第343回「中国大気汚染の絶望的な排出源構成と規制遅れ」
中国で発生している重篤スモッグについて表に出てきた排出源をまとめました。中国側の説明では問題の微粒子の3分の2は自動車排ガスと石炭燃焼からで、零細な対象を早期に抜本改善するのは不可能に見えます。さらにスモッグの有害さは微粒子だけに限らず、複合的な化学反応が示唆されているのですから、中国当局が手を打つとしても何が効果的か判断しかねるでしょう。そもそも経済成長優先で作り上げられた利害関係の枠組みは最高指導部と結びついており、権限が弱い環境行政の手に余ります。
国営新華社が伝えた《北京の大気汚染、自動車の排気ガスが最大の汚染源に―中国科学院調査》が第一の資料です。《中国科学院大気物理研究所の王躍思研究員によると、北京では、自動車が微小粒子状物質「PM2.5」の最大の発生源で、その比率は約4分の1。その次は石炭業と輸送業で、それぞれ5分の1を占める》《専門家は汚染物質の成分を分析し、「中国の中東部を覆った有害濃霧は、1952年代の英国の有害濃霧事件、1940〜50年代の米国光化学スモッグ事件での汚染物の混合体に、中国独特の黄砂による大気汚染が重なったもので、排出ガスと生態系破壊によって直接的に引き起こされた結果だ」と指摘した》
英国の有害濃霧とは平均0.3ppmもあった二酸化硫黄ガス(SO2)で4千人もが死亡した事件であり、さらに光化学スモッグに黄砂まで絡んでいると化学反応の役者が増えすぎです。日本の資源エネルギー庁の「エネルギー白書2006年版」から汚染物質発生メカニズムの図を引用、中国の状況を付加します。 硫黄分が多い石炭を主なエネルギー源にしている中国は、世界の石炭消費量の半分に迫っています。国家環境保護計画で2006年以降は脱硫装置による削減を進め、2011年には二酸化硫黄を2217万トンまで抑制したのですが、大気中の濃度は日本の10倍以上です。窒素酸化物排出量は2011年に2404万トンと削減どころか前年比5.73%も増やしました。自動車販売台数が増加著しく、2009年から年々5割増しペースで2000万台以上に達した背景もあります。中小が多い鉄鋼業の増産は窒素酸化物を大きく増やしました。これが光化学反応で微粒子になっていきます。 自動車の汚染物質排出では旧型車の排出が圧倒的です。「中国発:中国自動車汚染白書を読む」から排ガス基準別の排出量グラフを引用しました。「国Iは2000年、国IIは04年、国IIIは07年から全国で適用されている」「2009年、全国の保有自動車の国家排出基準適合状況は、国Iより前の排ガス基準適合車が1062.1万台で17.1%、国I排ガス基準適合車は1598.7万台で25.7%、国II排ガス基準適合車は1973.1万台で31.8%、国III及びそれ以上の排ガス基準適合車は1575.5万台で25.4%を占めた」となっていて、国I以前と国Iの計2600万台を廃棄できれば大改善になりますが、望むべくもないでしょう。北京ではさらに厳しい基準が2月1日から施行されたものの、新車に限った話で中古車の売買は自由です。
自動車燃料そのものも国際水準からかけ離れた劣悪さです。時事通信の《自動車燃料品質、先進国並みに=大気汚染の元凶批判受け―中国》が中国政府の決定を伝えました。《新規制「国5」は欧州排ガス規制「ユーロ5」に相当。硫黄含有量の上限を10ppmまで引き下げる。現在、中国の自動車燃料基準は、北京など一部大都市が硫黄含有量を50ppm以下に抑える「国4(ユーロ4)」を導入している以外は、同150ppmまで許容する「国3(ユーロ3)」の実施にとどまっている》《日欧より15倍も緩い自動車燃料の硫黄含有量規制が大気汚染の元凶だと指摘され、負担増を嫌い規制強化に抵抗する大手石油会社が批判を浴びている》ただし《2014年末を期限に、全国で「国4」を実施。「国5」については13年6月末までに一部地域で導入し、17年末までに全国一律で完全実施する》のですから当座の役には立たないでしょう。
一方、工場からの実際の汚染排出量が表向きの統計よりも多いのではないか、との疑惑は以前から存在します。国際的に名が知れた大手国有企業まで環境にお金を掛けるより、少額の罰金で済ませようとします。wsj.comの《【オピニオン】中国の大気汚染減らすには本物の透明性と罰則強化が不可欠》はこう指摘します。《中国で排出ガスに関するデータの報告を拒否した場合の法令に基づく罰則金の最高額はわずか5万元(約75万円)で、排出基準を上回った場合の罰則金も最高でこの2倍の10万元にとどまる》《工場がなぜ不正を行うかは容易に理解できる。すでに設置が義務付けられている排出ガス制御装置を使うよりも、基準を上回る排出量に対する罰則金を支払う方が安上がりなのだ》
【参照】「インターネットで読み解く!」
第336回「中国で突出の微小粒子汚染は環境汚染無視のツケ」
第337回「中国の重篤スモッグは経済成長に大ブレーキ」
第338回「中国の最悪大気汚染は韓国や日本へ飛来する」
『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない
第346回「『がん村』放置は必然、圧殺する中国の環境司法」
日本への中国重篤スモッグ流入ぶり連続アニメ
国営新華社が伝えた《北京の大気汚染、自動車の排気ガスが最大の汚染源に―中国科学院調査》が第一の資料です。《中国科学院大気物理研究所の王躍思研究員によると、北京では、自動車が微小粒子状物質「PM2.5」の最大の発生源で、その比率は約4分の1。その次は石炭業と輸送業で、それぞれ5分の1を占める》《専門家は汚染物質の成分を分析し、「中国の中東部を覆った有害濃霧は、1952年代の英国の有害濃霧事件、1940〜50年代の米国光化学スモッグ事件での汚染物の混合体に、中国独特の黄砂による大気汚染が重なったもので、排出ガスと生態系破壊によって直接的に引き起こされた結果だ」と指摘した》
英国の有害濃霧とは平均0.3ppmもあった二酸化硫黄ガス(SO2)で4千人もが死亡した事件であり、さらに光化学スモッグに黄砂まで絡んでいると化学反応の役者が増えすぎです。日本の資源エネルギー庁の「エネルギー白書2006年版」から汚染物質発生メカニズムの図を引用、中国の状況を付加します。 硫黄分が多い石炭を主なエネルギー源にしている中国は、世界の石炭消費量の半分に迫っています。国家環境保護計画で2006年以降は脱硫装置による削減を進め、2011年には二酸化硫黄を2217万トンまで抑制したのですが、大気中の濃度は日本の10倍以上です。窒素酸化物排出量は2011年に2404万トンと削減どころか前年比5.73%も増やしました。自動車販売台数が増加著しく、2009年から年々5割増しペースで2000万台以上に達した背景もあります。中小が多い鉄鋼業の増産は窒素酸化物を大きく増やしました。これが光化学反応で微粒子になっていきます。 自動車の汚染物質排出では旧型車の排出が圧倒的です。「中国発:中国自動車汚染白書を読む」から排ガス基準別の排出量グラフを引用しました。「国Iは2000年、国IIは04年、国IIIは07年から全国で適用されている」「2009年、全国の保有自動車の国家排出基準適合状況は、国Iより前の排ガス基準適合車が1062.1万台で17.1%、国I排ガス基準適合車は1598.7万台で25.7%、国II排ガス基準適合車は1973.1万台で31.8%、国III及びそれ以上の排ガス基準適合車は1575.5万台で25.4%を占めた」となっていて、国I以前と国Iの計2600万台を廃棄できれば大改善になりますが、望むべくもないでしょう。北京ではさらに厳しい基準が2月1日から施行されたものの、新車に限った話で中古車の売買は自由です。
自動車燃料そのものも国際水準からかけ離れた劣悪さです。時事通信の《自動車燃料品質、先進国並みに=大気汚染の元凶批判受け―中国》が中国政府の決定を伝えました。《新規制「国5」は欧州排ガス規制「ユーロ5」に相当。硫黄含有量の上限を10ppmまで引き下げる。現在、中国の自動車燃料基準は、北京など一部大都市が硫黄含有量を50ppm以下に抑える「国4(ユーロ4)」を導入している以外は、同150ppmまで許容する「国3(ユーロ3)」の実施にとどまっている》《日欧より15倍も緩い自動車燃料の硫黄含有量規制が大気汚染の元凶だと指摘され、負担増を嫌い規制強化に抵抗する大手石油会社が批判を浴びている》ただし《2014年末を期限に、全国で「国4」を実施。「国5」については13年6月末までに一部地域で導入し、17年末までに全国一律で完全実施する》のですから当座の役には立たないでしょう。
一方、工場からの実際の汚染排出量が表向きの統計よりも多いのではないか、との疑惑は以前から存在します。国際的に名が知れた大手国有企業まで環境にお金を掛けるより、少額の罰金で済ませようとします。wsj.comの《【オピニオン】中国の大気汚染減らすには本物の透明性と罰則強化が不可欠》はこう指摘します。《中国で排出ガスに関するデータの報告を拒否した場合の法令に基づく罰則金の最高額はわずか5万元(約75万円)で、排出基準を上回った場合の罰則金も最高でこの2倍の10万元にとどまる》《工場がなぜ不正を行うかは容易に理解できる。すでに設置が義務付けられている排出ガス制御装置を使うよりも、基準を上回る排出量に対する罰則金を支払う方が安上がりなのだ》
【参照】「インターネットで読み解く!」
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