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第436回「忘れられる権利の判断、グーグル任せは大問題」 (2014/07/08)

(「Blog vs. Media 時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 欧州司法裁判所が認めた「忘れられる権利」によるグーグル検索結果からの削除要請が早くも波乱を呼んでいます。削除を通知されたメディアからの公表で、忘れられるどころか世界的に有名になってしまう珍事続発です。不本意な仕事を押しつけられたグーグルによる「しっぺ返し」との見方もありますが、データ収集だけをしてきた検索エンジンの会社に、削除の判断を丸投げした裁判所が無謀だったのです。取材して記事にしたメディアなら、記事の公益性とプライバシーの重さを秤に掛けられます。元の記事削除を命じないで、グーグル検索結果のリストから削除させる安易な裁判所判断は、検索エンジンが持つ現代社会の反映機能をも損なってしまいます。

 グーグルに寄せられた削除要請は7万件、さらに毎日千件のペースで増えているそうです。グーグルが実際に削除を始めた6月末から事態が動き出しました。《[FT]どこまで「忘れる」べきか グーグルの難題》は《今までは、スコットランド・プレミアリーグのダンディー・ユナイテッド対セルティック戦でレフェリーのダギー・マクドナルド氏がペナルティーキックを与えた理由について嘘をついたことを覚えていたのは、ごく少数のスコットランドのサッカーファンだけだった。だが、マクドナルド氏は3日、「忘れられる権利」に関する新しい欧州の規則を利用する最初の人たちの1人になった後、図らずも世界的な注目を集めてしまった》と伝えました。

 《グーグルは会社方針に従って、記事へのリンクをやめたことをガーディアンとメールオンラインに通知した。両媒体は当然ながら、数十万人に上る読者にこの事実を公表した。事態はさらに発展した。ガーディアンが問題の記事は公共の利益にかなうと主張してリンク削除について公に苦情を申し入れた後、グーグルが3日夜にガーディアンの記事へのリンクを元に戻したのだ》

 この事例だけでもグーグル任せは大問題と考えられます。メディアとして活動した経験がない会社にニュースの中身の吟味を委ねているのです。

 「忘れられる権利(the right to be forgotten)」の判決はスペインの男性が以前に自宅を競売に掛けられた事実があり、現在は問題なく生活しているのにグーグル検索では筆頭に出るのが不都合というものでした。今や「分からないことがあればグーグルに聞く」のが常識になりました。便利な半面で、一度検索エンジンがリスト化した情報はずっと残り、個人の不祥事情報が生涯ついて回ることになりかねません。私も「消す方策がないか」と個人的に相談を受けたことがありますが、これまでは処置無しでした。

 困っている人が存在するのは事実です。しかし、5月末に《ヨーロッパ人の検索結果削除リクエストのためにGoogleが入力フォームページを立ちあげ》がこう報じました。《今月初めには、司法裁判所の裁定に続いて、Googleには検索コンテンツの削除リクエストがいくつか寄せられていることが明らかになった。ただしそこに挙げられていた例は、古典的な三大醜聞ネタともいうべき、再選を目指す元政治家がオフィスにおけるお行儀の悪い行為を報じた記事のリンクの削除を求める; 医師が患者からのネガティブなリビューの消去を求める; 有罪となった児童性愛者が児童虐待写真を保有していたとする判決文の取り下げを求める、といったものだった》

 グーグルは削除の判断基準を明かしていません。もしかしたら要請全てに応じるかも知れません。このような削除要請が大幅に認められていくと、現代社会を映す鏡のような存在になった検索エンジンの性格を歪める恐れが大きくなります。ロボットが自動的に収集してきたデータの全体像を検索を通して見ている現状と違い、何かの恣意的フィルターが掛かった世界像が見せられることになります。フィルターがどんなものか、我々は知らされていません。報道の自由、表現の自由にとっても問題は大きいと考えられます。

 【参照】『グーグル検索独占に新聞が反撃するのは困難』
     『大英図書館の300年新聞データベースを使ってみる』――こういう利用例があるので安易に過去のニュースに手を加える愚も控えるべきかも。

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