第415回「留学の大変動、中国と韓国の壮絶な就職難から」

 日本の米国留学が減る傾向から若者が内向き志向と言われますが、近年の留学先大変動を起こしているのは中国と韓国の壮絶な就職難でした。各国最新データがそろう2011年と2007年を比較して判明です。21世紀に入ってからの留学の大波は大規模な頭脳移動に見えたものです。留学先がOECD諸国に限った集計では2000年の158万人が2011年に331万人にもなりました。しかし、留学先国で満足がいく就職をして残れるのは限られた層であり、大膨張の先頭に立っていた中国は今、留学生帰国ラッシュと国内大学の乱造による学卒者の氾濫に直面しています。

 2009年の第190回「留学による大移動は新段階、中韓米日で見る」で整備しておいた2007年の中韓米日4カ国データを基盤にして、2011年の状況を見るグラフ「2007→2011各国留学先の変動」を作りました。人数はその年の新たな留学者数です。2011年は欧州代表のドイツを加えて5カ国にしました。OECD統計「Education at a Glance 2013」に加えて、OECDから漏れている中国の留学生受け入れ統計を合わせています。  日中韓3カ国の中で一番目立つのは中国からの米国留学が突出して増えた点です。10万人が18万人に膨れ上がりました。韓国も8千人ほど増やし7万人なのに、日本は1万5千人も減らし2万人です。日本の留学は米国以外は横ばいか増える傾向ですから、特に米国で減ったのは中韓の激増に押し出されたとも見えます。絶対数では中国が目立ちますが、人口が日本の半分もない韓国から日本の3倍半の米国留学を出すのは尋常ではありません。日中の対比は9倍ながら人口比の10倍と釣り合っています。中国からの米国留学では成績証明や提出論文の偽造など不祥事が米国メディアからよく聞こえてきます。ドイツから米国へは1万人弱と控え目ですが、英語圏の英国に2万人以上送り出しています。

 中国は留学受け入れでも2007年の19万人が2011年に29万人、さらに50万人を目指すと宣言しています。米国から中国への留学は棒グラフの間で見えにくいですが、8千人増えて23292人になっています。2位米国をはさむ韓国62442人、日本17961人はほぼ横ばいです。2013年には日本が3位の座をタイに奪われたと伝えられたように、中国は途上国からも幅広く受け入れています。一方、受け入れ規模が小さく8割近くが中国からと特異な韓国は留学の魅力が薄い国であると見て取れます。日本も中韓を合わせると8割になり、韓国の2倍半大きな受け入れ数15万ながら考えねばなりません。

 中国の海外留学は2000年が4万人だったのに、2007年15万人、2011年35万人、2012年40万人と急伸し続け、2013年にやっと41万人と微増に止まって激増期は終わった気配です。留学帰国組はかつては厳しい就職戦線で優位に立てたのに、その状況は霧散しました。《大卒予定者727万人、中国は史上空前の就職難〜かつて重宝がられた海外留学帰国組は今や見る影なし》が大学乱造と留学事情をリポートしています。

 《1997年7月にタイから始まったアジア通貨危機による経済不況に刺激を与えようと、中国政府は1999年に高等教育システムの拡大を決定し、大学の入学枠を大幅に増大した。この結果、1999年には85万人に過ぎなかった大学卒業生は、2003年には212万人となり、2005年:338万人、2006年:413万人、2008年:559万人、2009年:610万人、2012年:680万人と年々増大し、2013年には699万人となった。そして、今年はついに700万人の大台を突破して727万人となると予定されている》

 《海外各国の留学生に対する大学卒業後の在留条件が厳しくなり、大量の海帰族が中国へ帰国するようになった。一方では中国経済の低迷により従来通りの高成長が維持できなくなったことで、海帰族の就職環境は一変した。その結果、かつての名誉ある“海帰族”はたちまちのうちに“海待族(就職できない海外帰国組)”になり果てたのである》。人民日報は2013年の留学帰国者は前年比8万人増の35万3500人と報じました。

 韓国でも留学者数は2003年の16万人が2010年に25万人に拡大しました。サムスンとヒュンダイグループしか世界で稼げる企業が存在しない国情では、国内に留まっては就職先の選択幅は極めて狭いのです。サムスンへの受験者は年間20万人に上ると言いますから、悲劇的と見るか喜劇的と笑うかです。ただ、英語教育で日本の先を行っているのは間違いなく、米国留学には大きな力になるはずです。

 2010年の第228回「若者が目指す国、捨てる国〜世界総覧を作成」にギャラップ調査による若者移住指標ランキングを収録しました。世界148カ国の若者に移住したい国を聞き、それが実現したら人口がどう増減するかのランクです。韓国はOECD諸国にしては珍しいマイナス側の国でマイナス4%、中国もマイナス10%なのでした。留学志向がこれほど強烈である背景が見えます。ちなみに日米独はプラス側の国です。