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第432回「STAP細胞疑惑=小保方ファンタジーの闇を推理する」 (2014/06/19)

(「Blog vs. Media 時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 STAP細胞疑惑の点と線が繋がりつつあり、発見全体が小保方氏の脳内妄想による虚構だった疑いが濃厚です。実験による実証科学の作法を知らない初心者の発想が、輸入学問の伝統で崇められてしまった日本的悲劇です。「ハーバードで敏腕」と伝え聞いただけで「実験ノートを見せろ」と言えなくなる国内有数の研究者たち。小保方氏の研究者としての危うさは博士論文段階でも察知できたのに、漫然と通した早稲田大の審査。「こうであったら」とのファンタジーが実証科学論文になる危険が今後も再発する可能性はあると言わざるを得ません。

 1月末のSTAP細胞発表の報道を見て、長年にわたり科学記者をした者として猛烈に違和感を感じたのは先行研究に全く触れていなかった点です。実験による実証科学では「先行研究群という巨人の肩」に乗って初めて未知の地平が拡大するものです。一人だけで、ある日突然、巨人になることなど無いのです。

 この分野のメイン学会である分子生物学会の理事長、東北大の大隅典子教授が《続・小保方会見で解明されなかった問題は何か〜研究の文脈に注目せよ》でこう指摘しています。

 《オリジナルのiPS細胞のような遺伝子導入を用いない方法については、この他にもある種の低分子化合物を加える方法、細菌を用いる方法などもあるので、STAPだけが素晴らしい、夢のような方法、という訳でもありません。このあたり、他の方法で多能性幹細胞を誘導している日本人研究者も表立って声を挙げていませんが、仮にSTAPが本当だったとしても「酸処理でうまくいくなら、とても簡便な新しい誘導方法の一つですね」という扱いのように思います》

 STAP細胞発表の当事者にはこうした周辺の研究事情が認識されていなかったのです。「先行研究群という巨人の肩」のどこに乗るかで研究の行方は大きく左右されます。その意味で先行研究の探索は単なる文献検索ではなく中身の吟味が必要であり、大きな意味を持ちます。ところが、小保方氏の博士論文では「小保方晴子の博士論文の疑惑まとめ」の指摘のように、バックグラウンド部分の大半が盗用でした。先行研究への本来持つべき敬意が小保方氏には欠けていました。

 小保方氏は2年間のハーバード留学の間、バカンティ教授の下で細胞をごく細い管に通して含まれているかもしれない多機能細胞を選別する実験をしているうちに、管を通すストレスが細胞を機能分化する前の状態にリフレッシュされるとの着想を得たようです。さらに、弱い酸処理でも同様になると考えるようになりました。バカンティ教授を細胞の「選別派」からiPS細胞のような「誘導派」に変えたのでしょう。バカンティ教授にも新たな展開になり、畑違いによる先行研究の探索不足が起きたと考えられます。

 秘密裏に小保方氏の囲い込みを図った理研の上司、笹井氏は第431回「STAP細胞が『世界3大研究不正』とされた衝撃」で描いたように、実験ノートを持ってくように言う「ぶしつけな依頼をすることが難しい」状況を非難されています。2013年春以前の所属長だった若山教授も《「実験ノート一度も見たことない」若山教授会見3》で《言い訳になるかも知れませんが、早稲田大を出ている研究者で、ハーバードのバカンティ先生の右腕だと言われているぐらい優秀な研究者という触れ込みで紹介されて引き受けた研究員。大学の4年生に言うように、「実験ノートを見せなさい」なんて言うようなことはできませんでした》と言っています。

 かつて東大は3カ月遅れで世界の研究潮流を国内に導入するのが使命の一つと言われたのを思い出しました。ハーバードという名前が出るだけで、輸入学問の伝統、負い目からはそう簡単に抜け出せないようです。

 決定的な捏造に至らせたのは、小保方氏の「ポエム」とも言われた実験ノートの貧弱さでしょう。根本である日付を含めて必要事項が残されていない実験ノートでは、膨大になる実験データの統制は不可能です。論文疑惑が明らかになったあとで論文画像の差し替えを申し出ていますが、それが適切な画像かどうか、もはや判断できないと言われます。

 サイエンス誌への論文投稿がデータの不整合で却下されたのに、却下の本質的な意味を考えるよりもネイチャー誌に載せようと必死でした。この状況では「こうあって欲しい」との脳内妄想で、現実の実験データの方を取捨選択する、過去の博士論文を含む異なる実験系列から持ち込んで整合させるように進んで不思議ではありません。なぜなら当人ですら、どの実験データか確実に分類できていないようだからです。実証科学にして、本当ならば恐るべき研究実態です。実験ノートの記入法を教えなかった教員の罪は重いと考えます。

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