを変えるための実効性のある対策を検討してほしい」とし、9月には中間的な内容でよいから「メリハリのきいた対策の方向」を求めた。そういうこともあって厚生労働省の「少子化社会を考える懇談会」が審議しているが、翌6月発表の統計は、憂慮で済まない「激震」ものだったのだ。