第295回「『失われた20年』見直し機運、悪くない日本未来」

 英銀最大手HSBCが出した2050年の予測「The world in 2050」を見て、『失われた20年』と自ら卑下する必要はあまりないのではないか、と考えるようになりました。人口が1億人まで減りながらも世界第4位の経済規模と主要先進国で最大の1人当たりGDPを持つ予想ですから、不平を言ってはばちが当たるというものです。新年になってニューヨークタイムズにも「日本の停滞は神話(The Myth of Japan's Failure)」が掲載され、本当に「失われた10年、20年」だったのか、見直される機運です。

 2050年の世界経済規模ランキング30位まで一覧表を引用します。2050年の予想GDP、2050年の1人当たりGDP、2010年の1人当たりGDP、2050人口と並んでいます。2000年の米ドル価値で表されています。  中国が首位、インドが3位に入っていますが、14億、16億の大人口ですから1人当たりGDPはそれぞれ1万7千ドル、5千ドルに止まります。日本はインドに抜かれ4位になるものの、1人当たりGDP6万3千ドルは5万ドル前後の米独英に少し差を付けています。ブラジル・メキシコなど中南米に、トルコ・韓国・インドネシアのアジア、エジプトなどアフリカ諸国も顔を出している一方、北欧諸国が姿を消しています。中国は現在の韓国並みの1人当たりGDPに達する予測ですが、第232回「持続不能!?中国の無謀なエネルギー消費拡大」で指摘しているように成長に使える資源には限界があります。HSBC予測も地球2個分もの資源を使うことになると認めていて、実現可能かどうかには疑問が残ります。

 一方、ニューヨークタイムズは日本のバブルが崩壊した1990年から20年間の指標を挙げて、停滞は神話だったのではないかと問題提起しています。日本人の平均寿命は4.2歳伸び、アメリカ人より4.8歳も長くなっている▼インターネットの接続速度が速い世界50都市の38は日本が占め、米国はたったの3都市▼円の価値はドルに対し87%、英ポンドに対し94%も上がった▼日本の経常収支黒字は3倍増の1960億ドルに拡大したのに、米国は990億ドルの赤字を4710億ドルまで増やした――などを例示しています。1人当たりGDPの伸びで見ると、米国には過大評価があって、実は日本に後れを取っているのではないかと考え始めています。

 日銀の白川総裁が新年の講演「デレバレッジと経済成長――先進国は日本が過去に歩んだ「長く曲がりくねった道」を辿っていくのか?――」でこれに呼応する趣旨の発言をしています。《次に「失われた20年間」の後半期であるが、この時期については、人口動態の変化、より具体的には急速な高齢化の影響が大きい。日本の実質GDP成長率は確かに低下し、他の主要国と比較しても見劣りするが、過去10年の平均でみると、人口一人当たりの実質GDP成長率は他の先進国とほぼ同程度、そして、生産年齢人口一人当たりの実質GDP成長率で比較すると、日本が最も高い》。説明するグラフを以下に引用します。  HSBC予測も日本の人口がかなり減っていくことを前提にしながら、1人当たりGDPが伸びて経済規模を維持していくと見ています。教育の機会均等や民主的な政治体制、法治能力も経済成長に影響するとされています。経済成長を考える上で人口の動向は支配的要因ですから、増減表を一部引用します。先進国でも米英加豪は増え続け、日独伊はかなり減っていきます。中国とブラジルは途中で減少に転じますが、インド、インドネシア、サウジアラビアあたりは増え続けます。中国の人口ボーナス期は終わりかけていますが、インドはこれから人口ボーナス期に入るところです。