第168回「若者と女性の痩身化は雇用不安が主因」

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 女性のようにスリムな若い男性が増えています。日本の女性と同様に痩身願望があるとも考えられてきたのですが、若者と女性の痩身化は雇用不安が主因であると考えるべき証拠が出てきました。海外から大変に奇妙と見られていた日本の男女対立「太る男とやせる女」は、雇用不安の強弱が食生活に反映した結果だったのです。

 経済産業省が2007年秋に発表した人体データの計測結果「size-JPN 2004-2006」が、この謎解きの発端でした。前回調査(1992〜94年)に比べて30歳以上では男性が太り、女性が痩せる傾向が顕著でした。ここに特異現象が現れました。肥満度を示す「ボディ・マス指数」BMI値とヒップサイズで、20〜24歳の男性は前回を大きく下回り、女性の値に急接近しました。身長170cmを想定すると前回の数値なら標準体重に近い64kg程度だったのに、最近では61kgまで痩せたことになります。発表されたグラフを掲げましょう。  痩せたいと願う若者は存在しているでしょう。しかし、全国規模で人体計測をして、こんな特異な変動が現れるには社会的な要因が背景にあると考えるべきです。ますます太っていく中年世代と違う環境が、若者にはあるはずです。総務省の「年齢階級、雇用形態別雇用者数」でパートタイマーやアルバイト、派遣労働者など、非正規雇用の割合を調べ、人体計測の期間の1992〜94年と2004〜06年で年齢別に平均値を出しました。まず男性についてのグラフを見てください。  この間に15〜24歳の若者だけ、非正規雇用率が21.7%から43.8%に急上昇しています。年上世代でもわずかに上がっているものの、25〜34歳が12.9%、35〜44歳が6.9%、45〜54歳が8.4%と雇用の安定ぶりは明らかです。では、女性の非正規雇用率はどう動いたのでしょうか。グラフを掲げます。  女性でもこの間に15〜24歳で倍増して51.1%になりました。年上の年齢層でも非正規の割合は増加しました。もともと高かったことと相まって25〜34歳が40.6%、35〜44歳が54.8%、45〜54歳が57.0%にまで増えています。ほぼ半数以上が非正規雇用で働く厳しさになっているのです。痩せ気味なのに「自分は太っている」と思いこんでいる女性が多いとの調査結果があり、スリム化には痩身願望が確かに働いているのでしょう。しかし、BMI値の変動は、ほぼ全ての年齢層で体重が何キロも減っていることを示しています。若者男性と同じ背景、雇用不安があるからこそ、これだけ大きな体重減少を生んでいると考えるべきです。

 厚生労働省の2006年版「労働経済の分析」は正規雇用では年齢が上がると収入も上がるが、非正規雇用では変わらないか、高齢になると逆に減る姿をグラフ化しています。例えば派遣労働者では39歳までは年収分布のピークは200〜249万円にありますが、40歳以上になると50〜99万円が一番多くなってしまいます。半数が非正規雇用の状態にある若い男性や女性の多数が、将来への不安から食まで含めて消費を控え、身構えてしまうのは当然のことでしょう。

 (注:この記事は英語版サイトの英訳用テキストとしてに、第158回「『男も痩せ型』若者変貌と非正規雇用」などを元に新たにグラフを起こして作成しました。英語版は近くリリースします)