安倍内閣は産科医療崩壊とは思わない [ブログ時評75]
「産科医減少は出生数が減って医療ニーズが低減した反映」(柳沢厚生労働相国会答弁)――「医療崩壊が産科から始まってしまった [ブログ時評59]」などで警鐘を鳴らしてきた私には、手足から力が抜ける、虚脱感を呼ぶ発言だった。柳沢厚労相の以前の失言連発には取り合う気にもなれなかったが、今回は厚生労働省の本音が白日の下にさらされた。衆院予算委答弁から数日して安倍首相も柳沢厚労相もマスメディアの質問に答える形で、お産のリスクと産科医の激務ぶりにコメントしたが、後出しフォローは額面通りに受け取れない。
発言自体は2月7日の予算委であり、私の「ブログ時評」へ13日に「産科医師数が減っている理由は少子化とは関係ないでしょ」(Candysays’s Diary)からトラックバックをいただいて知った。「私は、周産期医療に赤ちゃんたちのケアをする立場として従事してきたので、産科医療の実情には多少は通じているつもりです。今回の厚生労働大臣の発言を日本の産科医師が知ったら、多くの産科医師はがっかりするでしょう。私は、産科医にもいろいろな人がいるのを承知しているつもりですが、正直に働いている産科医のやる気を削ぐような発言に対しては強烈な嫌悪感を感じます」と嘆かれている。
既に産科医、医療関係者の間では、大問題として議論になっていた。だからこそ、当日、予算委を取材していた在京メディアが1社として反応しなかったのにも驚かされた。朝日新聞が17日朝刊でようやくブログやネット上の動きを伝えた。今回は完全にブロガーたちの問題意識が先行した。
厚労省には例えば「各診療科別の医師受給について」のようなデータが用意されている。「産婦人科医数と出生1000人当たり産婦人科医師数推移」グラフを見れば、出生1000当たりの産婦人科医師医数は、平成6年の「8.9」が平成16年で「9.1」と何の問題もないかのようだ。経済通の柳沢厚労相には「需給バランスの問題ですよ」と進講する官僚の言い分がすんなりのみ込めたのだろう。ところが、そうではない。産婦人科医師医数は1万人以上いるのだが、日本産婦人科学会が2005年末現在で調べたたら、お産を扱っている医師数は7873人にまで減ってしまっていた。残りは産科を止め、婦人科だけを担当しているらしい。
新人医師の研修医制度が変わって、拘束時間が長く深夜の出産も当たり前の産婦人科は敬遠されている。大学病院は本体が医師不足に陥り、系列病院に派遣していた産婦人科医を引け揚げつつある。それが各地の病院で産科休止を招いている。お産を扱うリスクの高さは、福島県大野病院での医師逮捕、刑事罰適用で全国的に注目されるようになった。体力的・精神的に限界を感じ、個人的に見切りをつけて辞めていく医師も多い。「【産科・小児科 休止一覧】 日本全国 今後の崩壊予定」(勤務医 開業つれづれ日記)に休止や縮小の情報が集まっている。以前に科学部の医療担当をしたことがある私には信じられないほどの規模の病院が並んでいる。過疎地どころか都市部で「お産難民」が発生している状況が目に見える。このブログ別項では予算委答弁の議事録が起こされてもいる。
朝日新聞の記事についてブログの反応。研修医が書く「産科医減少「少子化の反映」 柳沢氏答弁に医師反発」(side Bの備忘録)は「ようやく報道にのりました。でも、反発しているのは産科医だけではありません。『産む機械発言の余波』で反発したわけでもありません。ただ純粋に、社会情勢を解さない厚労相に社会保障行政は任せられないと思っただけで」「インターネットという『武器』が、逆にマスコミを動かしうるんだとも感じました」と手応えを感じている。
「がんばれ!柳沢厚生労働相」(とりあえずティッピング・ポイント)が「『失言』とは、わたしが思うには、本音がこぼれ出てしまったものでしょう。もし、まるっきり考えてもいないことをしゃべってしまうのなら、精神状態に問題ありですが、本音をしゃべってしまうのは究極の情報公開とも言えます」「日本の福祉や医療が崩壊しつつある中、彼のように為政者の本音を知らせていただける貴重な人材には、ぜひとも永く厚生労働相を勤めていただき、その発言を厚生労働省および政府の本音と受け止め、これからの日本のあり方についてみなで想いをはせるのがよいのではないかと思います」と書いている。
