第431回「STAP細胞が『世界3大研究不正』とされた衝撃」

 STAP細胞論文疑惑の取り扱いに転機が来ました。『世界3大研究不正』との認識が改革委員から示されてみると、「ふとした過ち」のニュアンスではなく「故意捏造」として全体像を世界に提供せざるを得ないからです。「研究不正再発防止のための改革委員会」が出した理研の組織改革への提言書は非常に厳しい内容です。これまでは「割烹着」小保方さんのキャラクターからか、何かの間違いが積み重なった感覚が抜け切れませんでした。理研の調査も一部の間違いを確定してネイチャー論文撤回で止まっています。それでは説明責任が果たせていない状況と認識すべきです。

 日経メディカルの《ドイツ人物理学者、韓国人生物学者の研究不正に並び…STAP論文を「世界三大研究不正」の1つに認定》は改革委記者会見をこう伝えています。

 《委員長を務める新構造材料技術研究組合理事長の岸輝雄氏が、「世界の三大研究不正に認定されたと、海外の友人から聞いた」と話し、科学界で重大な問題と受け止められていることについて、危機感を口にした。委員の1人で研究倫理を専門とする信州大教授の市川家國氏も、「実際にSTAP問題は、Schon氏、黄氏と並ぶ研究不正と考えられている」と指摘。加えて、画像の加工や使い回しなど、「不正の種類が多様であり、かつ、それに対する組織の対応にも問題があったという意味で、最も深刻な研究不正になるのではないか」との考えを述べた》

 ヤン・ヘンドリック・シェーン氏の場合、高温超電導など2000年からの画期的論文でセンセーションを巻き起こし、数々の受賞をした挙句に、データの捏造・使い回しが判明して大量の論文が撤回されました。米ベル研とスイスの大学を兼任、同僚が実験設備を確かめたいと申し入れても「こちらには無い」ですり抜けました。黄禹錫氏のヒトES細胞論文は2004年、ヒト体細胞由来のクローン胚から胚性幹細胞(ES細胞)を作ったとし、霊長類でも成功していないのにと世界を驚かせました。クローン牛なども発表されましたが、調査の結果はいずれも捏造でした。

 「研究不正再発防止のための提言書」はSTAP細胞論文の作成過程での組織的ズサンさを指摘します。発生・再生科学総合研究センターは急遽採用した小保方さんが「研究者としてのトレーニングが不足」「STAP細胞の研究内容や意見の重要さに比して論文を完成させる経験が不足」と認識していました。笹井グループディレクター、丹羽プロジェクトリーダーを小保方氏の助言担当に指名し「STAP研究の成果を記した論文がNature誌に採択されるよう、論文の作成指導を笹井氏に依頼した」。笹井氏は論文共著者であることに加え助言担当でもあったから「データの慎重なチェックを行うことがむしろ通常であり、かつそうすべき職責を負っていたというべきであった」。小保方さんに自分のところに研究ノートを持って来させるような「『ぶしつけな依頼をすることが難しい』としてその職責を回避できるような問題ではなかったというべきである」

 理研の規定では研究ノートも実験データも理研の所有であり、作成や保存手法も所属長が指導するとされていましたが、同センターではないがしろにされていました。

 第421回「理研調査も科学にあるまじき杜撰:小保方釈明を聞く」でも心配した調査の不十分に加えて、構造的ないい加減さが存在する点は間違いありません。理研で進められているSTAP細胞の確認実験も中途半端なものになっていると指摘があります。何らかの科学的な発見があったのか無かったのかはっきりさせ、論文捏造過程など全体像を解明して世界に説明しなければなりません。