第218回「無罪判決、検察特捜部の劣化にどう責任とる」

 これだけ無惨に地検特捜部が敗れる判決があったでしょうか。厚生労働省の村木厚子・元局長を被告とした郵便割引制度をめぐる偽の証明書発行事件で、大阪地裁は10日、無罪判決(求刑懲役1年6カ月)を言い渡しました。検察による取り調べ調書の大半が裁判所に証拠採用されなかった異例の事件ですから、控訴できるはずもないと思います。検察はどのような「けじめ」をつけるのでしょうか。検察幹部の更迭が必要です。

 冤罪事件として考えると、マスメディアも片棒を担いでいると言わざるを得ません。「村木厚子さんを支援する会」のサイトには、「事件」発生からの動き、ドキュメントが掲示されています。「7月30日(木)の毎日新聞に玉木達也記者による接見記が掲載されました」には2009年7月19日付の毎日新聞「記者の目:郵便不正の虚偽公文書作成事件」が出ていますが、大変な冤罪になりうるとの視点は希薄です。事件は終わっていないと疑問を投げるのが精一杯でした。

 村木さんの共犯者とされた部下、上村被告は取り調べ段階では上司との共謀を全面的に認めています。昔のように認めさせようと拷問をしたわけではありません。何があったのか、公判で明らかになりました。「10.02.26 ジャーナリストの江川昭子さんが、第8回公判を傍聴し文章を発表しました。」にこうあります。

 「S検事『でも、村木さんの関与について書かれている調書に、あなたは署名してますよね?』」  「上村氏『村木さんの関与なんて、自分は一度も言ってないのに、拘留期間が長引くよとか、再逮捕をちらつかされたり・・・有形無形の圧力が有って、関与について『はい』と言ってしまったんです。それだけじゃなく、あの人はああ言ってる、この人も認めてるって、外堀を埋められるような感じで言われると、弱い立場なので、もういいや・・・と諦めの気持ちになってしまいました。自分の意思とは違うけれど、大人しくしないとダメだ・・・と、ずるいかもしれないけど、自分の身を守ることだけを考えるようになってしまいました。検事さんはね、体調はどう?とか食事はちゃんと食べれてる?とか、優しく聞いてくれるんですが、僕の供述は無視して、自分の考えをどんどん冷静な態度で調書にして行くんです。この人が豹変したら僕はどうなるんだろうって・・・その冷静さがすごく恐ろしかったです。話が、どんどん大きくなって行き・・・恐怖感でいっぱいでした。』」

 被告のあまりの小心さ、検察官の思いこみの酷さに驚きますが、捜査する側が丁寧に裏をとっていけば、こんな虚構が表に出る事はないのです。捜査は単独でしているものではありません。

 3月の「地検特捜の捜査ここまで劣悪。東京も大阪も」で「私が検察官を取材した経験からは、これが事実なら、もう勝負は『終わっています』ね。事実だったことを法廷で『証明』するために、検事だけでなく都道府県警の捜査官もどれほど細部を詰めていることか。それほど要るのかと思えるほど複数の関係者から証言を集め、補強するのが、捜査では当たり前の世界だったのです。特捜部の捜査がこの程度の思いこみで進行しているのなら、検事総長の首がいくつあっても足りないと思います」と指摘しました。

 大阪高検から最高検まで協議を重ねて強制捜査に踏み切り、起訴しているのですから口をぬぐうことは出来ません。