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第73回「非婚化の先に見える多民族社会」 (99/07/08)

 電子メール新聞から独立し、自前のウェブとメールマガジンを使ってこのコラムを読者の皆さんに届けるようになって、満1年になる。節目の今回、テーマに何を取り上げるか考えた末に、2年以上前に書いてから現在まで読む人が絶えない、この連載第1回「空前の生涯独身時代」の続編にしようと決めた。この国が直面している少子・高齢化の原因は、通俗的に言われていた「晩婚化」にあるのではなく、若者が結婚しない傾向、最近では「非婚化」という言葉も使われる現象にある。

 少子化の結果、21世紀半ばに人口は2500万人も減り、1億人程度になるとされる。「生涯未婚率」という人口統計データを利用して、非婚化現象をあからさまにした「空前の生涯独身時代」で、予測される近未来の生涯未婚率があまりに高いことにショックを受けた方が多かった。今回はそれから先に何が待ち受けているのか、考えてみた。私に見えるのは、米国流の多民族が共生する社会である。

◆来世紀初めの出生率回復は幻か

 こんなに人口が減る、国立社会保障・人口問題研究所の予測なのに、実は来世紀初めになると出生率がかなり回復するとのシナリオが隠されている。女性が一生の間に生む子供の平均数を合計特殊出生率と呼ぶ。この数字が「2.08」ならば人口は長期的に維持される。

 「日本の将来推計人口(平成9年1月推計)について」に、「中位」つまり最もありそうな予測例の場合に「合計特殊出生率は平成7(1995)年の1.42から平成12(2000)年の1.38まで低下した後は上昇に転じ、平成42(2030)年には1.61の水準に達して、以後一定となる」とある。

 この上昇に転じる根拠がよく分からなかったので、今回あちこちのデータを調べてみた。96年7月の「第60回人口問題審議会総会議事録NO.4」で、こんな議論がされている。

 「1995年についていうと、結婚を延ばしている人が多い。つまり、現在の30、31、32歳のところは、見掛け上、初婚率が低く出ているということがあるわけです。したがって、先々結婚する可能性が残されている」

 「私どもの研究所で行っている出生動向基本調査に基づきますと、1980年代から90年代にかけて『いずれ結婚するつもり』という人のパーセンテージはやや落ちてきて、大体現在90%の水準にある。6月に毎日新聞の家族計画調査が発表されていますが、その結果をみますと、『いずれ結婚するつもり』と いうところに該当する者は90.4%。この5、6年の間をみますと、この『いずれ結婚するつもり』の9割ラインは、どの調査を見ても動いていないわけです。したがって、結婚に対する意欲は高いレベルで存在しているということが窺えるのではないだろうか」

 かなりの希望的な観測で、出生率の反転上昇が予測されているらしい。

 翌97年の「第11回出生動向基本調査〜結婚と出産に関する全国調査〜独身者調査について」は、これに冷水を浴びせかけるものだった。動かないはずの「9割ライン」を割り込み、「これまでの調査結果と比較して『いずれ結婚するつもり』の未婚者が減少し、『(今は)まだ 結婚するつもりはない』という者も25歳以上で増加するなど、全体として未婚者の意識は結婚から離れつつある」と言わざるを得なくなった。

 「青年層の異性交際は意外に低調なまま推移している」「このため、とくに25歳以上では男女とも約半数の者が適当な結婚相手がいないことを独身にとどまっている理由として挙げている」。詳しいデータを見ると、恋人ではなく、友人として交際している異性がいない人の増加が目立ち、出会いの場が限られていることを示している。その半面、性経験率は女性で10年間に20ポイントも上がって過半になっている。出来る範囲で探しても良い相手がいない、だから結婚しないということだろう。

 人口問題審議会の「少子化に関する基本的考え方について−人口減少社会、未来への責任と選択−」には、見出しだけ見ても気が重いほど、多くのマイナス面が描かれている。しかも、現実の人口減少は、国の人口学者が予測している以上のペースで進む可能性すらある。

◆既に現実化した高齢化社会の重荷

 今春以来、民間サラリーマンが加入している健康保険組合の間に、高齢者医療費の負担金を国に対して支払わない、あるいは支払い凍結、延納の動きが広がっている。日経連、連合などと連名で自民党に提出した「要請書」が医療費抑制を求めているように、70歳以上の高齢者が使う医療費は年間11兆円にもなっている。このうち高齢者本人が医療機関窓口で負担するのは7%で、残りの7割を健保や国保などの各種医療保険制度が、3割を国、自治体がそれぞれ分担する仕組みだ。その負担金が健保では保険料収入の4割にも達してしまった。現状で大半の健保組合が赤字になっている。私の会社の健保も今年になって赤字に転落した。

 年金制度については、この連載第35回「年金制度の疲労に見る社会の衰え」で実質的な破綻が見え始めていることを紹介した。高齢者医療でこれほど早く破綻が表面化するとは思わなかった。医療費抑制には自民党の支持団体、医師会を中心に反対が強い。来年には介護保険料の導入も予定されている。これ以上、高齢者本人負担を上げていたのでは、近く予想される総選挙が戦えないと思っている自民党議員は多いはずだ。抜本改革の見通しは暗い。

