第342回「大風呂敷に信頼が託しかねる原発新安全基準」

 福島原発事故を経て最大の課題、原発の新安全基準案が示されて国民の意見募集が始まり、ツイッターの動向を見てもほとんど話題にならない不思議さです。改善改良策を山盛りにしただけでは、心に響かないとみます。政府事故調と国会事故調では事故の見立てそのものが違い、今回の新安全基準骨子案では事故原因を特定して新安全基準を作る普通の手法が採られていません。「深層防護の考え方の徹底」をお題目に、金に糸目は付けない多層防護増設の大風呂敷が実態です。電力会社が悲鳴をあげるのはある意味で当然です。それでも安全万全と見えぬのは、形だけに囚われているからと考えます。

 安全設備は十分に備えてある――とは従来も同様の考え方でした。それが過酷事故、シビアアクシデントで働かなかった、いや、働かせる知恵が人間側に無かったことは「恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調報告」などにまとめました。新安全基準(シビアアクシデント対策)骨子案は運転員の訓練や体制整備も含んでいますが、あっさりと付け加えられた14ページの最終行「(k) 発電所外部からの支援体制を構築すること。」がキーポイントだと思えます。

 福島原発事故では東電本店からも政府からも適切な助言が無く、現場はひたすら巨大システム相手に模索する有り様でした。この外部支援には当然、原子力規制委員会が含まれているはずです。現在も大飯原発は稼働していますからシビアアクシデント発生があれば、新設の原子力規制委・原子力規制庁に期待が掛かるのに、実はまだ何の準備も無いと1月に告白しています。

 時事通信の「事故悪化想定の専門家養成=福島第1事故教訓に−原子力規制庁」は1月21日、事故調査委がまとめた提言への対応状況を確認する有識者会議での答弁として「経済産業省の旧原子力安全・保安院に状況が悪化するさまざまな可能性を想定し、対策を進言できる専門家がいなかったことから、原子力規制庁は、庁内の専門家チームと各原発を担当する検査官の訓練を通じ、能力を向上させる方針を示した」と伝えました。原発から逃げ出した検査官から訓練する――これは道遠しです。

 年初の「日経が伝えた原発の新安全基準原案は無理筋か」での指摘「事故調報告不備が招いた無理な屋上屋」は変わりません。緊急時の冷却系や注水系統の追加が、現施設の機能と干渉することなく出来るのかも不明です。何よりも全てを整備するのに工事の審査から始めて何年間も掛かります。設備工事の認可さえあれば、原発再稼働オーケーと伝えられ始めていますが、骨子案のどこを見ても猶予するとは書かれていません。原発新安全基準の是非を国民に問うのなら、猶予条件などを全て明白にするべきです。膨大すぎる新安全基準は運用の実態として、移動式の非常用電源などお手軽に増やして再稼働を認めることになりかねないのです。

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