第433回「理系の中国ウオッチャー、メディアは急ぎ育てよ」
マスメディアで中国経済の動向には破綻懸念もあって目配りする記者は多いが、深刻化する環境汚染や無謀にも見える急拡大の原発増設などを的確に監視できる理系ウオッチャーも大至急で育てるべきだと提言します。メディアを監督・指導する「国家新聞出版ラジオ映画テレビ総局」が18日に中国の新聞やテレビ局などの記者が、所属する報道機関の同意を得ずに当局に批判的な報道をすることや、独自にウェブを立ち上げて批判することも禁じる通達を出したと伝えられました。これまで以上に中国メディアからのクリティカルな情報は貧弱にならざるを得ません。昨年から今年に掛けての大気汚染・重篤スモッグ問題で国内メディアの感度は悪く、日本へ微粒子PM2.5が越境して初めて騒ぎ出した観がありました。経済以外にも一衣帯水の位置にある中国から目が離せなくなっているのです。
今回の通達以前に既に中国メディアの情報が劣化していると感じた例があります。国営新華社が配信した記事《世界初の「第三世代加圧水型原発」が来年にも稼働―中国》です。《中国だけでなく世界にとっても初めてとなる第三世代加圧水型原子炉AP1000型「浙江三門原発一号機」が2015年末にも稼働する。5月29日、新華網が伝えた。国家核電技術公司の王炳華董事長は「浙江三門や山東海陽など4基の第三世代自主プロジェクトAP1000は順調に建設が進んでいる。三門1号機は来年末、海陽1号機は2016年初めに稼働する予定だ」と述べた》
別の中国語ソースが伝える真相はメインポンプ設計に問題が発生して1年半も運転開始が遅れるのです。当初は今年半ばにも運転開始予定でしたから、順調には進んでいません。おまけにこの日本語版記事に添えられた原発の写真は第三世代炉AP1000型ではなく、CPR1000型と呼ぶ改良型第二世代炉です。国営通信社のレベルが暴露されており、専門知識や時系列情報を把握した、まともな記者・編集者がいないと判断できます。運転開始が遅れると伝えられる前の事情は第419回「新型炉ばかりの中国原発、安全確保に大きな不安」にまとめてあります。
大気、水、土壌と環境汚染は深刻ですが、PM2.5スモッグ越境以外は日本に関係ないと思われていました。心配な中国産農産物は店頭で選ばなければ済みます。ところが、小児血管の病気「川崎病」の原因物質が中国北東部の穀倉地帯から来る風に運ばれるとの推定が5月に国際研究チームから公表されました。中国側は「言いがかりだ」との態度ですが、第428回「川崎病の流行ピークと中国農業改革の節目が一致」で関係を疑わざるを得ないと指摘しました。体内に侵入した毒素が子どもの心臓血管に奇形を作り、血栓が出来やすくなって死に至ることもしばしばあります。この未発見毒素の挙動がPM2.5と似ている面があります。PM2.5の拡大写真は実に様々な像が示されており、どれかが該当するのかも知れません。
中国の海洋進出や外交での大国主義はますます強面になっています。自国の主張を通して、他者の意見など聞く耳を持たない中国の最大の弱点は環境問題です。環境問題は石炭消費が世界の半分など資源とエネルギーの無茶苦茶な浪費で経済を拡大してきたツケですから、経済発展を制限する要因になります。第412回「中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真」に800キロの辺を持つ三角形を埋め尽くしたスモッグの写真が掲げてあります。小手先の対策が効かない深刻さを、日本メディア発で厳しく問うていくべきです。もう中国メディアからの情報横流しでは環境問題は斬れません。英語メディアや業界情報にも目が利く専門知識を備えたウオッチャーを配置して、中国現地で手に入る情報を分析できる態勢を整えて欲しいものです。
【参照】「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」[BM時評]
今回の通達以前に既に中国メディアの情報が劣化していると感じた例があります。国営新華社が配信した記事《世界初の「第三世代加圧水型原発」が来年にも稼働―中国》です。《中国だけでなく世界にとっても初めてとなる第三世代加圧水型原子炉AP1000型「浙江三門原発一号機」が2015年末にも稼働する。5月29日、新華網が伝えた。国家核電技術公司の王炳華董事長は「浙江三門や山東海陽など4基の第三世代自主プロジェクトAP1000は順調に建設が進んでいる。三門1号機は来年末、海陽1号機は2016年初めに稼働する予定だ」と述べた》
別の中国語ソースが伝える真相はメインポンプ設計に問題が発生して1年半も運転開始が遅れるのです。当初は今年半ばにも運転開始予定でしたから、順調には進んでいません。おまけにこの日本語版記事に添えられた原発の写真は第三世代炉AP1000型ではなく、CPR1000型と呼ぶ改良型第二世代炉です。国営通信社のレベルが暴露されており、専門知識や時系列情報を把握した、まともな記者・編集者がいないと判断できます。運転開始が遅れると伝えられる前の事情は第419回「新型炉ばかりの中国原発、安全確保に大きな不安」にまとめてあります。
大気、水、土壌と環境汚染は深刻ですが、PM2.5スモッグ越境以外は日本に関係ないと思われていました。心配な中国産農産物は店頭で選ばなければ済みます。ところが、小児血管の病気「川崎病」の原因物質が中国北東部の穀倉地帯から来る風に運ばれるとの推定が5月に国際研究チームから公表されました。中国側は「言いがかりだ」との態度ですが、第428回「川崎病の流行ピークと中国農業改革の節目が一致」で関係を疑わざるを得ないと指摘しました。体内に侵入した毒素が子どもの心臓血管に奇形を作り、血栓が出来やすくなって死に至ることもしばしばあります。この未発見毒素の挙動がPM2.5と似ている面があります。PM2.5の拡大写真は実に様々な像が示されており、どれかが該当するのかも知れません。
中国の海洋進出や外交での大国主義はますます強面になっています。自国の主張を通して、他者の意見など聞く耳を持たない中国の最大の弱点は環境問題です。環境問題は石炭消費が世界の半分など資源とエネルギーの無茶苦茶な浪費で経済を拡大してきたツケですから、経済発展を制限する要因になります。第412回「中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真」に800キロの辺を持つ三角形を埋め尽くしたスモッグの写真が掲げてあります。小手先の対策が効かない深刻さを、日本メディア発で厳しく問うていくべきです。もう中国メディアからの情報横流しでは環境問題は斬れません。英語メディアや業界情報にも目が利く専門知識を備えたウオッチャーを配置して、中国現地で手に入る情報を分析できる態勢を整えて欲しいものです。
【参照】「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」[BM時評]