最悪でなくも原発周辺住民を震撼さす放射能拡散 [BM時評]

 原子力規制委員会が24日に公表した、全国各地原発での炉心溶融事故放射能「拡散シミュレーションの試算結果」は、これまで杜撰な避難計画・訓練で真実を隠されてきた周辺住民を震撼させるものでした。ただし、この試算は最悪を想定していません。福島第一原発事故での放出放射能量に、各地原発の規模に応じた掛け算をしているだけです。福島事故では原子炉3基ともに原子炉格納容器の大破は免れています。2号機が小破して最大の放出をしました。もし大破が起きれば放出放射能量は格段に増えます。  上の地図のように、コシヒカリの最優良産地として知られる魚沼地方が、事故後1週間の内部・外部被ばくの積算線量100ミリシーベルトの範囲に入ってしまった柏崎刈羽原発周辺の衝撃が真っ先に挙げられます。原発から40キロも離れているのです。これまで同心円で10キロ圏、20キロ圏と区分けしてきた防災計画の無意味さが一気に露見しました。朝日新聞の《田んぼ持って逃げられぬ 新潟・魚沼も放射能拡散圏内》が《「田んぼは持って逃げられない。生活基盤が奪われる」。新潟県魚沼市のコメ農家の坂大貞次さん(64)は、柏崎刈羽原発の放射能拡散予測を厳しい表情で受け止めた》と伝える通りです。

 放射能の雲がどのように周辺地域を遠くまで襲うのか、福島原発事故で具体的な状況が分かっています。第319回「福島原発の放射能早期流出、防災計画に大影響」で福島原発事故2日目に、双葉町から南相馬市まで駆け抜けた様子をグラフと地図で掲示しています。放射能の強さはピークで毎時1590マイクロシーベルト、外部被曝だけで公衆の年間被曝限度1ミリシーベルトを40分ほどで浴びてしまう高線量です。しかも、これは1号機で格納容器の大破を免れるために圧力を逃がす「ベント」操作をした結果に過ぎません。雲は北上して3時間20分で25キロ離れた南相馬市に到達したと見られています。南相馬の人達は全く無警戒でした。

 「放射性物質の拡散シミュレーションの試算結果について」 はシミュレーションの限界について注記しています。「地形情報を考慮しておらず、気象条件についても放出地点におけるある一方向に継続的に拡散すると仮定している」「シミュレーションの結果は個別具体的な放射性物質の拡散予測を表しているのではなく、年間を通じた気象条件などを踏まえた総体としての拡散の傾向を表したものである」などです。

 もしも炉心溶融から格納容器破壊が起きて、通常とは違う風向きならば今回、示された地域以外の住民が大量の被曝をしてしまうのです。原子力規制委員会は防災計画の見直しを優先事項に掲げていますが、これほど広い地域の住民を放射能の雲が襲う前に迅速に避難させる力は現在の自治体にはありません。

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