第186回「9月29日は民主党とネットの接触記念日に」

 9月29日、岡田外相がリードして、大手メディアが作る記者クラブに限定されていた大臣レベルの記者会見を広く開放しました。対象がネットメディアやフリーランスの記者にまで広がったのは、本当に画期的な出来事でした。他省庁にも拡大していくはずで、既得権の上に胡座をかいてきたマスメディア、特に在京メディアには衝撃的でした。たまたまこの日、鳩山首相が、ある有名ブロガーと夕食を共にし、Twitterを初体験するハプニングもありました。オバマ大統領の得意技を知らないで済むはずがないでしょう。民主党とネットが接触した記念日として記憶されるかも知れません。

 外相会見は「外務大臣会見記録(要旨)(平成21年9月)」にテキスト版と動画版が用意されています。テキスト版はテーマ毎に切り張りされているので、全体の雰囲気を知るには動画(45分)をお勧めします。30分で広報責任者が会見を打ち切ろうとしたのですが、外相が「もう少しやりましょう」と引っ張るところなど、新政権下で確かに変わったと思わせます。

 出席したフリーランスの記者側がどう見たのか、「田中龍作ジャーナル」は「『記者クラブ談合』の一角は崩れた」「記者会見開放の効果、フリー記者がスクープ」などの連作エントリーで追っています。後者は次のように伝えます。「『民主党スタッフと岡田幹事長(当時)の政策秘書が総選挙前に米国政府の働きかけで渡米し意見交換していた…(中略)』とする記事を朝日、毎日が30日付で伝えた」「この記事は29日の記者会見に出席していたフリージャーナリストの宮崎信行氏のスクープである」「朝日と毎日は記者会見で宮崎氏の質問と岡田大臣の答弁を聞き記事にしたに過ぎない。朝日と毎日は『後追い』したのである」

 記者会見の開放について大手メディアは正面から取り上げるのを避けていましたが、30日付の朝日新聞は「大臣会見、民主『開放』」と大きく報じました。この中で総務相や環境相らが会見で開放を口にしたことも伝えています。ただし、中見出しに「恣意的運用に危惧」とあったりして歯切れはかなり悪いと思います。外務省記者クラブは外相から投げられた問題提起に答えを出せず、見切り発車の形で会見開放はスタートしました。

 私個人は全国紙記者ながら、記者クラブの枠にこだわって取材する時代はとっくに終わったと思っています。クラブなどに拘束されずに取材活動全体をオープン化すべきなのです。中央官庁の役人の情報を有り難がっているから、在京メディアには起きている事実が見えないと判断しています(参考に10年前ながら時評「この国のメディアが持つ構造死角」)。なお、米国では2005年にホワイトハウスがブロガーに記者証を発行しています。「ホワイトハウスで初めて記者証を得たブロガーの物語」をご覧下さい。

 「鳩山首相とご飯した」を書いたのは、ブログが始まるずっと前からグルメ・文化記事系のネット活動をしている「さとなお」さんです。鳩山首相がブログ読者であったことから、朝、突然に夕食を一緒にする話が舞い込んできたそうです。恵比寿の立ち飲みから古い居酒屋へ。「途中、首相にお断りをした上で、このご飯の様子を少しだけ Twitter で実況中継した」「実況中継することで首相に興味をもってもらうのが狙い」「このソーシャルメディアが持つ『フラットでオープンにつながる世界』に少しでも触れていただき、トップダウンなコミュニケーションとは違う流れを感じてもらいたかったからである」「書き込む姿を見てもらったり、ボクの実況へのみなさんの返信をパソコン画面で見てもらったり(熱心に読んでくれた)、いろいろしているうちにかなり興味はもっていただけた模様」

 このエントリーはかなりボリュームがあるのですが「はてなブックマーク」が600を軽く超える大反響を呼んでいます。好感を持たれた方がかなり多いと感じます。時事通信の「首相、酔って羽目外す=『宇宙人だから』」に、居酒屋2階窓から乗り出す首相の写真がありますが、その部屋ではこんなやり取りがあったのですね。マスメディアに出ない、いい話がネットで読めるのは楽しいことです。