第457回「毛沢東提唱の巨大送水事業、完成もママコ扱い」

 建国の父、毛沢東が言い出した巨大送水事業「南水北調」の中央ルートが完成し12日に北京に向け送水を始めたのにママコ扱いです。全長1400キロの水路を通った水が使い物になるか、根本的な不安があるからでしょう。中国政府による式典もなければ、メディアも淡々と報じるだけ。昨年完成の東ルートの水は受け入れの天津市から飲用には出来ないと判断されています。実は確実に飲用になる海水淡水化プロジェクトが進行中で、渤海から270キロの送水が2019年には出来るかもしれないと人民日報が伝えています。既存の湖や運河を結んだ東ルートと違い、工費4兆円がかかり住民33万人の移転を強いた中央ルート完成を祝賀できない事情に同情します。  中央ルートは長江の支流、漢江の丹江口ダムから北京まで1246キロを標高差100メートルを利用して自然流下させます。水路の傾斜はとても小さいので水が北京まで到着するのに15日かかるといいます。12日に送水し始めて年末に届く見込みです。水源の丹江口ダムの水質は公式には改善されたとなっていますが、まだ水処理不十分の生活廃水が流れ込んでいるとメディアは伝えています。長江下流から取水して何段もポンプアップしていく東ルートは工業地帯がある湖などを通るので条件は更に悪くなります。

 AFP=時事の《中国の水資源移動、地方軽視の中央政治》は住民からこのように取材しています。《国営メディアによると、中央ルートの建設で少なくとも河南省と湖北省の33万人が移転を余儀なくされた。このうち大半は職にも就けない状況で、雨漏りのする粗末な家に住み、補償を受け取ったという人はほとんどいない。ジア・シンロンさんたちが別の集落に移ったのは今から3年前。何世代にもわたって使われてきた家具や農具を村中で大型トラックに積み込んだ。「新天地」は300キロ以上離れた平原の中に同じ形の家がいくつも並ぶ移民用の集落だった。見た途端に泣き出す人もいたという》

 動き出したら住民の状況など顧みない中央集権政治の犠牲者だと、米国の研究者たちが指摘しています。考えるべきだった海水淡水化のオプションは最近になって現れました。

 海水淡水化プロジェクトは4月に人民日報の《北京に供給される海水 蛇口をひねるだけで飲める》が報じました。《北京の住民の水道料金は現在1トン当たり4元だ。王氏は北京への淡水供給についても、1トン約8元に抑えられると計算した。北京への淡水供給プロジェクトは、淡水化プラントと送水管の二つに分かれる。淡水化プラント1期の規模は日産100万トンに達し、総工費は70億元となる。海水淡水化費用は、1トン当たり約4.5元となる。また曹妃甸と北京を結ぶ全長270キロの水道管の総工費は100億元に達し、送水費用は1トン当たり2.5〜3.5元に達する》

 日産100万トンで北京の水使用量の10%に相当し、南水北調中央ルートの水より安いかもしれません。少なくとも追加の水処理が必要無い、きれいな水が雨季や乾季に関係なく確実に送られてくるのです。南水北調では南部で水が潤沢な時期に送水することになっており、既に東ルート取水で上海市の水道取水に塩分が増える副作用が発生しました。南部だって水が有り余っているわけではありません。第402回「南水北調は中国経済成長持続の難題を解けずか」〜大気汚染と並び未来占う鍵〜で、きれいな水と空気が足りないで膨大な数の人が生きていけるか問いかけました。