第383回「不思議論議の法人減税、メディアの批判精神どこへ」

 消費増税と同時実施の法人税減税分の使い道を企業に公表させ、賃上げに回すよう促すとの朝日新聞1面記事は不思議に過ぎます。減税分を庶民に回すには複雑手順は不要です。消費税率上げ幅を下げれば済むだけです。自由に使えない減税分をもらう企業側も迷惑でしょう。大規模大衆増税に本来慎重であるべきマスメディアが政権と結託して増税をあおっている今回の成り行き。連立政権の一方、公明党代表まで法人税減税に疑問符をつけているのに、メディア本来の批判精神が働かないとは落ちるにもほどがあります。

 朝日新聞の《減税分の使途、企業に公表要請 政府方針、批判回避狙う》はこうです。《政府は、これから決める法人税減税の恩恵を受ける企業に対し、減税分の使い道を公表するよう要請する方針を固めた。政府は来春の消費増税と一緒に法人減税も行う方針だ。「消費増税したお金を企業優遇に回している」との批判をかわすため、減税分のお金を賃金に回すよう企業に促す狙いがある》

 70万社ものお金の使い方を誰がどうチェックして、さらにどのように公表するのか、と考えただけでも非現実的だと判断できます。何が何でも企業減税がしたい安倍政権だから、このような本末転倒、倒錯した議論が語られるのです。

 震災復興のための法人税率上乗せを1年早く打ち切ることで法人減税への道筋がついて、日経、朝日と8%への増税が確定したかの報道が続いています。日経は編集委員に《「個人には消費増税を課し、企業には法人減税を施すのは不公平だ」と批判してばかりもいられない。企業の負担軽減は個人のためでもあることを忘れてはならない》とまで言わせています。

 しかし、公明党の山口那津男代表はウォールストリートジャーナルの《法人税率引き下げに慎重―山口公明代表インタビュー》で「(消費増税の実施で)広く国民に負担を求めるわけだ。同じタイミングで法人税の実効税率を下げるとか、あるいは復興増税を前倒しでやめるとか、法人の負担を軽くするということになると、結局は国民一般の負担で法人を優遇するというふうに理解されかねない」と指摘しました。

 連立政権を担う片方の党がここまで異議を唱え、「公明党軽視」と不快感を表明しているのに、既成事実のように主要メディアが伝えるのも異常です。日本のメディアの習性として官僚からリークを貰って事態を進展させる取材手法が行き過ぎた例でしょう。「それは世間一般からは認めがたいですよ」と投げ返すべきなのです。昨年7月の『余る税金。増税への疑問が言えぬ大手メディア』で復興増税が必要だったか、疑問を投げました。個人増税分は引き続いて払わせて、法人分だけ前倒しで止めるとの今回合意を見て、メディアが疑問を提起しないのが不可解でなりません。

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