私も柳沢厚労相には長期、留任を支持したい。安倍内閣のスタンスもこれで断然と明確になった。それにしても厚生労働大臣が昨年来のお産の危機についてのニュースや新聞報道を、少なくとも意味を汲んで読んでいないことが明らかになった。事実上、お産難民は医療需給バランスから生まれた当然の結果だと言っているのに、夏の参院選を戦えると思っている安倍首相にも呆れる。
発言自体は2月7日の予算委であり、私の「ブログ時評」へ13日に「産科医師数が減っている理由は少子化とは関係ないでしょ」(Candysays’s Diary)からトラックバックをいただいて知った。「私は、周産期医療に赤ちゃんたちのケアをする立場として従事してきたので、産科医療の実情には多少は通じているつもりです。今回の厚生労働大臣の発言を日本の産科医師が知ったら、多くの産科医師はがっかりするでしょう。私は、産科医にもいろいろな人がいるのを承知しているつもりですが、正直に働いている産科医のやる気を削ぐような発言に対しては強烈な嫌悪感を感じます」と嘆かれている。
既に産科医、医療関係者の間では、大問題として議論になっていた。だからこそ、当日、予算委を取材していた在京メディアが1社として反応しなかったのにも驚かされた。朝日新聞が17日朝刊でようやくブログやネット上の動きを伝えた。今回は完全にブロガーたちの問題意識が先行した。
厚労省には例えば「各診療科別の医師受給について」のようなデータが用意されている。「産婦人科医数と出生1000人当たり産婦人科医師数推移」グラフを見れば、出生1000当たりの産婦人科医師医数は、平成6年の「8.9」が平成16年で「9.1」と何の問題もないかのようだ。経済通の柳沢厚労相には「需給バランスの問題ですよ」と進講する官僚の言い分がすんなりのみ込めたのだろう。ところが、そうではない。産婦人科医師医数は1万人以上いるのだが、日本産婦人科学会が2005年末現在で調べたたら、お産を扱っている医師数は7873人にまで減ってしまっていた。残りは産科を止め、婦人科だけを担当しているらしい。
新人医師の研修医制度が変わって、拘束時間が長く深夜の出産も当たり前の産婦人科は敬遠されている。大学病院は本体が医師不足に陥り、系列病院に派遣していた産婦人科医を引け揚げつつある。それが各地の病院で産科休止を招いている。お産を扱うリスクの高さは、福島県大野病院での医師逮捕、刑事罰適用で全国的に注目されるようになった。体力的・精神的に限界を感じ、個人的に見切りをつけて辞めていく医師も多い。「【産科・小児科 休止一覧】 日本全国 今後の崩壊予定」(勤務医 開業つれづれ日記)に休止や縮小の情報が集まっている。以前に科学部の医療担当をしたことがある私には信じられないほどの規模の病院が並んでいる。過疎地どころか都市部で「お産難民」が発生している状況が目に見える。このブログ別項では予算委答弁の議事録が起こされてもいる。
朝日新聞の記事についてブログの反応。研修医が書く「産科医減少「少子化の反映」 柳沢氏答弁に医師反発」(side Bの備忘録)は「ようやく報道にのりました。でも、反発しているのは産科医だけではありません。『産む機械発言の余波』で反発したわけでもありません。ただ純粋に、社会情勢を解さない厚労相に社会保障行政は任せられないと思っただけで」「インターネットという『武器』が、逆にマスコミを動かしうるんだとも感じました」と手応えを感じている。
「がんばれ!柳沢厚生労働相」(とりあえずティッピング・ポイント)が「『失言』とは、わたしが思うには、本音がこぼれ出てしまったものでしょう。もし、まるっきり考えてもいないことをしゃべってしまうのなら、精神状態に問題ありですが、本音をしゃべってしまうのは究極の情報公開とも言えます」「日本の福祉や医療が崩壊しつつある中、彼のように為政者の本音を知らせていただける貴重な人材には、ぜひとも永く厚生労働相を勤めていただき、その発言を厚生労働省および政府の本音と受け止め、これからの日本のあり方についてみなで想いをはせるのがよいのではないかと思います」と書いている。
私も柳沢厚労相には長期、留任を支持したい。安倍内閣のスタンスもこれで断然と明確になった。それにしても厚生労働大臣が昨年来のお産の危機についてのニュースや新聞報道を、少なくとも意味を汲んで読んでいないことが明らかになった。事実上、お産難民は医療需給バランスから生まれた当然の結果だと言っているのに、夏の参院選を戦えると思っている安倍首相にも呆れる。