団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第144回「原発後処理は道路公団以上の無展望」 (2004/04/15)

 原子力発電で生じる使用済み核燃料や廃棄物などの後処理(バックエンド)費用をどうするか。経済産業相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会・電気事業分科会を舞台に、にわかに議論が沸騰している。電力業界側が後処理費用として約8兆円が制度として手当てされていないことを明らかにしたためだ。その内、何と3兆円は既に発電して使ってしまった分だという。「出し遅れの証文」なのに堂々と消費者に転嫁を迫るところが、親方日の丸企業の面目躍如である。そういう話ならバックエンドのありようそのものを見直すのが筋ではないか。バックエンド費用の過半を占める核燃料再処理工場は2005年稼働を控えて、試運転が間もなく始まる。いま中止か凍結を決めれば工場の施設は放射能で汚染されておらず、撤去解体も容易・安価なのだ。


◆巨額なツケは消すことも可能

 業界を代弁する電気新聞の「バックエンド事業費、受益者負担の原則を確認−電気事業分科会制度・措置検討小委」は見出しと違って、困難な先行きを率直に書いている。「小売り自由化範囲が拡大される以前の過去発電分は、新規参入者に供給主体を今後切り替える需要家も原子力発電のメリットを受けたことになる。このため電力業界は託送制度の枠組みで回収する枠組みの構築を求め、顧客間・世代間の公平性を保ちながら未回収コストを広く薄く回収する考え方を提示」したが、当然ながら自由化で電力販売に新規参入した業者から「納得できない」と強い反論が出ている。

 「大日向隆・東大大学院助教授が、不確実な費用を計上して消費者に負担を求める困難さを指摘した」という部分も、もっともな話だ。家庭でも企業でも1円でも値段の差を気にする時勢である。資料として示されている「バックエンド事業の費用等について」で「未手当」と表記されている主な項目を拾おう。再処理工場の廃止措置、つまり最後の後始末に、手当てされていない既発電分だけで6800億円が記されている。この巨額な算定を素直に信じて、これから電気料金などに上乗せして払うのに賛成する人が多数いるものだろうか。再処理工場を動かさなければ「廃止措置」のツケが発生しないことは自明である。

 この問題では原発批判側からも様々なコメントが出ているが、ここでは原子力学会の「誌上討論『プルサーマルと再処理問題を考える』」から専門家同士の議論を紹介しよう。

 再処理を選択しないなら使用済み核燃料をそのまま地層処分する方法もある。それぞれの費用の大小を比べた議論が注目である。「(その1) 経済性」は「以上のような検討結果により試算してみると、再処理・プルサーマルは直接処分に比して燃料サイクル費は約2倍となる」と主張している。筆者の「元本会副会長 豊田正敏」は元東京電力副社長で、再処理工場の建設をした日本原燃サービス(現日本原燃)の社長を務めた人物だ。

 のんきな専門家もやはりいらして、「これほど高い再処理はやめるべきなのか?」で核燃料サイクル開発機構・河田東海夫氏はこう主張する。「2兆円を超える再処理プロジェクトは、確かに庶民の日常生活感覚からはかけ離れた巨額のプロジェクトであり、それを誰かが『高い!』といえば、一般人は誰もがそうだと思ってしまう金額規模であるといえる。しかし、見方を変えれば、上述のように石油やLNGの価格高騰による余分な支出の何年か分に過ぎないのである。電気事業の総売上は毎年10数兆円であり、原子力発電だけでも毎年数兆円の売電収入という規模を考えたとき、2兆円の投資はとんでもない額では決してない」

 これに対する豊田氏の反論は次の通りだ。「六ヶ所での再処理費は、その建設費をゼロ即ち、資本費(金利、償却費)を考慮しないで運転維持費だけで数千万円ないし1兆円近くかかると考えられ、再処理・プルサーマルを今後続ければ続けるほど、経済的損失(年間500〜600億円)が嵩むこととなる。2兆円とか、年間500〜600億円の経済損失はたいしたことはないといっておられるが、このようなことを電力消費者、特に、大口電力消費会社が聞いたら、どのような反応を示すであろうか。彼らは、国際競争に打ち勝ち、生き残りをかけて、血のにじむようなコスト低減の努力をしているのに、電力経営者がそのような甘い考えで経営しているのかといった非難が起こることは必至」

 以上は巨額なツケが表面化する前のやり取りである。バックエンド費用が全体で18兆8千億円にのぼり、しかも隠されていた部分がかくも大きいと知れた今なら、もっとシビアなものにならざるを得ない。


◆先行き不透明な再処理・廃棄物管理

 私が科学部員になって原子力取材に取り組んでから20年を超える。最初の取材テーマがこのバックエンド問題だった私の常識からすると、全部で19兆円弱で済むとの、この見積もりは危うい。

 廃棄物関係は最も怖い高レベル廃棄物を含めてどれも費用は確定的でない。また再処理の副産物として多量に現れる、長寿命アルファ核種の超ウラン元素(TRU)を含んでいるTRU廃棄物は、超長期にわたって人間から遠ざける必要がある。少し通じている者の常識として、TRU廃棄物処理の枠組みはおぼろげに見えてきた段階にすぎない。今回、提出された地層処分8100億円と返還TRU管理5600億円について言えば、費用見積もり精度は概算と呼ぶにも問題があると思う。しかも、いずれも従来の制度では未手当であり、実際に制度に組み込んで消費者からお金を取り立てるなら慎重な検証と議論が要る。

 11兆円もかかるとされる再処理工場関係も、このまま信じては運用すれば将来に禍根を残そう。使用済み燃料プールのステンレスライニング板接合部にすき間が出来、継ぎ足し溶接して水漏れを起こし、別の施設では硝酸漏洩など、日本原燃の建設工事はずさんだった。今回の費用見積もりは、運転を始めたら40年も順調に動き続ける楽天的想定で成り立っている。運転開始後になって、故障や休止が相次いで計算が変わってしまう可能性大だろう。輸入技術の継ぎ接ぎで成り立っている再処理工場が完全に稼働するものか、疑う専門家もいる。「六ケ所再処理工場の信じられない不正工事!」をはじめ、草の根グループからの異議申し立てがあちこちで巻き起こっている。

 グリーンピース・ジャパンは3月下旬、原子力安全・保安院に対して質問書 を出している。「日本原燃の隠蔽・ずさん体質変らず、ウラン試験できる状態にない」 に添えられている質問書を見ると、「『使用前検査成績書』によれば,すでに ミリ単位にまで切断されたライニングプレートのすべてが、コンクリート打設 が完了する前に現場に搬入されたと判断できます。すなわち、現場での『板 取』工程は最初から想定されていなかったということです。しかも、そのプ レートを受け取っているのは,施行会社ではなく元請会社です。不正溶接に元 請会社が直接関係していた可能性があります」など、具体的な問題点に切り込 んでいる。日本原燃は「現場が勝手にした」とトカゲのしっぽ切りで逃げ、品 質保証体制を整えていると「再処理施設の品質保証」 で弁明していらっしゃるが、どの文書を読んでも心に響いてこない。上っ面を整えるだけの、この人たちの体質なのだと気付いた。私が書いた連載第130回「もんじゅ判決は安全審査を弾劾した」の後半部がいやでも脳裏に蘇って来た。

 日本道路公団など道路4公団の40兆円を超す債務が問題になっているが、高速道路は曲がりなりにも確実に存在する固定資産だ。ここまで論じてきた通り、原発の後処理は20兆円近くを注ぎ込んでも額面通りの実現が疑われる代物である。資本主義社会の枠組みに照らせば、無展望と評してよい。

 核燃料サイクルが実現すれば、燃えないウランから燃えるプルトニウムがどんどん出来るから、それで費用はかなり償えるとの幻想があって、ぎりぎりになるまで表面化させることがためらわれてきた。しかし、実際にはプルトニウムと混合したMOX燃料を燃やしてもウランの節約効果はわずかなのにコストは跳ね上がり、ウランだけ燃やし使用済み燃料は封印する運用の原発に太刀打ちできない。今回のように、やむを得ず表に出しても、きちんとしていないのは現在の技術的限界による。バックエンド技術の進歩は驚くほど遅々としていて、20年前と同様に今でも難しいままである。今は取りあえず、立ち止まって考える時だと申し上げたい。



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