庶民の懐具合は東京五輪以前:貯蓄なし世帯急増 [BM時評]

 貯蓄なし世帯急増を伝える「金融資産を保有しない世帯が3割、単身世帯は4割−家計金融行動調査」(ブルームバーグ)は、庶民の懐具合が東京五輪(1964年)以前の状態に落ち込んだことを示しています。「2人以上の世帯で金融資産を保有していないという回答が28.6%と、前回10年の調査(22.3%)から大幅に増え、調査を開始した1963年以来最も高い水準となった」。相関するデータを検索すると、決定的なのは賃金水準の急速な低下です。

 まず「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](平成19年以降)」にある1963年からの長期推移をグラフにしてみました。これには近年、調査方法の手直しでデータ不連続がありトレンドとして見るように注が付いています。貯蓄がある世帯割合が調査開始の1983年を下回ったのは、前年比6.3ポイントも減らした2003年が最初でした。以後は一進一退を繰り返し、2011年に再び6.3ポイントと大きく落ち込みました。「毎月勤労統計調査 平成23年分結果確報」にある時系列表・賃金指数と時期を合わせてグラフを並べました。  現金給与総額を示す賃金指数は2005年を100としていて、1999年から2011年までで最高の2000年「105.6」から最低の2009年「95.1」まで「10.5」ポイントもの下落です。同じ期間について貯蓄のある世帯割合をみると、1999年「87.9%」が2011年「71.4%」へと「16.5」ポイント下げています。貯蓄のある世帯の中でも「貯蓄しなかった」と答えた割合が1990年代は2割程度だったのに、2007年以降は3割にもなっています。収入減少が貯蓄に大きく響いているのは間違いありません。

 過去を遡ると1964年に東京オリンピック、1968年には国民総生産(GNP)が第2位に上り詰めて、20世紀の間は貯蓄がある世帯が9割前後を維持してきました。しかし、この20年ほどで進んだ大企業も含めた合理化・給与カット、非正規労働者の大幅な増加などで、庶民の生活基盤は根底から揺さぶられているとみてよいでしょう。弱者に向けたセーフティネットを強化しないと、このところ頻発している、周囲が気付かない内の餓死事件がさらに増えそうです。

 【参照:別の観点から】『失われた20年』見直し機運、悪くない日本未来