第386回「前のめる原発再稼働:新規制基準なら万全と錯覚」

 原子力規制委が実施している新しい「原発安全審査」規制基準へ適合すれば万全との錯覚が広まっているように見えます。政府から年明け再稼働の希望が出るほどですが、有事避難の防災計画完備のサイトはまだ無いはず。甚だしいのは内閣府経済再生・防災担当の西村康稔副大臣で、3日にTBSの番組録画で安全審査と地元の理解を前提にしながらも「早ければ年明けに何基か動きだすことを期待したい」と述べています。そんな楽観が出来るほど防災計画を仕上げたとは聞きません。30キロ圏から外への避難が計画されているので、県外避難があちこちで必至です。各県の間を調整するのはもちろん政府です。福島原発事故の避難で起きた悲劇を忘れて、新規制基準を通れば過酷事故は起きないと誤解されては規制委も心外でしょう。

 1年前に日経新聞《防災計画なければ「原発再稼働は困難」 規制委員長》で《田中俊一委員長は24日の記者会見で、原子力発電所の周辺自治体がつくる地域防災計画について「再稼働の条件ではないが、(つくってもらわないと)再稼働はなかなか困難になる」との見解を明らかにした》はずでした。しかし、実際には安全審査は原子炉等規制法に基づくもの。地域防災計画は原子力災害対策法が仕切っており内閣府が所管ですから、この1年間で規制委の防災計画への言及トーンが下がってきていました。

 福島原発事故の避難で重病の患者まで十分なケアシステム無しに遠くに運ばれて病状が悪化、多くの死者を出しました。この失敗から避難区内であっても病院に放射線防護を備えたシェルターが造られるといいますが、看護スタッフの保護・物資補給を含めて本当に機能するのか疑問です。取り残された南相馬市役所の例が示すように、必要な医療・生活物資が運ばれてこなければシェルターに閉じこもっても難渋することになります。

 柏崎刈羽原発の30キロ圏、長岡市は25万人を避難させなくてはなりません。同市内のバスでは5%しか運べません。もし新潟県内の他市町村からもバスが応援に向かうならば、地理不案内の運転手と膨大な避難住民をうまく結びつけるだけでも気が遠くなるほどの準備が要ります。これまでの形式だけだった避難訓練ではなく、緻密で大規模な訓練をしてみないと防災計画の実効性は検証出来ないでしょう。30キロ圏で全国135自治体480万人が対象の過去に例がない大規模体制づくりの要に居る防災担当副大臣が、脳天気に年初から再稼働を口にしているのでは話になりません。

 即時避難は5キロ圏だけで、30キロ圏は避難準備区域と振り分けられていますが、福島原発事故では新たな事実が判明し、大地震・津波の翌日に25キロの地点まで高いレベルの放射能の雲が流れ出ました。この問題を第319回「福島原発の放射能早期流出、防災計画に大影響」で取り上げています。もし過酷事故が起きた際には早期に避難するしか無い――防災計画の作成を真剣に考えるなら本来ここから出発すべきです。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー