第182回「日本抜く中国GDP、矛盾する数字と未来」

 6月半ばに公表された2009年版通商白書は「IMFは2010年には中国が名目GDPで日本を抜くと予測するなど、日本の『世界第2位の経済大国』としての地位も残りわずかとなっている」(341ページ)と中国が日本を抜き去る時期が迫っていることを認めました。世界不況で経済縮小の日本、減速しながらも成長する中国ですから、差はいっそう速く縮まります。これを受けて中国GDPについての話題がこのところ目に付きます。

 野口悠紀雄・早大教授の「中国の経済回復に期待するのは危険!? 〜 あまりにも怪しいGDP成長率データ」は疑問を投げかけています。「過去長期にわたって、中国のIVA(工業付加価値:産出額マイナス投入額)と電力消費量は並行的な動向を示してきた。しかし、この関係が最近時点で壊れた。電力消費はマイナス成長なのに、IVAは増加していることになっている。IVAデータが正しくないとすれば、GDPデータも正しくない。なぜなら、中国GDPの約半分はIVAで推計されているからだ」

 7月1日に朝日新聞の「単位GDP当たりのエネルギー消費、08年は4.59%低下」を見たときもにわかに信じがたい思いがしました。2008年に「中国の単位GDP当たりのエネルギー消費は4.59%低下し、単位工業付加価値当たりのエネルギー消費は8.43%低下し、単位GDP当たりの電力消費は3.30%低下した」というのです。エネルギー浪費型の中国経済が、ほんの1年間で驚異的に省エネ方向へ転換したことになります。

 産業省エネで電力消費は減ったはずでした。「最近の新聞報道によれば、中国の電力消費は再び増加している。09年6月の発電量は、前年同月比3.6%増となった」「南部での増加率が高く、広東州などの工場での生産が回復している影響と見られるという」とのニュースに接して野口教授は首を傾げます。中国当局の説明「エネルギー使用効率が高まり、またエネルギー使用の大きな重工業からハイテク産業やサービス産業に産業構造が転換したため、エネルギー利用は減少したがGDPは増加している」と矛盾するとみています。

 中国に比較的、好意的な立場からでも統計の精度や問題点はあちこちで指摘されています。「中国のGDP(2) 統計をみる場合の注意点=谷口洋志」は「第四は、省級31地区と中国全体のGDPの関係についてである。これは、中国統計の信頼性に関わる問題でもある。例えば2004年における31地区の実質経済成長率をみると、最低が海南省の10.7%、最高が内モンゴル自治区の20.5%、全体の成長率が10.1%であった」と、全体の平均値以下の地区が全国に一つもなかった不思議ぶりを紹介しています。

 しかし、人口が日本の10倍もある中国がGDPで上回るのは遅かれ早かれ時間の問題です。2007年にドイツが世界第3位の座を奪われたとき、ドイツの反応は人口や面積が中国の一省くらいしかないのだから当然という感じでした。そして、中国の経済学者も本質的な問題は別にあると指摘しています。「レコードチャイナ」の「日本を超える中国のGDP、でも喜ぶのはまだ早すぎる―中国人コラム」は「GDPで日本の上に立つのは今回が初めてではないと指摘した。日清戦争の時代、中国のGDPは世界トップクラス。日本をはるかに上回るものであった。しかし工業力を高めていた日本のほうが結局は裕福な国であった」「一流の制度、技術、人材という基礎がなければ、どれだけGDPが大きくなろうと肥え太っているだけ」

 清朝まで延々と続いた中国帝国が、それぞれの時代に世界経済の中心のひとつであったのは事実です。「社会実情データ図録 Honkawa Data Tribune」から「図録▽中国とインドの超長期人口推移」を引用させてもらいます。明治維新のころの人口は4000万人くらいです。中国は4億人に近づきつつあったので、人口比10倍は現在と同じです。1人当たりの豊かさに、現在のような大差がなければGDPでは圧倒されます。  さて、未来です。このグラフから中国の人口増加が急減速していることが見てとれます。人口政策でほとんど手を打っていないインドに比べて、一人っ子政策が奏功した結果です。しかし、これが超・急速な老齢化を生むのです。7月10日、ロサンゼルス・タイムズの報道を「レコードチャイナ」の「豊かになる前に高齢化社会に突入、『老人が中国を沈没させる』―米紙」が伝えています。「2030年以降は生産年齢人口(15〜64歳)の減少が加速するという。生産年齢人口の減少は、中国のGDPを毎年0.7ポイント押し下げるとの推計もあり、現在、国民1人あたりのGDPが米国の約9分の1の中国にとっては大きな問題となるとしている」「中国はおそらく富む前に高齢化社会に突入する初めての大国になるだろう」

 豊かさの指標、1人当たりのGDPが米国並みになることはありませんよ――ということでしょう。今年初めの第171回「世界不況を契機に経済成長神話見直そう」で中国政府が描いている近未来像に疑問を呈しました。果てしない経済成長と、地球全体に存在する資源量との見合い問題もあります。その意味では、もうひとつの人口大国インドの、頭打ちがない人口増加グラフには背筋が寒い感じがします。