第127回「音楽産業は自滅の道を転がる」 (2002/11/21) [This column in English]

 コンパクトディスク(CD)の売れ行き不振が深刻である。ミリオンセラー連発が当たり前のように思えたのに、今年はアルバムで前年22枚の半分を大きく下回り、シングルに至っては、ようやく10月になって浜崎あゆみのシングル「H」が唯一ミリオンに認定された。日本レコード協会などの言い分では、音楽CDの不正コピーが大きく響いているという。果たして、そうか。私の連載第63回「若者・流行歌・音楽文化と著作権」を書いた99年初めは「ミリオン連発の絶頂期」だった。そこで描いた音楽CDの売れ方は若い世代だけに依存した、とても特殊な構造をしており、音楽業界が安易にのめり込みすぎた結果、自家中毒を起こしているだけではないか。不況に強いとされた音楽産業。しかし、音楽文化を守り、育てる上で「戦略的な誤りを修正しなければ、自滅の道を転がり落ちるばかりだ」と警告したい。


◆特殊な好況構造への過度依存

 90年代に入るとCDが400万、500万枚と売れても社会現象にならず、家庭の団らんで話題にも上らない――この状況は何を意味するのか。第63回「若者・流行歌・音楽文化と著作権」で、こう解明した。1000万人足らずの団塊ジュニア世代が、音楽消費者の中に「分衆的な大衆」を形成した。メガヒットの消費はもっぱらこの分衆によっており、中高年層は加わらない。このため、かつてミリオンセラーが持った社会的なインパクトの大きさは失われてしまった。

 さらにメガヒットの質についてソキウス「音楽文化論・九〇年代日本の音楽状況」で、野村一夫・國學院大経済学部教授はこう指摘している。

 「注目すべきは、そのほとんどの曲がテレビ局とのタイアップだったことだ。高度なマーケティング技術に基づいて企画され、テレビを主軸にキャンペーンされた音楽」「映像主体のキャンペーンがこれだけ功を奏するとなると、ターゲットにされている今の若者が『ほんとうに音楽が好きなのか』と疑問をもたざるをえない」

 最近まで、この層が比較的自由になるお金を持っていたために、ここに依拠するのが商売として安全だと音楽業界は思いこんでしまった。そして、メガヒットを生まないような半端な部門は切り捨ててしまえ――と演歌などのリストラを進めた。携帯電話の爆発的な普及、多機能化で通信費が月に10,000円も必要になると、若者層の自由になるお金は乏しくなり、メガヒットが連発される基盤が突き崩された。音楽ソフトの国内生産額は1998年の6074億円をピークにして3年連続で減少、2001年は5030億円まで落ち込んでいる。

 音楽の質としても退化があるのではないか。流行っているものが何か知っておくのは新聞記者の務めということもあって、毎週土曜深夜のランキング歌番組「カウントダウンTV」を、バーボンでも飲みながら眺めている。過去数年分の保存版トップテンから毎回ランダムに選んで流してくれるコーナーがあり、ああ5年前の今月はこんな曲が上位だったと知る。比べて聞いていて、メロディーラインの質といい、訴求力といい、今年は貧弱に思える。ゲストライブとかで丸々一曲聞くと、あまりに生硬な歌詞にしばしば愕然とする。

 草食性の牛に肉骨粉を食べさせるような、人工的な育て方が音楽の受け手も作り手の制作側も貧しくしていくと思えてならない。

 経済産業省による「音楽産業の現状と課題について」には、音楽CDにCDレンタル、コンサート、カラオケと併せた音楽ソフト産業全体の推移がある。

   ◎音楽ソフト産業市場規模    
   1997年   2兆1,170億円
   1998年   1兆9,625億円
   1999年   1兆8,345億円
   2000年   1兆7,082億円


 不況が続いているからと言って、毎年千数百億円規模で縮小し続けるのには構造的な要因があるはず。音楽CDの不振による分は何分の一でしかない。カラオケ市場の縮小がもっと深刻なのだ。全国カラオケ事業者協会の「カラオケ業界の推移」には、カラオケ参加人口の推移グラフがあり、平成6年(1994)の5890万人をピークに平成13年(2001)の4800万人まで減り続けている。

 財布が軽くなった若者が、カラオケボックスから引いた影響もあろう。しかし、これだけ長く音楽業界が大人向けの歌を作ってこなければ、当然の報いだと、私は思う。今年、意外な形で数十万規模のヒットになった平井堅の「大きな古時計」は、高年齢層まで店頭で買っていくという。しっかりしたメロディと歌い込み。欠けているものがここにはある。NHK「みんなの歌」とのタイアップ効果とみるのは本質を捉えぬ見方だ。


◆これから依存すべきは中高年層なのに

 日本レコード協会には「音楽パッケージソフトユーザー白書」があり、毎年、継続して調査している。その最初のページ「調査の目的・調査設計」を見て、この人たちは何を考えているのだろうと思ってしまった。調査の目的は「音楽パッケージメディアの需要構造を世代間比較の視点と、トレンド分析的視点によって総合的に把握すること」にある。その世代が「中学生」「高校生」「大学生」「20代」「30代」「40〜55才」の6種しかない。56歳以上は調査対象ですらないのである。

