仏の暴動と名神7ブラジル人死亡事故 [ブログ時評40]

 フランス各地で10月下旬から起きている暴動に対する非常事態宣言が、11月21日から3カ月延長されることになった。当初は若気の至りとも見えた放火や暴動だが、都市郊外の「ゲットー」に押し込められた北アフリカ・アラブ系移民二世、三世による政治闘争との認識に変わった。「どれだけの履歴書が名前や住所を理由にゴミ箱行きになっていることか」と14日のシラク大統領演説は、若者たちに就業の機会をと、なだめにかかった。この演説の前日未明、滋賀県内の名神高速道で大型トラックなど7台による多重事故が発生、7人出た死亡者が全員、出稼ぎ日系ブラジル人だった。フランスの騒ぎと日本の多民族社会化を考えたい。

 中野真紀子さん訳のダグ・アイルランド「フランスはなぜ燃えているのか」は人口の1割以上を占める移民と子孫たちが郊外に特別に建設された高層団地に住まわされ、希望を持てない状況を説いた上で、サルコジ内相の「社会のクズ一掃」発言を解説する。「一掃」の原語は「超圧縮空気で砂や水を吹きつけて表面を洗浄するシステム」を意味し、「こびりついた汚れ(ハトの糞のような)を乱暴にこそぎ落とし、ときには表面を痛めてもしかたがないというニュアンスを持っている。そういう言葉を人間の若者にあてはめて、戦略として唱え」「内相の地位にある人物の口から政策として提案されるというのは、実際に口には出さないが『民族浄化』が声高に宣言されたのとあまり変わらない」というのである。若者たちが存在そのものを否定されたからこそ、全国へ飛び火せざるを得なかった。

 収拾のためにド・ヴィルパン首相は地域問題改善へ梃入れを約束した。「置き去りに去れた郊外・燃える郊外(中期的観察 その2)」が若者たちの闘争により、過去3年余りの右派政権で「貧困地域で活動するアソシエーションへの一度は廃止された援助を再度勝ち取」った意味を詳しく説明する。「アソシエーション」は日本のNPO法人に近く、手続きが面倒な日本と違い複数の人が集まれば成立し、届け出れば簡単に法人格が得られる。現在で100万団体、前には所により何倍もあった。この草の根活動が郊外団地ゲットーの矛盾を緩和し、雇用の創出にも役立っていた。「しかし、上のような歴史的経緯を身を持って体験している人々にとっては、手放しで喜べるものではない。何を今更という気持ちを持っている人は多い。もう多くのアソシエーションが政策の誤りのために消滅した」「それに、非常事態宣言が3ヶ月も続く中で、新しい文化活動の企画書など書く気になれるのは、まれに見るオプティミストだ」

 アソシエーション以前を考えると、遠い昔に共産党や労働組合が郊外で力を持った時期もあった。しかし、そうした活動も本質的な解決にはならない。人口がこれだけある大勢力から一人の国会議員も出していないと言われるのだから「階級社会フランス」の面目躍如である。

 アラブ側からはどう見えるのか。中東報道研究機関(メムリ)の「フランスの暴動に対するアラブ、ムスリム世界の反応」はフランスの社会体制批判から在仏アラブ系社会への忠告まで広い。後者の意見を紹介しよう。サウジアラビアのコラムニスト、アル・ムーサ博士は「パリの業火は、アラブ移民社会に溜まっていたものにも火をつけた。アラブは、自分とは違った文化と共存できない。理由は簡単である。つまり今日アラブは、世界文化の軌道からはずれて、ひとりだけ回転しているのである。移民が新しい国に根をおろそうとしても、先住の市民と平等の地位を確立できない。後から後から来るアラブ移民はどの世代もこの点を理解せず、この事実を直視できない。フランスが移民受入れ国としてはベストであるのにだ」と厳しい。

 翻って日本の多民族化をみよう。名神事故で死んだ若いブラジル人7人は人材派遣会社から滋賀県の自動車部品製造会社に送り込まれて働き、母国に仕送りしながら、家や店を持つ夢を抱いていた。日系ブラジル人は愛知を中心にした中部地区と関東に偏在していて「きつい、汚い、危険な」いわゆる3K職場に携わっているとみられる。中でも群馬県大泉町は人口43000人の15%が外国人、日系ブラジル人だけで5000人と、国内で最も外国人比率が高い町だ。

 東松山市国際交流協会の「群馬県大泉町視察」が現状をレポートしている。「現在は『出稼ぎ』の時代は終わり、家族で来日、生活の拠点が日本に移りつつある。しかし、教育の現状には問題点が多い」「いずれ母国へ帰るから、両親が共働きなので兄弟の面倒をみる等の理由から就学しないケース、日本の学校に編入した時点での教育の遅れや言葉の壁にぶつかり不登校になるケース、親の勝手でブラジルのお祭り等に合わせて家族で帰国、数ヶ月間過ごし、再び日本の学校へ戻っても授業についてゆけなくなるケースなど問題の原因も様々である」。こうして落ちこぼれた子どもたちを犯罪の罠が待つ。「最近は求人条件が厳しく、高い日本語力が求められるという。職に就けない若者や言葉がわからず時間を持て余す子どもたちが関わる種々の犯罪で留置場がブラジル人で埋まることも。その多くは、麻薬関係である」

  書評『日系ブラジル人の定住化と地域社会 』にはこうある。「太田市も大泉町も、集住度が低い一般民間のアパートでは、『棲み分け』が進み、またそれが進行しているが、日本人側から日系人に対する『負のイメージ』が拡大してきていると本書は指摘している」。どうやら日本版「ゲットー」が出来かけているらしい。人口減少時代を迎えて外国人労働者は増えざるを得ない。フランスの暴動と我々は無縁ではない。

 【参考資料】都道府県別外国人登録者数
  第73回「非婚化の先に見える多民族社会」