第157回「日本人の起源を読み解く@2008リンク集」 (2008/03/23)

(「BM時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 昨年11月にNHK「サイエンスZERO」で「第184回 日本人の起源に迫る」が放送されてから、1997年6月に書いた第7回「縄文の人々と日本人の起源」へのアクセスが増え続けています。Googleで「日本人の起源」を検索すると4番目に出てくるからでしょうが、中身は当然ながら古くて申し訳ないなと思ってきました。「サイエンスZERO」は録画して見て「最新の成果を」との看板の割にはいまひとつ物足りない内容でした。いま調べてみて結論を言えば、「2010年に現在進行しているプロジェクトが成果を出すまでしばらく待ちなさい」となるのですが、当面、話題になりうるリンクを集めて関心を持つ皆さんのお役に立ちたいと考えました。

 「サイエンスZERO」は細胞のエネルギー源を司るミトコンドリアのDNAで明らかになった研究成果に依拠していました。ミトコンドリアDNAは細胞核DNAと違って細胞質中にあり、母から子に伝えられるだけです。「日本人の大半は16のグループに入るということから、日本人は16人の母を持つともいえる」となりました。各グループの仲間が世界各地にいて、この列島にいかに様々な遺伝子が持ち込まれたのかが分かります。また、ミトコンドリアDNAは核と違って大量にあって白骨化しても残る確率が高く、縄文人や弥生の渡来人の古人骨から採取できます。両者と現代日本人のグループ分けを比べると、縄文人にしかなくて現代に引き継がれたグループ、弥生の渡来人が持ち込んだグループが現れ、混血によって日本人が形成された様子が歴然とします。

 まとまったボリュームのある資料を古い順に紹介すると、まず1997年制作の九大総合研究博物館・インターネット博物館「倭人の形成」を挙げるべきでしょう。九大は縄文・弥生遺跡が多い地の利を生かして、早くから発掘される古人骨の研究を精力的に進めてきました。そのハイライトが「縄文人と弥生人■身長・遺伝■」のページにある系統図「頭骨の形態小変異22項目に基づく東アジア、北アメリカ、オセアニア集団の類縁関係」でしょう。縄文、アイヌ、古墳、江戸、現代、モンゴル、タイ、ハワイから北米先住民まで類縁関係とその距離が明かされています。

 次は2001年の国立科学博物館「日本人はるかな旅」展です。残念ながら「第5章 そして日本人が生まれた」の最後「分子レベルでみた日本人のルーツ」では雑然と研究成果が示されるだけで、では何が言えるのか釈然としません。この企画とタイアップしたNHKスペシャル「日本人はるかな旅」で、縄文人を形成した北方からの民の移動を過大に言い過ぎて専門家の間で問題視されたことがありました。逆に、国立遺伝学研の遺伝学電子博物館「遺伝子からわかる人の進化」の「縄文人骨からの解読」も「約6000年前に日本列島の中心部(現在の埼玉県)に住んでいた縄文人は、現代の東南アジア人と共通の起源を持つという可能性が示唆される」と興味深くはあっても断片的なデータです。

 2004年の「理戦78」に所収の論文「ブレンド人種・日本人の誕生」(藤尾慎一郎・国立歴史民族博物館)は先史考古学の立場で研究の流れが全体として見えるよう提示し、なかなかにチャーミングです。縄文文化の華、三内丸山遺跡の時代は現代で言う地球温暖化が進んだ時期で、北国青森なのにクリ林を果樹園のように管理し、主食としていました。この時期、西日本は暑すぎて人口は少なかったようで、東北の繁栄は数千年続いたのに寒冷化で気温が元に戻り始めると崩壊してしまいます。そして稲作がもたらされ、富の蓄積により戦争が起き始めるのです。「縄文人と弥生人、どっちが幸せ?」と筆者は問いかけます。縄文人と渡来人の遺伝子はどれくらいの割合で現代日本人に伝わっているのかも論点です。

 いわゆる「科研費」、日本学術振興会科学研究費補助金による「更新世から縄文・弥生期にかけての日本人の変遷に関する総合的研究」が2005〜2009年度の期間で進行しています。「日本人形成過程のシナリオ」にある疑問、問題点をどこまで解き明かせるのか注目です。例えば、縄文人はかなり長期、1万年くらい孤立したためにアジア周辺に近親集団が見あたらない古いモンゴロイドのようです。私も以前に書いたように成人T細胞白血病ウイルスを母系垂直感染で長年保持し、同じウイルスを持つ集団がカリブ海やパプアニューギニアで見られる不思議な人たちです。一方、寒冷期に耐える体づくりをした新モンゴロイドの弥生期渡来人の出自もよく分かりません。研究班からは「2010年3月に、本研究班が再構築した現代日本人形成過程のシナリオを登載する予定ですので、ご期待下さい」とあります。

 ブログやウェブでの声も欠かせませんね。研究班の一人、篠田謙一さんの著書をパラフレーズし論じている「日本人になった祖先たち」や、最近の類書の評論が面白い「日本人の遺伝子(+言語系統とヒト移住)」もリストに加えておきます。日本を「単一民族国家」と考える一部政治家の愚かしさは論じるまでもありません。アイヌや沖縄の人たちに縄文人の血が濃いのは事実ですが、Y染色体の研究者からは日本人遺伝子の半分は縄文人由来との見方すら出されているのです。

 ナショナル・ジオグラフィックの「ジェノグラフィック・プロジェクト」が2005年に5年間かけて「世界各地で数十万人のDNAサンプルを収集・解析し、人類がどのように地球上に広がったかを探る」と発表しています。このプロジェクトで興味深いのは百ドル弱のキットを買って、頬の内側から採取したサンプルを提供すると、自分の先祖がたどった移動の歴史を知ることが出来る点です。もちろん、この費用にはプロジェクトへ寄付の意味も含まれています。世界各地の先住民からはデータ量が大きい血液サンプルを集めることになりますから色々と批判もあるようですが、日本の研究だけが進んでも周辺地域のデータが薄い現状では意味が無いことを考えると、とてもありがたいプロジェクトだと思えます。2010年には上記の研究班と合わせて、我々のルーツ探しの視界が一挙に開けたら楽しいですね。期待して待ちましょう。



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