 メガヒットに毒された業界人の傲慢が見える。2000年国勢調査から数字を拾うと、56歳以上人口は3697万人で29%もあり、56歳以上70歳までに限っても18%に達する。これを商売の検討対象から外してしまう。そのくせ本文では「40〜55才の中高年層の推定マーケットシェアが【21.8%⇒26.2%】と前年に続いて伸長」「資力のある現在の50代は若い時代に音楽鑑賞の楽しさを経験している世代であり、子離れに伴って音楽を聴く時間が持てるようになってきている」と分析している。少し数字が読める人なら、ここにない50代の後半から60代にマーケットの存在を直感するはずだ。

 ついでに本文から拾うと、音楽コピーで最近、CD−Rによるものが急増とされてはいるものの、実は「15%⇒24%」の増加程度にすぎない。従来から家庭内利用が認められている「MD:54%」「カセットテープ:55%」へのコピーが依然として主流である。コピーコントロールCD(CCCD)などが本当に有効か疑問である。

 UFJ総合研究所の調査レポート「潤沢な貯蓄が押し上げる高齢者の消費」がしている以下の主張は、昨今それほど珍しいものではない。

 「2001年時点では高齢者世帯1世帯あたりの現実の貯蓄残高は必要貯蓄残高を311万円上回っている」「高齢者の消費の中で伸び率が高いものには若者・中年型商品が多く、意外にも高齢型商品の伸びはあまり高くない」「余暇関連商品については、供給サイドが工夫して高齢者のニーズにあった余暇商品を提供することができれば、需要は大きく拡大する可能性を秘めている」

 音楽業界が中・高齢層に提供できるジャンルが「演歌」とは限らない。考えて欲しい。この世代はかつてビートルズで目覚め、グループサウンズ、ニューミュージックで青春を送り、LPレコードの形で音楽に親しんだ。現在も相当数を持ったままかも知れない。しかし、今となっては音楽CDが文句なく便利だ。私もレコードプレーヤーの蓋を何年も開けていない。中学生のころから多彩なジャンルの音楽を聴いてきたので、今あれがCDであったらと思うことがしばしばだ。子どもから手が放れ、お金と余暇を持ち始めた中・高齢層が膨大な音楽需要の塊に見えるのは、私だけだろうか。

 注意すべきは、それがメガヒットの世界でない点である。音楽産業はもともと工業的には多品種少量生産の典型のはず。ミリオンセラーを当てて濡れ手で粟をと望まないで、こつこつと需要と供給を結びつける努力をすれば道は開けると業界が気づかねばならない。

 多品種少量の商品販売を媒介するのに最適なのがインターネットであることも、もう読者は思い浮かばれただろう。ビデオリサーチネットコムによる「インターネット普及状況調査」の2001年9月度調査2002年9月度調査を見比べると、中・高齢層でもはっきりネット利用の立ち上がりが見える。仕事で使う機会もある40代、50代男性は言わずもがなである。60代男性で自宅内インターネット利用率が10.5%から15.4%に伸びた。女性の60代は5.1%とまだまだだが、50代は21.7%まで来た。

 かつてはネット上の音楽サービスで曲を聞いて探すなど、電話代が心配でどうにもならなかった。今はブロードバンド常時接続が9月末で600万人を超え、毎月30万人以上増え続けている。来年末には1000万人になろう。機は熟した。十分、商売になる。これを迎え撃つ音楽業界の態勢はどうだろう。

 「@MUSIC for WMA -エイベックスの音楽配信サービス」ソニーミュージックの「bitmusic」東芝EMIなどの「du-ub.com」ポニーキャニオンの「キャンディドットコム」と、音楽配信サービスはほぼ出揃っている。いくつかの音楽会社にひとつの窓口から入れる「レーベルゲート」も出来た。

 見渡したところ、一部に昔のヒット曲も添え物として混じるが、依然としてメガヒット狙いが主体だ。悪く言えば、メガヒットを生む邪魔はしないようにと設計されている感じ。何十年もかけた、潤沢に持つ音源を本格的に生かすビジネスを考えた節はない。

 また、1曲200円とか300円とかのお金を払って入手した音楽を、パソコンか特定のMD機器でしか聴けない設定にしている点も、ゆったり音楽を聴きたいファン心理を理解していない。CD音質のままネットで提供するのではなく、何らかの圧縮を掛けた状態で売るのだから、もっと融通を利かせべきだ。もうミリオンセラーにならない昔の曲なら、なおのことだ。ついでに言えば30〜45秒のサンプルで聞ける音質は薄っぺらく、音楽ファンを相手にしているとは思えない。

 このまま業界の考え方が変わらないのなら、相当な重症だと申し上げねばなるまい。


 ※追補……今回のコラムをリリースした直後、米国の大レーベルUniversal Music Groupが「保有する4万3,000曲をオンラインショップや音楽関連のWebサイトからダウンロード販売することを発表」した。詳しくはINTERNET WATCHの報道で見ていただきたい。「価格は、米国内の利用者に対しては一曲99セント。アルバムは9.99ドル」と安価、CDへの焼き付けも出来る。保有音源すべてを販売する意向であり、「こうでなくては」と思うのは私だけか。

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