第160回「年3000億円の大浪費・コレステロール薬」 (2008/05/25)

(「BM時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 国内だけで毎年3000億円分以上が飲まれているコレステロール低下薬。疑問視する声はこれまでにも聞いていましたが、自分がコレステロール低下薬を飲むべき対象になったのを機会に、ちょっと真剣に調べてみました。学術論文を検索するGoogle Scholarの力を試す狙いもありました。結論から言えば、無駄遣いとしか言いようがないものでしたし、癌を増やす副作用が指摘されているので国民医療費の増やし方は3000億円に止まりません。しかし、医療保険財政の危機が叫ばれる時代なのに政府も医学界主流も放置、傍観のようです。

 一般によくされる説明として「おもにコレステロールを下げるくすり 」を挙げておきます。「コレステロールを下げる効果の強いHMG-CoA還元酵素阻害薬を飲んだ人と飲まなかった人に分けて死亡率を比べると、飲んだ人のほうが2〜3割がた死亡率が下がったことが明らかになりました」と言われると、飲まないわけにいかない心境になりますね。

 実は日本人にはこうした調査データはありません。食生活が大幅に違う欧米人の調査です。国内の場合、栄養状態がやや悪い東北などでは逆にコレステロール値が高い方が長生きする結果になっています。今回、関連文献を調べてショックを受けたのが、低下薬プラバスタチンについての英国の調査です。「コレステロール医療の方向転換−緊急の課題」(薬学雑誌2005)で奥山治美さんが「A Prospective Study of Pravastatin in the Elderly at Risk (PROSPER)」から引いて作成したグラフを引用します。


 心筋梗塞が減ると言ってもプラセボ、つまり偽薬群の12%が投薬群で10%になる程度のことです。一方で癌の発生と死亡が明らかに増えますから、死亡総数では偽薬群と投薬群で差が無くなります。お金を掛けた医療がこの集団全体に対しては何をしたのか、首を傾げる結果になりました。もちろん低下薬で心筋梗塞から救われた人と癌になった人とは別人でしょうし、誰がその「くじ」を引くのかは神のみぞ知る世界です。この薬は一生、飲み続けますから、癌発生を長期に追跡すればもっと多発の可能性があります。

 今年1月に「コレステロール低下薬で大論争」が日経ビジネスに出ました。先の英国調査は心臓病がある人を対象にしていますが、米国で心臓疾患がない人を調べてのデータが示されています。「65歳以上では効果を確認できなかったのである。コレステロール値がどんなに下がったとしてもである。また年齢にかかわらず、女性には効果がなかった」「“悪玉コレステロール”の値が大幅に下がったにもかかわらず、死亡したり入院が必要になったりする疾患の総数は減らなかった」

 ページの最後にある「劇的とも言える“心臓発作のリスクが36%下がります”の数字のところに星印が付いており、小さい文字でただし書きがある」「大規模な臨床試験で、偽薬(砂糖の錠剤)を投与した患者の3%が心臓発作を起こしたのに対し、リピトール投与患者では2%でした」を見て、最初に紹介した「飲んだ人のほうが2〜3割がた死亡率が下がった」の出典が分かりました。「3%が2%になる」と言ってもらえたら、飲もうと思わない方がぐんと増えたでしょう。

 余談ながら私の主治医は「後になって、あの時、服薬を強く勧めて欲しかったとは言わないでくださいね」とマイルドな物言いです。それが麻薬でなくとも、薬に依存するのは好みません。体重の半年6kg減に成功していますし、一駅前に降りて歩き運動量を確保しています。私の場合、やや厄介な症例で人間ドックではねられたのですが、「虚血性心疾患の一次予防ガイドライン」などで報告される調査データを読み込む限り、現状で問題なしです。皆さん、何の基準も無しには不安でしょうから、「脂質異常症について」で書かれている脂質検査値を参考にされるのも良いでしょう。人間ドックなどより大幅に緩い正常値ですが、広い範囲の研究結果を踏まえ、さらに見直されるべきです。

 【続報】第217回「男性で逆だったコレステロールの善玉と悪玉」 (2010/09/05)

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