 65歳以上の老年人口比率が15%程度で、現役世代がこれだけいるときに問題化するようでは、人口が減って、例えば2050年に1億人になるときにはどうなるのか。その時の老年人口比率は、先に取り上げた「中位」の推計でも32%もある。現在の仕組みの高齢者医療は、存在し得ないことが分かる。

◆女の論理、男の立場

 先日、ある女性からもらったメールの一節にこんな主張があった。「産む産まないの自由についての論調も、すぐ国力の衰退だの、権利主張だけして義務(なぜ義務なのか!)を守らない、などといった特に中年男性の意見が闊歩しているように思います。また女性でも専業主婦、良妻賢母意識のある若い人には同じ論調が目立っています。なんとかしてほしいものです」

 勝手な理屈で女性の自由を縛らないで欲しい、との思いはよく分かる。女性の収入が高いほど未婚率が高まると分析した「生涯未婚率―結婚を選択しない人たち―」も参考になろう。

 では、男性側はどのような状況にあるのか。「空前の生涯独身時代」で使ったデータを利用して、95年国勢調査で30歳代前半だった、焦点の世代で未婚率がどう動いているのか、並べ直してみた。

    80年(20代前半) 90年(20代後半) 95年(30代前半) 2000年
  男  91.5%     64.4%     37.3%     27%?
  女  77.7%     40.2%     19.9%     15%?

 2000年の予想数字は、5歳年上の世代が、同じ30代前半から30代後半に移るときに何ポイント未婚率を減らせたか計算して、スライドしてある。最初に述べたように人口学者たちは女性が駆け込み結婚してくれて、出生率が回復すると期待しているが、高齢初産の危険まで冒すだろうか。この先、40代に入ってからの未婚率減少はわずか。特に女性では子供が望めなくなるから、50歳以上と定義されている生涯未婚率まで、1ポイント程度の減少しかなくなる。

 未婚率15%の女性側は結婚を諦めたとして、27%もある男性側はどうなるのか。一家の子供が少ない現在、「家を継ぐ」立場にある人が相当数、含まれるはずだ。4人に1人もが生涯独身であり続けられるものだろうか。

◆多民族共生社会へのポテンシャル

 各国の合計特殊出生率の状況を見ていただこう。「人口動態総覧(率)の国際比較」で、日本が沈み続けて「1.39」なのに対して、スウェーデンが「1.74」に盛り返しているのが目立つ。この国が家事や育児まで男女共同参画に力を注いだ結果である。

 それを日本の現状に望むのは難しい。いや、連載第68回「日本の自動車産業が開いた禁断」で描いたように、ホワイトカラーの分野にまで日本的リーン生産様式が広まって行くため、労働現場での余裕はますます失われる。育児をしながら働くことが大変な負担であることは当分変わるまい。少なくとも近い将来に、スウェーデンのようになるのは無理と思われる。

 同じ国際比較の表で、米国だけが「2.02」と人口を維持する立場にある。その秘密をのぞいてみよう。人口千人当たりの数字である婚姻率、離婚率ともに高く「9.1」「4.57」だ。この差と米国人口2億6600万人を掛けると、米国で年間に増えた婚姻実数は120万件と知れる。米国では、年間で約80万人が主に婚姻や養子縁組によって市民権を得ると言われているから、パートナーの過半数は国外からもたらされるのだ。

 「婚姻」の統計を見てもらうと、日本でも国際結婚が80年ごろから急上昇し、年間3万件に近い水準で推移している。夫が日本人、妻が外国人の組み合わせが4分の3を占め、国籍ではフィリピン、中国、韓国・朝鮮、タイの順。

 国際結婚の斡旋業者はインターネットで検索すれば容易に見つけられるが、これまでの結婚でアジア諸国との間で結ばれた血縁の糸は40万にも達しているはずである。「家を継がねばならない」男性が斡旋だけでなく、親族や知人による紹介で国外のパートナーに巡り会える基盤が出来つつある。

 移民の受け入れも、新規の若年労働力がこれから急減する以上、現実のものになろう。この6月、移民受け入れを打ち出すかと注目された「経済審議会グローバリゼーション部会報告書」は、失業率が高い現状もあって「いわゆる単純労働者や移民の受入れについては、我が国の経済社会と国民生活に多大な影響を及ぼすとともに、送出し国や外国人本人にとっての影響も極めて大きいと予想されることから、国民のコンセンサスを踏まえつつ、十分慎重に対応することが不可欠である」と述べ、先送りにした。

 しかし、90年の入管法改正で日系人ならば単純労働者でも受け入れ可能になり、日系ブラジル人は既に26万人がいる。同じくらいの中国人、65万人くらいの韓国・朝鮮人を追っている。「大泉における外国人定住化の現状と課題」に、人口の1割以上もブラジル人を受け入れた大泉町のレポートがある。こうした外国人の家族が定住することを念頭に、地方自治体の間で公務員試験から国籍条項を撤廃する動きが広がっている。従来は在日韓国人・朝鮮人の問題として扱われてきたことが様変わりしつつある。

 次の世紀の初頭に出生率が回復するとしたら、単一民族型社会から抜け出し、多民族共生が本格化することによるものではないか。そうならば、人口の国際移動は現状のままとしている予測の基礎が崩れ、現在言われている人口予測全体が見直しになる。年金も健康保険もそうした見通しで全体像を組み直さないと話にならない。井戸の底に落ち込んでしまうような、単純な人口減少の議論は、生きている人間を無視したものだと思う。



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