第199回「政治家とマスコミの愚、公認会計士が直言」
今週は2人の公認会計士さんから政治家とマスコミに対して手厳しい、痛烈と言ってよい批判が出ました。ひとつは有名なブログ「isologue by 磯崎哲也事務所」の「政治家のみなさんに向けた会計の初歩の初歩」。もうひとつは「THE JOURNAL〜News Spiral」の「公認会計士の目から見た陸山会政治資金事件」で細野祐二氏が書いています。
磯崎氏が取り上げたのは、共産党の志位委員長が鳩山首相と会談して企業の内部留保への課税を要望し、官房副長官が検討するとなった件です。「言語道断!何考えてるんでしょうか?」「政治家の方は(「自営業者的」ではあるけれど)、おそらく駅前の商店街で帳簿付けてるおかみさん程度の会計の知識も無いんだな、と思いました」
私も朝、新聞記事を見てびっくりした一人です。下の賃借対照表を見ていただければ明らかになることですが、企業が儲けて貯めているかのごとく錯覚されている「内部留保」は多くは現金として残っているものではありません。企業活動が旺盛ならば工場なり店舗なりシステムなり外部投資なりに投下されています。 内部留保課税では、マスメディアの反応の仕方も分かっているのか見えない奇妙なものでした。磯崎氏は続けます。「企業の内部留保や労働分配率だけを見て、いいの悪いの言う政治家の方もいらっしゃいますが、経済全体に目が向いていないんじゃないでしょうか?固定資産というのは未来の収益のための投資です」「政府の財政赤字の問題も、デフレの議論が噛み合ないのも、政治資金規正法の問題も、会社のガバナンスや課税論議が的外れなのも、すべて、商店街のおっさんでも理解してるような会計の初歩の初歩を理解してない人が国政に携わっていることに起因するもんじゃないでしょうか」。同じく理解せずに報道しているマスコミも同罪です。
磯崎氏は内部留保ではなくて預金として残している部分が国内では膨大になって、成長に繋がらなくなっていると以前から指摘しています。内部留保ではなく、貯めすぎを抑え、経済活動に使わせるための「預金への0.5%以下のマイルドな課税」を提案しています。
◇ ◇
借方と貸方がきちんと揃っている複式簿記ならば、資金と資産の流れは完全に把握されます。ところが政治資金規正法はそうした厳格な会計処理を求めていない点をマスメディアが認識できていないところに政治資金疑惑報道の問題点があります。「公認会計士の目から見た陸山会政治資金事件」は「政治資金収支報告書とは政治団体の収支に関する会計報告なのであるから、本来であれば、政治団体の収支の事実に基づく会計処理こそがここで問題とされなくてはならない。ところが、これだけ膨大なマスコミ論評の中で、会計処理の是非を論じたものなどただの一つも見たことがない」と指摘します。
「政治資金収支報告書の虚偽記載というのであるから、本来であれば、この資金移動の事実をどのように政治資金収支報告書に記載しなければならないかという会計上の正解がなくてはならないが、実はこれがない。信じがたいかもしれないが、検察官も正解を持っていない。なぜなら、現行の政治資金収支報告書では、単式簿記を前提とした部分的な会計報告書の作成が義務付けられているに過ぎないからである」。いわば同好会の会計報告に似た状態なのです。
「部分単式簿記では複数の会計処理が可能なのである。現行の政治資金規正法は部分単式簿記による複数会計処理の並存を認め、報告書における作成者の裁量余地を大きく残している。基準上裁量権の認められた会計処理に対して虚偽記載を主張するのは、一方の見解を強要することにより裁量権を否定するに等しく、これを無理して立件するのを国策捜査という」
このレポートは長文なのでじっくり読んでいただくことにして、小沢氏から石川議員への4億円受渡し問題についてだけ見ましょう。「小沢氏の説明によれば、この金は、陸山会が東京都世田谷区の土地を購入するに際して当座の資金がなかったので、自分が一時用立てたものとのことである。事実としてこの現金授受には金銭消費貸借契約書も作成されていなければ、返済期間や金利の定めも一切なされていない。会計上、資金移動の最終形態が定まらないまま行われた資金移動は仮払金・仮受金として会計処理される。ならばこの4億円についての陸山会側の会計処理は仮受金でなくてはならない。ここで、政治資金規正法上、仮受金は政治資金収支報告書上の記載項目ではないので、陸山会の会計責任者としての石川議員は、この現金受領の会計処理を行なう必要がない」
細野氏は鳩山首相の資金疑惑と比較してこう断じます。「実母から贈与された3億6千万円を個人献金やパーティー券収入による寄付金として政治資金収支報告書に記載したのであるから、これが政治資金収支報告書における重要な虚偽記載である事は紛れもない」「小沢幹事長の場合は、貸付けられた4億円は政治資金収支報告書に借入金として計上されているのであり、問題は、貸付となる以前にやり取りされた4億円の仮受け現金の記載の是非に過ぎない。鳩山総理の政治資金規正法違反が真っ黒なのに対して、小沢幹事長は限りなく真っ白に近い」
◇ ◇
メディアの記者が持っている基礎知識は限られています。現実に起きていることを理解するためには、走り回って色々な人の知恵を集めなくてはなりません。私には自明のことなのですが、在京大手メディアの論説委員を中心に「自分はもう取材などしなくてよい」と昔、得た知識で新しい現実に立ち向かう愚かな記者が大量に存在します。日々の紙面を作るデスククラスにも新しく起きたことに新奇性、面白さを感じるよりも、過去の事例に当てはめて当座を凌ごうと考える人が少なくありません。今回取り上げた2例が既成メディアの内部でどう扱われたのか、想像に難くないはずです。
