第234回「北京大教授論考の衝撃:中国高成長は維持不能」 (2010/12/22)

(「Blog vs. Media 時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 日経新聞「経済教室」21日付に黄益平・北京大教授が「中国経済の持続的成長へ 生産コストのゆがみ正せ」との論考を書いています。中国政府を気遣ってかマイルドな表現になっていますが、持続的成長とは現在より大幅に鈍化した「通常の成長段階への移行」でしかありえないと読めます。エネルギー価格を国家統制で国際価格より大幅に下げるなど「改革期の中国は国を挙げて経済活動に補助金を出してきた」わけで、庶民の懐から取り上げたお金を企業に回しているとも読めます。「同じGDP規模なのに税収は中国が日本の2.8倍」などで最近、中国について抱いていたいくつもの疑問が氷解する思いがしました。中国内に「成長路線はいずれ行き詰ると考える経済学者や政策担当者も多い」そうです。

 黄教授は高い成長を維持してきたために、土地、労働、固定資本などの生産要素に大きなゆがみが出たと指摘します。例えば労働市場については「農村住民と都市住民を区別する戸籍管理制度の下で、都市部への移住労働者の差別がいまだに続いている。移住労働者は賃金を低く抑えられるだけでなく、社会福祉など基本的なサービスすら利用できない」としています。農村部が貧しいのは開発が遅れているからだけではなく、政府が集めたお金を都市部で集中的に使い、9億人いる農村部の住民をあまり顧みていないからでしょう。

 今年はこんなデータが出されました。「中国の都市部と農村部所得格差が拡大」(化学業界の話題)から農村部と都市部の「一人当たり純所得」推移グラフを引用します。(1人民元は12.5円程度です)



 「中国国家統計局の発表では、2009年の中国の都市部の一人当たり純所得は17,175人民元($2,525)で、農村部の5,153人民元と比較し、3.33対1に広がった」「中国農務部の農村経済研究所の研究員は、国が農村開発よりも都市の拡大に注力しているため、所得格差は今後もっと拡大すると懸念している」

 3年前に書かれた「中国、戸籍制度改革へ」がまったくと言っていいほど動いていない事実が解決の難しさを表しています。「社会保険上の差別=年金、失業保険、医療保険、労災保険、生活扶養金が農民工には与えられない」だけをとっても、本来は暴動ものだと思いますが、垣根を取り払ったら農村部人口の膨大さゆえに大混乱になると中国政府は考えているのでしょう。

 農村部住民だけが損をしているのではないと、黄教授はみています。驚くべき経済成長をしているのに「過去10年間、家計の所得が国民所得に占める比率は10ポイント以上低下している」「同時期に家計の消費がGDPに占める比率も下がっている」「政府の消費刺激策にほとんど効果が出ていないのは、こうした事情からだ」。GDPに占める個人消費が6割前後ある日欧米に比べ、中国は35%しかなく、それも10年前は45%前後はあったのです。

 社会と経済が行き詰ってしまう構造的リスクを減らし、成長持続性を高めるために「生産要素市場の自由化とコストのゆがみ是正に政策の軸足を移せ」と黄教授は提言します。「このような改革を行えば生産コストは上昇し、従って経済成長は鈍化するだろう」が「内需の均衡回復、経常収支の均衡回復などをはじめ、バランスがとれた経済の回復に好ましい効果があるはずだ」とします。第232回「持続不能!?中国の無謀なエネルギー消費拡大」での危惧も市場原理が働けば是正されるでしょう。

 「中国の都市部と農村部所得格差が拡大」には富が一握りの人々に集まっているデータがあります。「中国の調査会社によると、10百万元(約150万ドル)以上の金持ちが825千人、1億元以上が51千人になった。これらの人のうち、57%は年間100〜300万元を、他の18%は300万元以上を消費している」。1人当たりGDPはまだ3800ドルしかない中国でこのように貧富の差が開き続ければ不満が蓄積し、大きな社会不安を抱え込む恐れが高まります。黄教授によると「楽観論者は、政府には深刻なリスクを抑え込んできた見事な実績があると主張」するそうです。ノーベル平和賞問題などの民主化抑制はまさにそうした対応ですが、貧富の差を覆い隠すのは不可能です。しかも建前は共産主義の国なのですから。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー

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