第230回「既成メディアとネットの拮抗、潮目が変わる」

 27日は大阪で開かれた「ジャーナリズムフェスタ2010」に行きました。この催しの趣旨は既成マスメディアの窮乏化で外部委託費が削られる中、フリーランスのジャーナリストが今後どう展望を切り開けるか考えるものです。新聞、テレビなど既成メディアとオルタナティブであるネット・ジャーナリズムの関係は、今年に入って潮目が変わってきており、皆さんがどのように考えているか興味があったので参加してきました。予想通り、閲覧端末としてのiPadが世界規模で普及し、取材活動の産物がアップルストアのアプリケーションとして売れる可能性がクローズアップされていました。電子書籍化はもっと広がっており、他の手段も含めてネット情報の有料化が論議されましたが、この方向はネット上の全ての情報を検索可能にしてしまおうとするグーグルの野望と正面からぶつかります。

 この催しについて、いま出ているメディアの記事は共同通信の《デジタル時代の報道を議論 「マスメディアと対決」》くらいしかありません。ネット上で輝いている知性が既成メディアの報道を遙かに凌駕しているのは以前からの事実です。2006年にはオーマイニュース日本版について「大型市民記者メディアは無理と決した [ブログ時評65]」と書きました。あの当時から質の高いブログの記事を活用すればずっと善いと思っていたのですが、最近になってポータルサイトがそれを現実にし始めました。

 ポータル最大手の「Yahoo!みんなの政治」「政治クローズアップ」で個別テーマを開けてみてください。ブログから選ばれた記事と既成メディアの記事が同じようにリンクされ、並んでいることに気付くはずです。いや、そのテーマについての「見方」「読み解き方」について言えば、多くの場合、ブログ側が断然優勢です。今回の催しでも指摘する発言がありましたが、「PJ(パブリック・ジャーナリズム)ニュース」という無理筋に手を出したライブドアが、現在は「ブロゴス」という形で読むに耐える専門家を中心にしたエントリーを集め、相当なページビューを稼ぐようになっています。事実上、既成メディアとネット・ジャーナリズムが同じ土俵に立つ、拮抗の時代が来ました。

 パネリストに関西ウォーカーの玉置泰紀編集長がいらっしゃり、全盛期の50万部から10万部弱に減っているものの、編集者がDTPソフトを使って印刷直前の状態まで仕上げて印刷会社に渡すようにしたら、広告料を除いて販売収入だけで黒字になっていると報告されました。レイアウトを描いただけで原稿、写真などの素材を印刷会社に丸投げしていた雑誌が次々に潰れていく中、これも面白い話です。

 これから連想したのがメディア・パブの「マードックとジョブズが手を組む、共同プロジェクトのiPad新聞が来年早々にも登場」です。「the Sunやthe New York Post、 the New Yorker、The New York Times、 AOL News、 The Atlanticなどからジャーナリストをかき集めているとか。Forbes誌によると、総スタッフ数は150人程度になり、News Corpの予算は最初の年が3000万ドル程度と見られている」と書いています。アップルストアのアプリケーション専用として売るのなら紙面編集以降の費用は知れていますから、ある程度のスタッフ数と取材費を投入してもペイするのでしょう。

 週間購読料99セント、200万読者を目指す「iPad新聞」ですが、こんな大規模ではなく、限られた分野やローカルな地域で小規模な新聞を作る方向にも応用出来るのでないでしょうか。地方紙が潰れて地方ニュース空白地帯が広がる米国でローカル新聞を再興する可能性だってあるかも知れません。国内でも少し知名度があるジャーナリストを中心にすれば、ミニiPad新聞が可能でしょう。有料と言えば、「まぐまぐ」から出している「ホリエモン」こと堀江貴文氏の有料メルマガが、来年初めには年間1億円の売り上げ規模に達するとの見通しも会場で「まぐまぐ」から報告されました。少し前までなら信じられない数字です。月間数百円程度の購読料なら広く受け入れられる状況になっています。

 どのような形であれ有料コンテンツはインターネットでの検索対象から外れます。その主翼であるアップルはますますグーグルと対峙する存在になっていきそうです。

 【参照】第226回「新聞社の電子版有料化、内外とも苦戦苦悩」