【関連】マスメディアによる『私刑』の様相すら
摘発基準を下げた検察に追従はメディアの自殺行為
磯崎氏が取り上げたのは、共産党の志位委員長が鳩山首相と会談して企業の内部留保への課税を要望し、官房副長官が検討するとなった件です。「言語道断!何考えてるんでしょうか?」「政治家の方は(「自営業者的」ではあるけれど)、おそらく駅前の商店街で帳簿付けてるおかみさん程度の会計の知識も無いんだな、と思いました」
私も朝、新聞記事を見てびっくりした一人です。下の賃借対照表を見ていただければ明らかになることですが、企業が儲けて貯めているかのごとく錯覚されている「内部留保」は多くは現金として残っているものではありません。企業活動が旺盛ならば工場なり店舗なりシステムなり外部投資なりに投下されています。 内部留保課税では、マスメディアの反応の仕方も分かっているのか見えない奇妙なものでした。磯崎氏は続けます。「企業の内部留保や労働分配率だけを見て、いいの悪いの言う政治家の方もいらっしゃいますが、経済全体に目が向いていないんじゃないでしょうか?固定資産というのは未来の収益のための投資です」「政府の財政赤字の問題も、デフレの議論が噛み合ないのも、政治資金規正法の問題も、会社のガバナンスや課税論議が的外れなのも、すべて、商店街のおっさんでも理解してるような会計の初歩の初歩を理解してない人が国政に携わっていることに起因するもんじゃないでしょうか」。同じく理解せずに報道しているマスコミも同罪です。
磯崎氏は内部留保ではなくて預金として残している部分が国内では膨大になって、成長に繋がらなくなっていると以前から指摘しています。内部留保ではなく、貯めすぎを抑え、経済活動に使わせるための「預金への0.5%以下のマイルドな課税」を提案しています。
◇ ◇
借方と貸方がきちんと揃っている複式簿記ならば、資金と資産の流れは完全に把握されます。ところが政治資金規正法はそうした厳格な会計処理を求めていない点をマスメディアが認識できていないところに政治資金疑惑報道の問題点があります。「公認会計士の目から見た陸山会政治資金事件」は「政治資金収支報告書とは政治団体の収支に関する会計報告なのであるから、本来であれば、政治団体の収支の事実に基づく会計処理こそがここで問題とされなくてはならない。ところが、これだけ膨大なマスコミ論評の中で、会計処理の是非を論じたものなどただの一つも見たことがない」と指摘します。
「政治資金収支報告書の虚偽記載というのであるから、本来であれば、この資金移動の事実をどのように政治資金収支報告書に記載しなければならないかという会計上の正解がなくてはならないが、実はこれがない。信じがたいかもしれないが、検察官も正解を持っていない。なぜなら、現行の政治資金収支報告書では、単式簿記を前提とした部分的な会計報告書の作成が義務付けられているに過ぎないからである」。いわば同好会の会計報告に似た状態なのです。
「部分単式簿記では複数の会計処理が可能なのである。現行の政治資金規正法は部分単式簿記による複数会計処理の並存を認め、報告書における作成者の裁量余地を大きく残している。基準上裁量権の認められた会計処理に対して虚偽記載を主張するのは、一方の見解を強要することにより裁量権を否定するに等しく、これを無理して立件するのを国策捜査という」
このレポートは長文なのでじっくり読んでいただくことにして、小沢氏から石川議員への4億円受渡し問題についてだけ見ましょう。「小沢氏の説明によれば、この金は、陸山会が東京都世田谷区の土地を購入するに際して当座の資金がなかったので、自分が一時用立てたものとのことである。事実としてこの現金授受には金銭消費貸借契約書も作成されていなければ、返済期間や金利の定めも一切なされていない。会計上、資金移動の最終形態が定まらないまま行われた資金移動は仮払金・仮受金として会計処理される。ならばこの4億円についての陸山会側の会計処理は仮受金でなくてはならない。ここで、政治資金規正法上、仮受金は政治資金収支報告書上の記載項目ではないので、陸山会の会計責任者としての石川議員は、この現金受領の会計処理を行なう必要がない」
細野氏は鳩山首相の資金疑惑と比較してこう断じます。「実母から贈与された3億6千万円を個人献金やパーティー券収入による寄付金として政治資金収支報告書に記載したのであるから、これが政治資金収支報告書における重要な虚偽記載である事は紛れもない」「小沢幹事長の場合は、貸付けられた4億円は政治資金収支報告書に借入金として計上されているのであり、問題は、貸付となる以前にやり取りされた4億円の仮受け現金の記載の是非に過ぎない。鳩山総理の政治資金規正法違反が真っ黒なのに対して、小沢幹事長は限りなく真っ白に近い」
◇ ◇
メディアの記者が持っている基礎知識は限られています。現実に起きていることを理解するためには、走り回って色々な人の知恵を集めなくてはなりません。私には自明のことなのですが、在京大手メディアの論説委員を中心に「自分はもう取材などしなくてよい」と昔、得た知識で新しい現実に立ち向かう愚かな記者が大量に存在します。日々の紙面を作るデスククラスにも新しく起きたことに新奇性、面白さを感じるよりも、過去の事例に当てはめて当座を凌ごうと考える人が少なくありません。今回取り上げた2例が既成メディアの内部でどう扱われたのか、想像に難くないはずです。
【関連】マスメディアによる『私刑』の様相すら
摘発基準を下げた検察に追従はメディアの自殺行為