第217回「男性で逆だったコレステロールの善玉と悪玉」

 毎日新聞の「コレステロール値:『高い方が死亡率低い』 日本脂質栄養学会で研究成果発表」や読売、中日の同じ報道が週末に出て、ネット上で半信半疑の反応が見られます。2008年に第160回「年3000億円の大浪費・コレステロール薬」を書いて既に検証済みの私としては目新しい話ではありませんが、この機会に最新の研究成果をあたってみました。通説で言われるコレステロールの善玉と悪玉は男性ではほぼ逆転、女性ではほとんど気にする必要なしになっていました。巨額医療費が投じられている悪玉コレステロール低下薬は真っ青でしょう。

 大櫛陽一・東海大医学部教授らによる総説「日本人はLDL-Cの高い方が長生きする」 (脂質栄養学:2009)がその論文です。通常のグーグル検索では出てきませんが、グーグル学術文献検索なら簡単に手に入ります。

 まず悪玉コレステロールとされているLDL−コレステロールを見ましょう。「神奈川県伊勢原市で1995年度から2005年度まで男性9.949人(平均年齢64.9才)、女性16、172人(平均年齢61.8才)を追跡して、LDL-Cレベルと原因別死亡率を調べた結果」を下に引用します。平均追跡期間は8年を超します。  「悪玉コレステロール」なのですから増えるほど、つまりグラフの右側ほど死亡率が高くならなければいけません。一目瞭然、話が逆でグラフは右下がりです。コレステロールが問題になるであろう虚血性心疾患などが棒グラフ中央の白っぽい部分です。男性の一番高いグループでやや増えていますが、LDL−Cが低いグループは悪性新生物つまり癌や呼吸器系の疾患が多くて遙かに高い死亡率になっています。LDL−Cが足りないと抵抗力が弱まるからです。一方、女性でいずれのグループもあまり変わらず、「LDL-Cを下げる必要性は全く無い。従って、女性では120r/dl以上が最適値である」と指摘されています。ところが、実際のLDLコレステロール健診では日本動脈学会のガイドライン
  適性域 120mg/dl未満
  境界域 120〜139mg/dl未満
  高LDLコレステロール血症 140mg/dl以上
の診断基準が用いられています。病気とされる「140mg/dl〜」のところに、男性では死亡率の最低値があるではありませんか。

 次は「善玉コレステロール」のHDL−コレステロールで、正常とされる基準値は40〜119mg/dlです。高いほど死亡率が下がらなければなりませんが、これも死亡率との関係をグラフに掲げます。  女性では高いほど死亡率が下がる通説通りの関係ですが、男性はU字型カーブを示しています。「男性にとってHDL-Cは善玉とは言えない。男性でHDL-Cか80mg/dl以上の群についてLDL-Cを調べると、他の群より低く、中央値が100mg/dlであった。つまり、 LDL-Cが100mg/dl未満の人が半数存在する。先に、男性でLDL-Cが100mg/dl未満になると死亡率が上昇ずることが判明している。その原因は悪性新生物と呼吸器系炎患であったので、男性での高HDL-Cは組織破壊や炎症を意味している可能性が示唆される」と分析されています。HDLコレステロールは余ったコレステロールを肝臓に運んだり、血管壁についたコレステロールを除去したりするはずなのですが、男性での作用は通説通りではありません。

 毎日新聞の記事で発表者の浜崎智仁・富山大学和漢医薬学総合研究所教授は「日本でコレステロール値を下げる薬の売り上げは年間約2500億円。関連医療費も含めると7500億円を上回る。この中には多額の税金も投入されており、無駄と思われる投薬はなくすべきだ」と主張しています。「マスメディアの怠慢極まる1.3兆円自然増報道」で社会保障費の自然増を当たり前と考えるべきでないと指摘しました。欧米でのコレステロール低下薬投与基準は日本よりずっと高いLDL-Cで190mg/dl以上なのですから、大きな疫学調査で今回のような結果が出ている以上、製薬業界と医学界の暗い部分に目を向ける必要があります。