第400回「了解しかねる対中ODA継続、NGO支援に限定を」

 人民日報日本語版で対中ODAをめぐる不思議な扱い――日本語版で伝えても中国語ではニュースにしない――を見た年の暮です。考えるに中国政府がするべき民生案件は即時中止し環境NGOなどへの支援に限定すべきです。尖閣諸島での中国のゴリ押しを横目に見て国民から無償援助継続に理解が得られるとは思えませんし、中国自身がアフリカの民生支援を大規模に推し進めているのに、日本が中国貧困地域の民生支援をする必要はないはず。3月に書いた第349回「中国になお無償援助、国内報道しない人民日報」をフォローしてデータを集めてみました。

 外務省は表向きは「2.中国に対する現在の我が国ODA概況」で「中国は経済的に発展し、技術的な水準も向上しており、ODAによる中国への支援は既に一定の役割を果たした。このような状況を踏まえ見直しを行った結果、純粋な交流事業は ODA による実施を終了し、草の根レベルの相互理解の促進や、両国が直面する共通の課題への取組(例えば、我が国への越境公害、黄砂、感染症といった問題の対策や、進出企業の予見可能性を高める制度・基準づくり)といった、限定され、かつ我が国にとっても利益となる分野に絞り込んでいる」と説明しています。

 しかし、北京の日本大使館ウェブで「対中経済協力ニュース」の一覧を見る限り、公衆衛生計画は上水道を引く事業だし、医療環境改善は診療所の設置、そして圧倒的に多いのが小学校の校舎建築や改修です。本当の問題意識があるNGO支援は僅かです。

 2013年だけで29件の事業イベントが並びますが、人民日報は検索で調べる限りほとんど報道しません。今年珍しく地方紙から転載で報じた中国語ニュースの1件、4月、タイトル仮訳で「日本の草の根無償援助が信宜市に」は広東省信宜市の小学校改修(1千万円規模)の調印式についてでした。この学校改修は大使館のイベント表にはありませんから来年完成したら出すのでしょう。中国の地方政府がすべき事業・施策の肩代わりをこれからも延々と続ける腹のようです。大使館の応募規定が示唆している、施設が出来上がったら銘板に「中日友好」の文字が入っていればオーケーでは、日本の納税者として到底、納得できません。

 3月のエントリーで吟味した結果、人民日報日本語版は政治的な意図を持って作成されており、日本語版にある記事が中国語版にあるとは限らないと分かっています。そのひとつが8月の「日本車の命運は中日関係次第」です。「国際商報・汽車周刊」編集長の署名で、《戦争賠償については、41年前に中国側が請求権の放棄を宣言したものの、多くの中国人にとっては釈然としないわだかまりとなっている。実は日本側は長年にわたり「対中政府開発援助(ODA)」を通じて、形を変えて戦争賠償を行なってきた。このうち3兆2000億円規模の円借款は30年の超長期、金利3%以下の優遇借款であり、中国側のある専門家は「インフラなどの要因を総合的に考慮すると、円借款は約57%が実質的贈与にあたる」と試算する。このほか、1472億円規模の対中無償援助と1505億円規模の技術援助もある。こうした援助は1980年代、90年代に中国が受けた外国からの援助総額の半分近くを占め、中国経済のテイクオフに軽視できない役割を果たした》とここまでは珍しく正論です。なお、この記事、中国語版には発見できません。

 ところが、議論を持っていく先が《だが中国の民間人でこうした事を知っている人は、今にいたるもまれだ。そのうえデータにも食い違いがあり、戦争賠償との関係も曖昧だ。したがって双方は整理し、しっかりと計算し、日本側が事実上一体どれほど「賠償」したのか、まだどれほど「借りがある」のか、あとどれほど「賠償」すべきなのかを確認して、戦争賠償問題を清算し、民間に説明すべきだ》なのです。戦争賠償の総額を双方納得して確定する作業は、南京大虐殺の被害者数が時を経るほど膨張し続けている1件を見てもまず不可能です。この記事は日本への「揺さぶり」と考えるべきでしょう。

 対中援助については《「対中援助は必要か」「国民が驚愕」=月面着陸成功で経済援助に疑問の声―英紙》のように英国でも疑問視されています。英国側でも「気候変動や経済成長といった世界的な問題で非政府組織と連携することは正しい」との姿勢です。例えば第346回「『がん村』放置は必然、圧殺する中国の環境司法」で描いているように、未発達な中国の法制と恣意的な実務の間で苦労しているNGOがあれば助けてあげる価値はあります。しかし、外交官の自己満足で貧困地区を支援するのはもう止めましょう。対中ODAは2011年度までの累計で円借款3兆3164億円、無償資金協力1566億円、技術協力1772億円にのぼっています。今後、例えば重篤スモッグで大気汚染改善の技術協力をするとしても、広く中国国内にアナウンスされないなら乗るべきではありません。