米自動車産業の支援はどこまで本物か [ブログ時評21]

 トヨタ自動車会長でもある奥田碩・経団連会長が、業績不振に陥ったGM、フォードなど米自動車産業への支援を口にしたのが4月25日。日本の業界からは反発の声すら上がって単なるアドバルーンとも見られた。しかし、両社の長期債格付けは予想外の速さで投資不適格のいわゆるジャンク債に落ち、5月半ばにGMのリチャード・ワゴナー会長や研究開発担当副社長が来日してトヨタの張富士夫社長と会談することになった。

 4月半ばに「日本の自動車産業は世界を幸せにしない [ブログ時評18]」の結びで「歴史を考えると、自動車はある程度、豊かな利潤を前提に栄える産業のように思える。国内に乗用車メーカーだけで8社もあって競争が激しく、薄利体質の日本自動車産業。それが世界を席巻してリーン生産方式で各国各地固有の労働文化を崩壊させてきた。現地生産が進んで、もう貿易摩擦と受け取られることはなくなったと自動車業界が考えているとしたら、もう一歩進めて、自分も相手も豊かになるべき時期に至ったのだと考え直して欲しい」と書いた。今回の動きは私の憂いと同じものだろうか。どうやら違う。

 トヨタ首脳が考えているのは、米業界に「一息つかせる」短期的な支援でしかなかろう。日産が危機になった際、もしトヨタが人を出していたら、豪腕として名を上げたゴーン社長にも優る業績回復を成し遂げたに違いない。日産の体質が実は絞ればいくらでも絞れる「たっぷり濡れ雑巾」状態であることは、同じ業界のトップとして知らぬはずがない。しかし、人を出して経営改革したらトヨタを二つ作ることになってしまう。GMにも、フォードにもそれはしないはずだ。

 燃費が悪くて売れない米国車への技術支援はともかく、値上げも示唆した奥田発言には「自動車販売の不振」(経済まねきねこ)が指摘するように「米国消費者にとって値上げの理由が正当とも思えないもので恣意的に収益を犠牲にしたとも批判される可能性があり、米国消費者からの反発で訴訟問題が多発するリスクがありそう」との問題もある。

 ブログの世界で別の見方も当然、存在する。ウォール・ストリート・ジャーナルの「トヨタ、収益よりマーケットシェア優先か?」を引きながら論じている「BLUE LIONの視点」である。「GMを自動車メーカー世界トップの座から引きずりおろすことを狙っているが、これについて株主から疑問の声が上がっている」――「まさにその通りである。投資家は拡大よりも利益率に拘る」「シェア争いのみに終始している点もマヌケな発言でなかろうか」

 実際に投資家から異議申し立てが出ている。 トヨタの株価は昨年7月に最高値を付けて以来、下がり続けている。2006年に世界生産台数を850万台まで増やし、トップGMを追い落とす計画が昨年11月に発表されたが、世界的には生産設備過剰状態であり、投資家にはチャーミングには見えなかった。この株価の動きはトヨタ首脳に影響するに違いない。消費者の嗜好動向と並んで、株価下落を放置することも企業には出来ない。市場の力、収益性を上げよとの圧力はトヨタ以外の日産、ホンダなどにも同じように及ぶ。日本の薄利体質に疑問が付いているのだ。

 ではどうなるか。「GMショック」(為替王)は「トヨタが実際に米国での自動車販売価格を上げたとき、国内の他の会社や韓国の自動車メーカーは追随するのかどうか? その隙に、自分たちだけはシェアを伸ばそうと画策するのかどうか」と心配している。当面は韓国車だが、まださほどの力はない。さらに何年かしたら日本車の技術を盗んで成長している中国車も土俵に上がるかもしれない。その時は大乱戦も覚悟すべきかも知れないが、現在は鋼材価格の上昇など値上げ要因があり、短期的であっても日米協調は双方にかなりの果実を残すのではあるまいか。