第196回「スズキとVWのクルマ強者連合が走り出した」

 自動車メーカーのスズキは自社株19.9%を独フォルクスワーゲン(VW)に譲渡、VWが筆頭株主となりました。この発表があった1月15日に鈴木修会長兼社長がマスメディア各社と記者会見、前日にはロイターがVW日本法人社長との会見を流しました。両者とも日本では販売面で提携するつもりはないと言っていますし、スズキの言い方では海外でも販売は別のニュアンスです。これから豊かになる途上国市場に焦点を合わせたクルマ造りに強者連合が走り出しました。VWはトヨタを押しのけて世界最大、スズキは今回の経済危機でも赤字転落を免れ新興インド市場で過半を占めます。

 スズキの会見では日経新聞の「スズキ、独VWに株譲渡完了 10年度にも部品共通化」から「提携の具体策ではまず部品の共通化に取り組む。部品やプラットホーム(車台)、エンジンなどを対象に両社で共通化が可能な品目を洗い出し、早ければ2010年度から実施する」を引いておきます。スズキはこれまでゼネラル・モーターズ(GM)との間で進めていたハイブリッド車などの共同開発の打ち切りも表明しました。

 国内にいるとトヨタを中心に自動車産業を見てしまうことになりがちです。230万台も販売していてもスズキは物の数に入っていない印象がありました。それをどう改めるのか、メディア各社もまだ不慣れな感じです。実際に過去の世界ナンバーワンGMとスズキの提携でもほとんど果実はなかったのですから、VWとの提携話も意味があるものなのか半信半疑なのです。

 自動車評論家、両角岳彦氏の「スズキに益をもたらすVWの骨太なものづくり」は「スズキは、確かにベーシックな移動空間をできるだけ安価に造ることにかけては、一日の長がある。しかも、それを徹底的に『泥くさい』プロセスで推し進める。これは欧州メーカーが簡単に真似できることではない」「ただ、それだけに、自動車そのものを形作る技術に『奥行き』がない」「サスペンションやステアリング、さらに車体骨格、あるいはシートなどに至るまで、人と組織の『知』の蓄積がまだまだ足りないのである。この『知の蓄積』こそは、VWの得意分野」と指摘します。GMもこれを欠いているからこそ小型車競争で敗れたのです。

 さらに日本自動車産業の危うさをこう見ます。VWは「2世代前の『ゴルフ4』系のプラットホームは、中国の現地企業に独自車種を開発するのに使ってもよい、と譲り渡したという」「今後、自らの製品をさらに大きく進化させる明確な技術ビジョンがあり、それを次々に投入していく時には、ゴルフ4を基にした製品は競合対象にならない、と判断していることになる」「中国には既にVWをはじめとする欧州各社の最新製造設備や部品産業が供給されている。逆に日本の自動車産業のものづくりは、ただひたすらコスト削減を追いかけるばかりで、基本要素はもちろん、得意分野だとされる製造技術についても、停滞の中にある」。最近、「日本品質」とも言える品質の余裕をぎりぎりまで削ってコストを下げることが始まりました。本当にこれで善いのでしょうか。

 VWから見たスズキについては、東洋経済オンラインの「老練スズキの危機感、GMからフォルクスワーゲンへ鞍替えの真意」が的確でしょう。「ダウンサイジング競争が激しくなる中で、『小さな車をなるべくコストを下げて造るのが持ち味』(鈴木会長)であるスズキという存在は、VWの目にかつてなくまぶしく映っていたはずだ」「そのうえ、スズキのインド事業も間接的に手に入れることになる。VWはシュコダブランドで参入しているものの、シェア5割の王者スズキの足元にも及ばない。ヴィンターコルン会長は『VWはアジアで大きく前進する』と満面の笑みで語った」

 「【産業天気図・自動車】新興国需要で10年4月から『雨』に一段回復も、本格回復は道半ば」(東洋経済)は「新興国は元気だ。09年は中国が米国を新車販売台数で抜いた」「有望市場であるインドも、11月の新車販売が7割近く伸びるなど、力強い回復を見せている。それでも、先進国の落ち込みを補い本格回復をもたらすには至らない」と先進国市場の見通しは暗いと伝えています。もう贅沢な大型車が大量に売れる時代は戻って来ないと見切りをつけなければなりません。また、途上国市場をにらめばハイブリッド車や電気自動車に専念してもいられません。その点、強者連合は他のグループに比べて旗幟鮮明とみます。

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