ソニー再編人事は日本製造業再生モデルか [BM時評]

 ソニーのハワード・ストリンガー会長が4月から社長も兼務、若手の事業本部長達を直接、指揮して、この3月期連結決算で過去最大となる2600億円営業赤字の緊急事態に立ち向かうと報じられました。責任をとり副会長になって経営の一線から退く中鉢良治社長とのコンビが就任した2005年に「輝きが無いソニー改革人事の違和感 [ブログ時評14]」を書いた感触が蘇ってくる思いです(英語版も随分読まれました)。業績悪化は大不況突入による面が大きいのですが、それを割り引いても過去4年、ソニーの企業改革は目覚ましい物ではありませんでした。

 今回の報道ではロイターの《ストリンガー氏の全権掌握、ソニーの「モノ作り遺伝子」に変化も》が「ソニーは2000年代以降、製造業としてのあり方に迷ってきた印象が強い」「独創性の輝き取り戻せるか」「独創性に溢れる魅力的なエレクトロニクス製品を日本から送り続けてきたからだ。そうした成功体験がなお語り継がれる同社において、日本での事業のあり方を公然と批判するストリンガー氏が求心力を高め、ソニー復活へつなげる道筋は決して平坦ではない」とし、アナリストの見方として「ソニーはエレクトロニクス企業だが、ストリンガー会長は本業のエレクトロニクスに関して思い入れがみられない。ソニーのDNAを一度消し去るような人事とみている」と伝えています。

 今日の日経新聞が、同じ液晶パネルを使う韓国サムスンのテレビ事業は黒字なのに、なんでソニーのテレビ事業は赤字なのか、ストリンガー会長が疑問を持ったことが契機になっていると書いています。再編人事の説明ではネットワーク重視などを打ち出していますが、氏の発想はやはりコスト・カッターのようです。当面の急場にはこれしかないのかな――です。現在のソニーには、これはという商品が無くなっている恐ろしい状況です。

 ブログの声も疑問符が多い中で、「ソニーのグループ事業再編発表と旧態依然としたマスコミ論調」が「マスコミの論調は、ストリンガー氏への指導力を問う点は分かるけど、従来型の電機という製造業を軸足に原点を問うことは、見方が旧態依然とし過ぎていると思う」と異論ありです。期待すらあります。

 「アップルのビジネスモデルは、独自技術に基づく製造業のビジネスモデルではなく、基本デバイスの設計とデザインのみ行い、細かいデバイスは世界中の有力デバイスメーカーから集め、台湾のホンハイ(EMS会社)に製造委託し、グローバル市場で販売・投資回収するハード・ソフト一体かつ設計・製造の水平分業型ビジネスモデルで成長し評価された」「ソニーは本来アップルにような会社として評価されるべき会社だったのが、アップルにはなりきれなかった」「ソニーが今回発表した経営指導体制とグループ事業の見直しについては、寧ろ、ガラパゴス化した日本・電機メーカーが世界市場へ形を変えて復帰ができるかどうかを問うものとして、今後の行方を見守ってゆく」

 実際のところ、膨大な需要が世界から急に消滅した今回の事態下に、日本製造業の再生モデルを簡単に見つけることは困難です。中岡望さんの「急激に悪化するユーロ圏経済:共通通貨ユーロ危機説も」はユーロ圏で最大の落ち込みを記録しているドイツ経済について「成長パターンは日本と酷似している。ドイツは国民性を反映して貯蓄率が高く、内需の伸び悩みを輸出で埋める成長パターンを作り上げてきた。日本と同様に巨額の貿易黒字を計上し、輸出と企業の設備投資に支えられて2007年は2・5%の成長を達成している。これは先進国の中ではイギリスの3・0%と肩を並べる高成長であった」と指摘しています。アジアにおける日本と欧州でのドイツは相似形であり、苦闘ぶりも似ざるを得ない訳でしょう。