第253回「高汚染無視で飯舘村民を棄民する国とメディア」

 国際原子力機関(IAEA)が福島原発の北西40キロ、飯舘村で測定した土壌の放射線レベルが極めて高かったのに、原子力安全・保安院は無視を決め込み、マスメディアは事態の意味を理解しようとしません。国とメディアが一体になった文字通りの棄民です。

 ウィーンからの当初報道は「1平方メートル当たりで200万ベクレル、IAEAの設けた避難基準の2倍」でした。原子力推進のIAEAにしては厳しい基準を作っていると感じたのですが、実は桁が一つ違っていて、10倍2000万ベクレルの「ヨウ素131」が真相でした。セシウムに比べると半減期が8日と短いヨウ素であるにせよ、ショッキングな高汚染です。ところが、保安院は完全に事実を無視する方向です。

 毎日新聞の《東日本大震災:福島第1原発事故 IAEA基準超す放射能 保安院「避難の必要なし」》はこう伝えます。「文部科学省の簡易型線量計のデータを基に、震災以降の累積線量を試算した。その結果、同村周辺で最も線量が高い地点の累積線量は50ミリシーベルトだった。これは一日中屋外にいた場合の線量で、日常生活での累積被ばく量はこの半分程度と見ていいという」「一日中屋外で過ごすことは現実的には考えづらく、(水素爆発などが起きた3月中旬に比べて)時間当たりの放射線量も減少傾向にある」

 IAEAの測定チームが特殊な場所を選ぶとは考えられませんから、飯舘村民の生活空間に原子力推進側から見ても放置できない高汚染場所があったのです。具体例があがっているのに「自分の手持ち測定データでは安全です」と言ってしまうお役所、毎日新聞に限らずこれに納得してしますマスメディアにはあきれ果てます。「どういう基準か分からないが」と書いた新聞までありました。

 土壌の放射能汚染について日本には基準が無いのです。IAEAが何となく避難基準を設けるはずもなく、議論の上に作ったはずです。その基準の2倍の数字が出ていると突きつけられて、土壌汚染について真剣に考えたことがない日本側がはねつけるとは、論理学の初歩を知らない愚かさです。その事実が無視できるのは、徹底的に村内を測定をして回り、結果として例外的な事例であると判明した場合だけです。そんな手間をいま掛けていられませんから「安全のため取り敢えず避難してください」と指示するのが普通の行政機関です。人口6000人の飯舘村では半数が避難していましたが、戻る人が増えて4000人ほどになっているそうです。

 第252回「公衆の被ばく限度、運用で10〜50倍も切り上げ」を書いた際に危惧していたことですが、原子力防災での屋内退避指標「10〜50ミリシーベルト」の上限50ミリシーベルトが記者会見で公衆被ばくの上限として扱われています。「最も線量が高い地点の累積線量は50ミリシーベルトだった」と聞いてメディアの記者は何の疑問も持たないようです。いますぐ目に見える影響は無くても、癌の発症確率は従来の公衆許容量年間1ミリシーベルトに比べずっと高まりますし、IAEAの測定例が示すように公衆内部で個人による条件差は非常に大きいものです。50ミリシーベルトの累積被ばくが多数あるなら2倍の100ミリシーベルト、3倍の150ミリシーベルトの人がいて不思議でありません。全員の被ばく量を管理している職業人と違う点も要注意です。