第458回「STAP『根無し草』報道の始末は付いていない」
STAP細胞騒動は論文作成段階の疑惑を顕在化させず、再現が出来なかった結果だけで幕引きになりつつあります。さらに一つ、科学報道としてのお粗末さにマスメディアが向き合う気が無い点も見逃せない大問題です。論文がネイチャー誌に掲載された免罪符が有るとはいえ、初報段階の理研発表垂れ流し報道は福島原発事故での「大本営発表」報道そのままであり、当然なされるべき科学的裏付けを確認する取材が各社ともありませんでした。その結果、ネット社会の集合知がSTAP疑惑をすっぱ抜き、既存メディアが大きく後れを取る無様な事態になりました。検証実験結果に関連して今日の各社社説が言っている「自戒」で済ませられる程度の過ちではないと指摘します。
1月の発表直後に書かれたNHK解説委員室の《時論公論 「新しい"万能細胞" STAP細胞 可能性と課題」》を見ましょう。当時から不満でしたが、この研究がどのような経緯で生まれたのか、全く書かれていません。ある日突然、小保方氏の頭の中にアイデアが閃いたかのようです。ハーバード大のバカンティ教授の下に留学して手法を学んだことすら書かれていないのです。そのくせ《小保方さんは、趣味はペットとして飼っているカメの世話とショッピング、理科系の女子「リケジョ」の研究成果は、イギリスの科学雑誌「ネイチャー」に掲載されました。STAP細胞は、どんな細胞にもなれる万能性をもっています》との説明が最初に出るのですから、科学の専門記者の仕事かと、我が目を疑いました。
《実験による実証科学では「先行研究群という巨人の肩」に乗って初めて未知の地平が拡大するものです。一人だけで、ある日突然、巨人になることなど無いのです》とは第432回「STAP細胞疑惑=小保方ファンタジーの闇を推理する」で強調した研究の常識です。他社と同じようにNHK解説委員記事も先行研究についても全く触れていません。どこも取材しなかったと判断せざるを得ません。私の科学記者現役時代を振り返ると、あり得ない手抜きです。いや、科学に対する理解が浅すぎます。その後の分子生物学会の否定的反応を見れば、取材の網を広げていれば早い段階で「何かおかしいぞ」と気付き得たでしょう。
小保方氏は早稲田での博士論文の当時から先行研究群の検討を疎かにし、ウェブサイトからのコピーを使って済ませる点に実証科学者として大きな欠陥が見て取れます。
米国で得た思い付きが本物だったらいいな――との願望が事実を歪めていったようです。きちんとした実験ノートを作成しないのですから、実験で得たデータや写真の取り違えや流用は「容易」になります。理研に移ってからも上司・共同研究者の望むデータを出し続け、有能と評価されたと見られます。しかし、これを若手研究者一般にプレッシャが掛かっている世情と同一視してはいけないでしょう。杜撰過ぎる実験ノートがあってこそ可能になるからです。
19日に理研がしたSTAP細胞の検証実験結果記者会見で、論文共著者の丹羽・副検証チームリーダーは論文作成前に「実際にSTAP現象を見たわけですよね」と問われて、こう答えました。「今回、実際に検証してみると、なるほど緑色蛍光は出ます。それが自家蛍光であるかどうかはさておき、です。出るんだけれど、その先の道がなくなった」「見た物は何だったのかとすると、見た物は見た物で、その解釈が変わったというふうに理解している」
小保方氏がどんな実験をしているのか実験ノートで確かめず、鵜呑みだった点が改めて明らかになりました。上記、第432回「STAP細胞疑惑=小保方ファンタジーの闇を推理する」でこう指摘しました。「ハーバードのバカンティ先生の右腕」と言われただけで、小保方氏に「実験ノートを見せなさい」なんて言えなくなったのです。明治以来の輸入学問の伝統から抜け出せない悲しい現状が生んだ悲劇です。
1月の発表直後に書かれたNHK解説委員室の《時論公論 「新しい"万能細胞" STAP細胞 可能性と課題」》を見ましょう。当時から不満でしたが、この研究がどのような経緯で生まれたのか、全く書かれていません。ある日突然、小保方氏の頭の中にアイデアが閃いたかのようです。ハーバード大のバカンティ教授の下に留学して手法を学んだことすら書かれていないのです。そのくせ《小保方さんは、趣味はペットとして飼っているカメの世話とショッピング、理科系の女子「リケジョ」の研究成果は、イギリスの科学雑誌「ネイチャー」に掲載されました。STAP細胞は、どんな細胞にもなれる万能性をもっています》との説明が最初に出るのですから、科学の専門記者の仕事かと、我が目を疑いました。
《実験による実証科学では「先行研究群という巨人の肩」に乗って初めて未知の地平が拡大するものです。一人だけで、ある日突然、巨人になることなど無いのです》とは第432回「STAP細胞疑惑=小保方ファンタジーの闇を推理する」で強調した研究の常識です。他社と同じようにNHK解説委員記事も先行研究についても全く触れていません。どこも取材しなかったと判断せざるを得ません。私の科学記者現役時代を振り返ると、あり得ない手抜きです。いや、科学に対する理解が浅すぎます。その後の分子生物学会の否定的反応を見れば、取材の網を広げていれば早い段階で「何かおかしいぞ」と気付き得たでしょう。
小保方氏は早稲田での博士論文の当時から先行研究群の検討を疎かにし、ウェブサイトからのコピーを使って済ませる点に実証科学者として大きな欠陥が見て取れます。
米国で得た思い付きが本物だったらいいな――との願望が事実を歪めていったようです。きちんとした実験ノートを作成しないのですから、実験で得たデータや写真の取り違えや流用は「容易」になります。理研に移ってからも上司・共同研究者の望むデータを出し続け、有能と評価されたと見られます。しかし、これを若手研究者一般にプレッシャが掛かっている世情と同一視してはいけないでしょう。杜撰過ぎる実験ノートがあってこそ可能になるからです。
19日に理研がしたSTAP細胞の検証実験結果記者会見で、論文共著者の丹羽・副検証チームリーダーは論文作成前に「実際にSTAP現象を見たわけですよね」と問われて、こう答えました。「今回、実際に検証してみると、なるほど緑色蛍光は出ます。それが自家蛍光であるかどうかはさておき、です。出るんだけれど、その先の道がなくなった」「見た物は何だったのかとすると、見た物は見た物で、その解釈が変わったというふうに理解している」
小保方氏がどんな実験をしているのか実験ノートで確かめず、鵜呑みだった点が改めて明らかになりました。上記、第432回「STAP細胞疑惑=小保方ファンタジーの闇を推理する」でこう指摘しました。「ハーバードのバカンティ先生の右腕」と言われただけで、小保方氏に「実験ノートを見せなさい」なんて言えなくなったのです。明治以来の輸入学問の伝統から抜け出せない悲しい現状が生んだ悲劇です。