団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第193回「時事編集委員の退職と既成メディアの無展望」 (2009/12/11)

(「Blog vs. Media 時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 時事通信編集委員の湯川鶴章さんがブログに出した、年末での「退職のご挨拶」を見て、同じ業界に身を置く立場から「ついに既成メディアを見切られたな」と感じました。『ネットは新聞を殺すのか』などの著書で知られ、最近はマスメディアが将来生き残るにはSNS的な要素が欠かせないと主張されていたのですが、「わたしの専門であるオンラインビジネスの領域で時事通信社に貢献したいとこれまで努力してきましたが、自分自身の未熟さからほとんど結果を出せなかったのが一番の理由です。また今後も出せそうにないという展望に立ち、社を去ることが社への最大の貢献であるという結論になりました」と会社を去る理由を述べていらっしゃいます。

 彼とは一度だけ、新聞社内向けの勉強会で講師をされたときにお会いしたことがあります。私も社員なのに半ば社外講師のような形でその場に招かれていたので、突っ込んで話し合うことはありませんでした。米国で長く仕事をして帰国されたので海外のIT状況に強いながら、国内メディアの取材、営業現場にはあまり土地勘を持たれていないと思っていました。その一方、編集委員として会社公認でネット活動をされ、会社と完全に離れた私のネット活動とは違う立場だったので、時事通信社を内部から変えることが出来るかとも思っていました。しかし、国内既成メディアは新しい動きを作り出せる人材や経営陣の判断力を欠いていると悟られたのではないでしょうか。

 今週は米国でグーグルとニューヨークタイムズ紙、ワシントンポスト紙が組んだ《米Google、新しいニュースの見せ方「Living Stories」の実験開始》のニュースが流れています。例えば地球温暖化問題のページ《The Politics of Global Warming》をニューヨークタイムズがもともと持っているトピックス《Global Warming- Science》と比べると興味深いものがあります。新聞社が提供するニュースセットの上にグーグルが様々なデータを追加構築していくと、時々刻々と動いている感じがするし、張り巡らされたリンク多数の厚みは相当な物です。ネット上にはいろんな料理法がまだまだあるようです。

 しかし、こんなハードな話題を求める需要は相対的に小さくなっているように感じています。新聞などが得意とする話題分野は、市民社会が追いかけている話題全体に比べて少数派になったと言うべきです。数年前はネットの膨張により新聞の守備範囲に大きな「抜け」が生じていると言われたものですが、いまやカバーしていない方が大きくなりました。サブカルチャーを含めた多様で個人志向に振れた話題をどう捕まえ、どう伝えていくのか、既成メディアは生き残るためにも将来に向けた構想を打ち出すべきなのですが、今年も携帯電話と提携するといった「形」ばかりが追求されました。

 卑近な例で恐縮ですが、私の硬派サイトとしては珍しいAV特集「ベルリンフィルに耐えるPC用1万円オーディオ」その続編が意外に多数の方に読まれました。なぜかグーグル広告の収益も目立っています。クリック率の高さはじっくり読まれたということでしょうか。ジャーナリズムの仕事と音楽と食の趣味は、個人的な思いとしては一体の「トライアングル」をなしていて、それならもう少し提供する話題の幅を広げるかと思い始めています。

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